淡々忠勇

香月しを

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淡々忠勇

斎藤・3

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 後ろ向きの男達を刀で突いていく。あまりにも簡単に訪れた死に、彼等は何を思うだろうか。返り血が目に入った。腰につけた手ぬぐいで、顔を拭く。この着物も手ぬぐいも、もう使い物にならぬ、と舌打ちをした。土方の声が更に大きくなる。中にいる男達の顔が見えた。上気した顔をぶるぶると振りながら、上着を脱いでいる。

「斬ってしまうのは勿体無いな。お前、本当に男か?」
「ふふ~ん、そんなに気になるなら前を寛げて確認してみるか?」

 男達は土方に群がり、体のあちらこちらを触り始めた。真っ白な首筋が見える。そこに口をつけそうになった男を、後ろから突いた。

「ぎゃ!」

 残り四人が、各々の刀に手をかける。抜刀は許さなかった。手首を落とす。土方の体に触れていた手。男達は、悲愴な叫び声をあげた。もう刀を持つ事が出来ない。侍であるのにも関わらず。しかし、そう悲観する事もないのだ。すでに命がないのだから。バタバタと倒れていく男達の向こう側で、土方が不機嫌そうにこちらを見ていた。

「大丈夫ですか?」
「……全部斬っちまいやがって」
「ああ、これから親玉が戻ってくるそうです。監察が動いているから、後はお任せすればいいのではないかと」
「…………なら、いい。世話ぁかけたな」
「ほんとに。あまり無茶をして心配をかけさせないでください」
「心配? したのか、お前が?」
「しましたよ。嘘は嫌いなんでつきません」
「その割には全然慌てた素振りじゃねぇじゃねぇか」
「……慌てるのと心配するのとは、必ずしも一致するとは限りません。慌てたところで貴方が助かるわけでは……」
「ああ、もういい。わかったわかった」
 土方は面倒臭そうに首を横にふると、早く縄を切れと言って体を摺り寄せてきた。ぷつり、と切る。ようやく自由になった手で縄のかかっていた辺りを撫で擦り、土方は溜息をついた。

 袂から、山吹を出す。倒れた男達の亡骸に置き、手を合わせた。
「八重の山吹か」
「ええ、たくさん咲いていたもので」
「朴念仁のお前にしちゃあ、粋な事をするじゃねぇか」
「は?」
「今じゃただの乱暴集団になっちまったが、こいつらも最初は志を持った集まりだったんだろうよ。それが、このざまだ。なんの実もならなかった奴等に手向けってとこだろ?」
「……意味がわかりませんが」
「八重の山吹だろ? 実のねぇ花じゃねぇか」
「そうなんですか?」
「……いい。お前にそういうのを期待した俺が馬鹿だったんだ」



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