淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

土方・2

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 少し前、立て続けに狙われた事があった。
 
 一人で捕まってしまい、もう少しで命を落としそうだったその時、斎藤が現れて俺を救った。何人もの見張りがいる中、人質に俺をとられながらもたった一人で乗り込んできた斎藤は、あっという間に男達を斬り捨てた。 
 江戸にいた頃に出会った異常な男が屯所内に入り込んだ時も、あわやのところで斎藤に助けられた。あの、いつもは何を考えているのかさっぱりわからない表情を険しく変化させ、斎藤は俺を怒鳴った。何故見張りをしていた隊士を処分しないのか、と。何故、自分からその隊士を庇うのか、と。
 命を大事にしてくれと懇願された。自分の命に無頓着すぎると。規律を乱した者は、ほんの少しの事でも厳しく罰するくせに、被害を受けたのが自分の時は途端に罰が緩くなる。
 真の相棒になりたいのだ、と。斎藤は、俺を真っ直ぐに見て口にした。俺の中ではとっくのとうに相棒だった。

『山﨑さん達にも頼まれました。貴方が無茶をしないように見張っているようにと。覚悟しておいてください』

 覚悟もなにも、自分としては無茶をしているつもりはない。後悔しないように生きている。死ぬ時は死ぬ、死なない時は死なない。その考えは変わらない。変える事はない。人間土方歳三の美学なのだ。朴念仁には、わかるまい、と溜息をつくと、読めない表情で斎藤は自分の頭を掻いた。
 斎藤は、何故か俺の兄のようなつもりで世話を焼いてくるようになった。近藤も山﨑も、時々それをにやつきながら眺めている。斎藤は、何をそんなに恐れているのか。何をそんなに頼られたいのか。少し距離を置き、頭を冷やしてきてもらおう。そう考えていたところに、幕府の要人を大坂まで護衛する仕事がまわってきた。あちらに到着してからも、色々と世話を焼く必要があるらしい。ひとつき。それが、だいたいの目安だった。

『まあ、少しくらい遅くなってもいいからさ、いい女とでも遊んで来い』

 そう言って渡そうとした十両を、斎藤は手で弾いた。そのまま無言で背を向け、門を出て行ってしまった。そこまで怒る事だったか? 隣で一緒に見送っていた山﨑に尋ねると、『相棒としていつも一緒にいたいのに、突き放されて悲しいんちゃいますか』と答えが返ってきた。

『は? なんで相棒だといつも一緒にいるんだ?』
『へ?』
『護衛じゃなくて相棒だろ? あいつ、あんなに心配性だったか?』
『ああ~……それは、我々監察方のせいかもしれませんね……』

 山﨑達が、俺が無茶をしないように見張ってくれと頼んだのは知っている。監察方はどいつもこいつも過保護すぎる。それに乗ってしまう斎藤も斎藤だ。
 仕事が終われば、怒っていた事も忘れてケロリとして帰ってくるさ、そう自分に言い聞かせ、無理に笑った。

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