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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜

怪20

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 開けられた窓から、覆面で顔を隠した男がのっそりと入ってきた。

「あ?」

 メルティの姿を見て、男は不機嫌そうな声を出す。覆面で顔は見えないが、おそらく眉をひそめているのだろう。

「二人でやるなんて聞いてねぇぞ」
「あ! もしかしてショーン?」

 メルティは自分の仲間である騎士団長の子息の名を呼んで男に近寄った。

「窓から入ってくるなんてさすがね! 一緒にあのお高くとまった女を懲らしめてやりましょう!」
「ああ?」
「しっ! 足音だわ!」

 二人分の足音が近づいてくるのに気付いて、メルティは真ん中の個室に飛び込んだ。

「あなたはこっちに隠れて! ほら早く!」

 男はメルティに言われてなんだかよくわからなそうにしながらも右端の個室に隠れて戸を閉めた。
 ほどなく、メルティが思った通り、アメリアの声がトイレに入ってきた。

「あら? 個室が全部閉まっているわ」

 アメリアの不思議そうな声がする。

(ん? 個室は三つあるけど、あたしとショーンの他にも誰かいたの?)

 メルティは首を傾げた。

「どうしましょう、花子さん」
「とりあえず、端からノックしてみたら?」
(え? 誰? クラウスはどうしたのよ?)

 てっきりクラウスがアメリアを連れてきたのだと思ったのに、聞こえてきた知らない少女の声にメルティは焦った。

「失礼いたします」

 アメリアが右端の個室の戸をノックする。コンコン、とノックが返ってきた。
 次いで、メルティが隠れる真ん中の個室もノックされる。メルティもノックを返した。

(ふう……どうしよう。ショーンもいるとはいえ、アメリアともう一人を閉じ込めるのは難しいかもしれないわ。どちらかに逃げられたら困るし)

 メルティがぶつぶつ思案していると、アメリアが左端の個室の戸を叩く音が聞こえた。

「失礼いたします。どなたか、入っていらっしゃいますか?」

 それに応える音はない。

「花子さん、ここかしら?」
「気配がするわ。きっと隠れているのよ。話しかけてみて」

 ハナコとかいう女が「隠れている」と言ったのにぎくりとして、メルティは戸に耳を押し当てて外の様子を探ろうとした。

(何してんのよ! あんたはトイレに閉じ込められるはずだったのに! なんで私の方が個室に隠れてんのよ!? そんで、クラウスはどこ行ったのよ! まったくもう、役立たずなんだから!)

 本人の前では絶対にしない罵倒を心の中でぶつけて、メルティはイライラしながら聞き耳を立てた。




 一方その頃、真実の愛の相手に心の中で役立たずと罵倒された王太子クラウスは、アメリアを探して教室の辺りをうろついていた。

「アメリアの奴、どこに行ったんだ? まったく、この俺に探し回らせるとは、不敬であるぞ!」

 知能指数の著しく低そうな呟きを漏らしながら、クラウスはアメリアの姿を探していた。そこへ、足早に廊下を進む少年の姿をみつけて、クラウスは声を上げた。

「ユリアン!」

 呼び止めると、ユリアンは嫌そうな顔で振り向いた。



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