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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜

怪14

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 登校することを考えるとさすがに憂鬱だった。花子がついてくると言わなければ、登校拒否していたかもしれない。

「馬車の中では姿を消しておくわね」と言っていたので、目には見えないが馬車の中にはアメリアとユリアンの他に花子も乗っているはずだ。
 ユリアンは何故か少し顔色が優れなかった。そういえば、早朝にトイレの方から叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか。

 学園に到着し馬車から降りると、待ちかまえていたかのように下品な嬌声が響いた。

「あ~ら! アメリアさん、来たんですかぁ~? てっきりお休みするかと思ってました~!」
「まったくだ! 面の皮の厚い女だな!」

 何故かアメリアの背後でユリアンが舌打ちした。
 クラウスに肩を抱かれて現れた男爵令嬢メルティに、アメリアはうんざりして無視をしようとした。
 だが、メルティに道をふさがれてしまう。

「待ってください~。私、アメリアさんと仲良くしたいんですよぉ? 今までのことは水に流してあげますからぁ、お友達になりましょ~」
「まったくメルティは優しいな! おい、アメリア! メルティに感謝しろよ!」

 アメリアが何か反応するより早く、どこかからトイレットロールが二巻き飛んできて、メルティとクラウスの顔面にすこんすこーん!とぶつかった。

「ぐぎゃっ」
「ぶぎゅっ」

 二人は無様な声を上げて地面に尻餅をついた。転がったトイレットロールはそんな二人に絡みついていき、二人をぐるぐる巻きにする。

「なっ、なんだこれはっ!?」
「ちょっと! なんなの!?」

 あっという間にトイレットペーパーにぐるぐる巻きにされた二人は、ぎゃあぎゃあと喚いた。
 その騒ぎに、校門近くにいた生徒達が集まってきて、男爵令嬢と共にトイレットペーパーにまみれている王太子を見て唖然とした。
 アメリアの頭の後ろで、くすくすと笑い声がする。

(花子さん……ありがとう)

 アメリアは自分を助けてくれた花子に心の中で礼を言った。

「王太子殿下、ペレディル男爵令嬢。わたくしは既に貴方達とは関係のない人間です。以後はわたくしに関わらないでください」

 必死こいてトイレットペーパーを破る二人に向けて言うと、アメリアはすっとその横を通り過ぎた。

「まっ、待て! アメリア!」

 王太子が声を上げるが、アメリアは振り向かなかった。

「くそっ、あの女……っ!」
「あっ! ユリアンくぅん! たすけてぇ!」

 アメリアに続いて二人の横を通り過ぎようとしたユリアンを見つけて、メルティが手を伸ばす。
 ユリアンは足を止めると冷たい目で二人を見下ろした。

「気安く呼ばないでもらえるか。ペレディル男爵令嬢」
「え……?」
「殿下にもお願いいたします。姉上は昨日をもって殿下の婚約者ではなくなりましたので、以後は「アメリア」とお呼び捨てになさらないように」
「なにぃ?」

 メルティとクラウスはユリアンの態度に目を見開いた。

「ど、どうしちゃったの? ユリアンくん!」
「どうもしない。その呼び方をやめてくれ」
「貴様! メルティになんだその口のききかたは!」

 メルティは瞳を潤ませてユリアンを見上げ、クラウスは怒りの形相で立ち上がる。髪にトイレットペーパーがついているので威厳はないが。

「恐れながら。公爵家の子息である私が、男爵令嬢の気安い呼び方を咎めることが問題でしょうか?」
「ど、どうしちゃったのユリアンくん! アメリアさんに何か言われたのね? そうなんでしょ?」
「黙れ」

 メルティがすがろうと手を伸ばしてきたが、ユリアンはそれを振り払って冷たく言い放った。

「二度と、僕の姉上に近寄るな」

 二人が言葉を失った隙に、ユリアンはさっさと通り過ぎていった。
 ユリアンにとって、クラウスはアメリアを手に入れるための邪魔者であって、メルティは駒でしかなかった。もう使わないのでいらないのである。

(これからは僕が姉上を守らなくては。……そういえば、あのトイレットペーパーはどこから飛んできたんだ?)

 ユリアンは首を捻った。


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