淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

土方・8

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 斎藤が隙を作るのは珍しい。それだけ弱っているという事だ。隙をついて、捻挫して腫れている足首の上に足枷をはめた。ずっと痛かったのだろう。触れれば相当痛い筈の足に触れても、斎藤は無表情のままだった。痛いのが当たり前だから、足枷をはめられている事にすら気付かなかったのだ。両足の自由を奪われて、斎藤は焦ったように俺を見た。
「土方さん、頼む。これを外して、俺に浪士を……」
「駄目だ。今のお前には任せらんねぇ」
「土方さん!」
「駄目だ。お前に死なれたら困るんだよ、俺ぁ」
「俺だってあんたに死なれたら困る!」
「お前さぁ、相棒の事が信じられねぇのか? 試練だよ試練。相棒ってぇのは、どっちかがどっちかを守るようなもんじゃねぇんだ。これは、本当の相棒になるための試練だと思わねぇか?」
「…………」
「ん? なんで黙るんだ?」
「あんたは嘘つきだから、そうやって俺を誤魔化すんだろう。そう言えば、俺が言う事をきくと思ってるのか?」
「……信用ねぇなあ~」
 笑ってみせると、斎藤は自由のきかない足をそのままに、拳を畳に押し付けて頭を下げた。

「御願いします。土方さん。どうか……」
「駄目だっての。お前さ、俺の事、物凄く弱いと思ってねぇか?」
「思ってません。ただ、俺は、あんたを守りたい。命をかけて守りたいだけです」
「あのな……それがお前の相棒としての在り方だってぇんなら、他の奴を探せ。俺ぁそういうのはお断りだ」
「…………」
「お前は、真っ直ぐに気持ちをぶつけすぎる。俺だって、相棒は大切なんだよ。今回は、お前がそんな状態なんだから、俺が頑張るしかねぇだろう?」
「せめて、山﨑さんが戻ってくるまで…………」
「いやぁ、戻ってくるの待ってたら奴等に逃げられちまうかもしれねぇしな。折角の機会を無駄にしたくねぇのよ」
「何故、命がかかったこの時に、そんなに淡々としてられるんだ!」
「お前のが、うつったのかな?」
 斎藤が唇を噛んだ。「なぁ、良い子にして待ってたら、後で遊郭で豪遊させてやるからさ! 俺の奢りだぜぇ? 別嬪さん侍らせて、楽しもうや」
 耳元に息を吹きかける。険しい顔で俺を睨みつけてきた斎藤から、慌てて離れた。
「そんなものは、いらん! 俺は……あんたさえ生きていてくれたら……」
「よぉ、なんか死ぬ事前提みてぇになってるけど、俺ぁ死ぬつもりはねぇぞ」
「せめて、表にいる監察の連中を……」
「嫌だ。そんなに大勢で動いたら、すぐに気付かれて逃げられちまわぁ」
「土方さん、いい加減に……」
「いい加減にするのは、てめぇだ、斎藤。もう行くからな、でかい声で騒ぐなよ。気取られたら、その方が危ねぇ」
「ひじ……ッ!」
「黙れ」

 わざと冷たく言い放つ。斎藤はそれだけで、静かになった。笑ってみせる。また後でな、そう言っても、斎藤はもう反応しなかった。

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