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No03 次期君主は山猫を飼い慣らしたい

022 天葬の山へ 2

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 ハオユーは、直接の上司ドウンと、領主の長男ジエンに「僭越ながら」と進言する。
「嘗ての天葬の山に行かれるつもりなら、昔とは違い、今や肉食の鳥だけで無く、肉食の獣の対策も必要となります。シャンマオは山歩きの為に熊に極東の島国の醤油、虎にマタタビ酒、狼に地龍の粉末を準備していたかと思います。後、コレは地元の者の知識ですが…薔薇水と薔薇の香油で回避できるのは天葬の一族と懇意の鳥だけです……。天葬を行う一族が滅んで15年余り経過した今、まだ薔薇水と香油が通用するモノなのか、些か確証が持てません。御再考の程、願います。」

 ハオユーの進言は持ち帰られ、後宮から宮廷を越えた場所にある後宮に近い方[ジエンの離宮]にて、後宮の医局長ジルイを呼んで話し合われる事になった。
「それ、僕を後宮から呼び出してまでする話なのかい?(後宮の外の噂まで真実味が帯びそうで嫌なんだけどなw)」
「父上の元参謀だし、シャンマオを捕まえるのに力貸してくれるって約束だろ?知恵を貸してくれよw」
「知恵と言ってもねぇ~…、戦をやらかしてる時の頃の事しか詳しく知らないよw当時、天葬の鳥を連れた天葬の一族の者は無敵だったって事くらいしかねwwま、取り敢えず、山に居る時の山猫に手を出さない方が良いんじゃ無いかな?ダオレンの寵妃や、宦官の仔猫シャオマオと違って、天葬の一族の生き残りの中でも、シャンマオだけは、今も懇意の鳥を従えているとかw山の方の民の噂では、山の肉食の獣をも惑わせ殺す魔性だとか言うしねw」
ジルイの話で、シャンマオが天葬の一族である可能性を知っていた筈なのに忘れていたジエンとドウン兄弟、本当に知らなかったドウンの部下のハオシュエンとハオユーが驚いている。
それを目の当たりにしたジルイが「ジエン坊ちゃんとドウン坊ちゃんは、シャンマオが何処の子だったか知ってる筈なんだけどねぇ~…」小さく呟いた。

 シャンマオ=[山の肉食の獣をも惑わせ殺す魔性]に付いては、ハオシュエンとハオユーが知っていた。10年以上前、森の中でハオシュエンとハオユー妻子を救ったのがシャンマオなのだと言う。
その当初は、木の上から襲って来る虎にドボドボッと液体を掛け狙われていた者達を連れて逃げる…と言うモノだったのだが…、その後、シャンマオは村に滞在…、村で剣術と武術の指南をしていたハオシュエンとハオユーに弟子入り…、森で増え過ぎてしまって、人を襲う獣の群れの討伐への参加を経て…、実戦的な生き物の殺し方、その後の食肉への解体の仕方を習い…狼の群れから始まり虎に熊と討伐して、シャンマオは名を上げ実力を付けた……。
そして、刈る度に増えた多額の報奨金の所為で、シャンマオ一人、同じ討伐隊に参加した大人の傭兵の者達から狙われ、何時の間にか謂われの無い事柄で標的にされる様になってしまう。仕舞いには酒場での食事中、店内で酔っ払った傭兵に襲われ、シャンマオは自分の身を守る為に数人の大人の男を剣術と体術でいなし、食肉解体の基礎、血抜きの技術を駆使して躊躇無く、襲ってきた者と自分を取り押さえようとした者を分け隔て無く血の海に沈めた。
その文字通り、血の雨の降る中で、周囲の反応に何かを感じて、シャンマオは申し訳なさそうに「ハオシュエン師匠、ハオユー師匠…、迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。」と言って返り血に染まったまま、姿を消してしまうと言う事があるまでの間に、その通り名が付いていたのだそうだ……。

 そんな話を聞く中で、同じ感性を持っているのだろう。ジエンは見た目が綺麗に儚げに…ドウンは鼻を啜り、男泣きに泣いて…「「シャンマオの生い立ちが酷過ぎで、悲し過ぎる」」と同じ事を言って涙を流していた。
ジルイは困った様な表情で「これこれ、坊ちゃん達…、今20歳程度の小娘が、10年以上前に、人を殺すのに躊躇しないで殺して…、迷惑を掛けて申し訳無いって言ったって御話だよwそれって、普通の子供の範囲に無いでしょ?手を出しちゃ駄目な種類の娘さんじゃないかな?」と言う。
ハオシュエンとハオユーも改めて、その事を考えたのだろう。
「あの頃の俺達は、口先だけの擁護で満足して、弟子を…、自分の子供と変わらない年齢の子供を…、大人みたいに扱って、自分等の妻子を護って貰っておいて…、子供だったシャンマオを助けもせずに、一瞬だとしても態度で拒絶し、結局、村から追い出してしまったんだよな……。」
「シャンマオは、そんな俺達を許すだけじゃ無く、今も普通に気遣ってまでくれてるのにな」
何故か、異常さより、昔の出来事に対する後悔を今更募らせている様子だった。

ジルイだけは一人冷静に…[心の何処かに欠落が生じた人間を…時期君主となるジエンの嫁に迎えて良いのだろうか?]と真剣に考え……。
「俺が、シャンマオを嫁にして、愛情を掛けて甘やかして、今までの不幸分、絶対に幸せにしてやらなきゃいけないよな♪」とジエンが息巻いている為、(これ、反対したらしただけ、余計に燃え上がってしまうんだろうな…、駄目と言うのと、シャンマオに情操教育施すの…、どちらが大変なんだろうか?)と、ジルイを悩ますのであった。
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