淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

斎藤・1

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 道中、酷い目にあった。

 この季節にしては暑いと感じながら歩いていると、突然の夕立。山道の途中であったので雨宿りをするような場所もなく、びしょ濡れになりながら歩いた。泥濘に足を取られ難儀していると、後ろから大勢の人の気配。気付けば山賊に取り囲まれ、戦う破目になった。

「命が惜しくないならば、かかってくるがいい」

 続けざまに二人斬った。この後に町へおりなければならないので、血飛沫がかからぬよう、細心の注意を払う。刀をまた研ぎに出さなければならない、と舌打ちをしながら下段に構えると、山賊達が息を飲むのがわかった。
「ここ一月、俺はずっと機嫌が悪い。かかってくる者は、皆斬る」

 一歩踏み出す。
 山賊達は、散り散りに逃げ出した。


(少し……喋りすぎたか…………)

 いつもの自分ならば、ただ黙って相手の出方を見、一番楽な方法で事態を収めた事だろう。苛ついている今は、それが出来なかった。相手の出方を見ている余裕がなかった。

(まるで芝居の台詞のようだったではないか。恥ずかしい事、この上ない……)

 溜息をつき、刀を納めた。歩き出そうとした途端、泥濘で足を滑らせ、豪快に転んだ。血飛沫どころの騒ぎではない、泥だらけになった自分に、改めて溜息をついた。

 山をおりると、市井の人々が眉を顰めて俺を見た。なるべく誰とも目を合わせないようにして屯所を目指す。途中、寺の境内で子供と独楽遊びをしていた沖田の姿を見つけた。相手もこちらに気付いたらしく、指を指して笑っていたが、声をかけずに無視をして先を急いだ。

(あの人に早く会わなければ……)

 早く無事を確認しなければ。何時の間にか小走りになっている自分に気付いた。


 気配を殺した。
 まずは、土方の顔が見たかった。建物の裏からまわり、副長室に面している庭を目指した。隊士達は誰も自分に気付かない。山﨑から伝授された気配の殺し方は、大変役に立っていた。

(…………いた)

 縁側に腰をかけ、土方は楽しそうに篩をふるっていた。足元にいつも使用している火鉢を置き、その隣に置いた木箱の中からひしゃくで灰を掬っては、手に持つ篩に載せている。時折、クスリと笑う。なんだ、相棒の俺がいなくとも、楽しくやっているではないかと拗ねるような気持ちになった。

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