淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

土方・4

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(下の方は、細けぇ砂利なんだがな……)

 確かに長火鉢の容積は、手あぶり火鉢のそれに比べて大きい。だが、灰だってタダではない。下に砂利を敷いて上げ底にしてから、くぬぎの灰を足しているのだ。手あぶりと同じ量とまではいかないが、沖田が考えているほど多い量でもないのだが。そんな事を考えながら、五徳を引き抜いた。

 少し風が吹いているが、そよ風程度だ。灰が飛んでしまう恐れは無いだろう。目の粗い篩と細かい篩を二つ用意して、火鉢を縁側に運んだ。空の木箱を足元に置く。大きめのひしゃくで火鉢の灰をすくい、木箱の上で目の粗い篩にかける。全てかけたら、次は細かい篩にかけながら元の火鉢に灰を戻せば、掃除は終了だった。

(案外でかい塵が入ってやがるな……なんだこれぁ、蜜柑の皮なんか突っ込んどきやがって、原田だな……?)

 部屋の片付けなどと違い、こういう仕事は嫌いではない。色々な発見がある度に愉快な気持ちになって、自然微笑みながら掃除をしていた。

「随分とご機嫌じゃねぇか」

 振り返ると、近藤が一張羅を着てニコニコと笑っていた。会津屋敷から戻ってきたところのようだ。
「……別に。機嫌がいいわけじゃねぇよ」
「よく言いやがるぜ。今にも鼻歌ぁ歌いそうな面してやがったくせによ」
「ああ、そうだな、じゃあ機嫌がいいのかもな。あ~あ、楽しくて楽しくて、しょうがねぇや! ……これでいいかよ?」
「……何自棄になってんでぇ」
 困ったような顔をして、頭を掻いている。そのまま、こちらに近寄ってきて隣に腰をおろした。俺は近藤の顔を見ずに、掃除を続けた。
「自棄になんてなってねぇ。俺ぁいつだってこんな調子だろ?」
「近頃おかしいぜ? なんとも不安定だ。アレか? 斎藤が出張してるから…………」

「なんであいつがいねぇと俺が不安定になるんだ」

「おお、おっかねぇ。そんなに睨むなよ。悪かったって」
 ちっとも悪いという顔をせず、近藤は両手を合わせた。再び灰に目をうつす。まだまだ時間がかかりそうだった。隣では近藤が、お前もマメな奴だね、などと言いながら足をブラブラさせている。
「…………なんか用事かよ」
「え? あぁ……邪魔かい?」
「邪魔ってったら邪魔だけど、それより気になるんだよ、なんか言いたそうにしてんじゃねぇか」
「ん? ん~~、あのな、歳」
「なんだよ」
 火鉢から、新しく篩の上に灰を乗せた。
「お前、その、親友になれそうな奴が出来ると弱気になる癖、いい加減に直せよ?」

 カラン

 ひしゃくが地面に落ちた。篩まで落としそうになり、慌てて腕に力を入れる。

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