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淡々忠勇
斎藤・7
しおりを挟む「男は男に惚れないと思うのか?」
「そうですね。少なくとも、俺は男に惚れられるような男ではない。俺を抱きたいと思う男はいないだろうし……」
「……お前を抱きたいとは誰も思わないだろうな。そうじゃなくて、お前に抱かれたいと思ってる男がいるって事だ」
「それが先ほどの隊士だと?」
「どうだ? 彼を抱きたいと思うか?」
「思いませんね」
「即答だな」
「考えるまでもありませんから。男が抱くのは女と、相場が決まってます。」
「……つまらねぇ男だ……。ま、嫌いじゃねぇけどな。俺だって、抱きたいのは女だし、男に抱かれるなんて御免こうむりたいし」
「あれだけ無理を押し通しておいて嫌いになられたんじゃ、いくら俺でもたまったもんじゃありません」
「無理な仕事だって淡々とこなしてるじゃねぇか」
「どんな風に仕事をしようと、無理なものは無理です」
土方が黙る。形よく整えられた眉がぴくりと動き、俺の顔をまじまじと見つめてきた。笑いたそうな顔で、なかなか口を開かないのに焦れてきた時、プッと噴出し、土方は顎を撫でた。
「……今日は随分喋るじゃねぇか」
「…………それは……」
「それは?」
「……少し、興奮しているのかもしれない。あんなに焦ったのは、生まれて初めてだったので……」
「あ? 何に焦ったんだ?」
「何にって……決まっているだろう! あんた、殺されるかもしれなかったんだぞ!」
思わず、大きな声が出た。目の前の土方も驚いて目を丸くしている。俺は今、どんな顔をしているのだろうか。自分の感情がうまく制御できない。それは生まれて初めて抱く、他人に対する焦れであった。
「…………すまん」
「いえ、こちらこそすみません。少々気が動転しているもので」
「いや……本当に心配かけちまったみたいで……ごめんな?」
手が伸びてくる。頬を、冷たい手の平が覆った。くつくつと、土方が肩を揺らして笑う。
「なんです」
「んん……今度ぁわかったぞ」
「何が」
「お前が怒ったのが、さ」
「怒って喜ばれるとは思わなかった。あんたこそ、読めないです」
「読む必要はねぇのさ」
「貴方もまた、嘘はつかない……と?」
「いいや? 俺ぁ、嘘ばっかりって事さ」
土方が笑った。儚く。まるで消えてしまいそうなその様子に、思わず伸びてしまいそうになった手を、ぎゅうと握り締めた。
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