上 下
4 / 55
No01 プロローグ 天葬の一族の最期

004 天葬の一族の最期

しおりを挟む
 その日の朝は、空気澄み渡る快晴の青空。シャンマオは微熱残る双子の兄シーツーの為に夜明け前から野生の小さな果実を集め…、一部をジエンの為に布で包み「薬、もう少し分けて貰えないか頼みに行ってくる」と言い…、「今日は珍しく素直だな…、何時もなら何か言い訳するのに……」とシーツーに言われて照れた風に頬を染めた……。

 シーツーは苦笑いを浮かべ、少し寂しそうに「行っても良いけど…、浮気するなよ……。」と言って送り出す。シャンマオは普通に笑って「何だよそれw私の唯一無二は、シーツーだけだろ?ちゃんと帰ってくるから、今夜また、熱が上がらない様に体を休めておいてくれよww」と言って、保護区の山を村までの下山した。それから警備兵に遭遇しない様に注意しながら歩き出す。

 後少しで山並みから村への目印となる沈黙の塔が見える位置まで来ると、何時も遠くから聞こえて来る筈の鳥の声が無く、妙に静まり返り、微かな木々の騒めきだけがシャンマオを迎えてくれた。妙に嫌な予感がして、村を見渡せる高い樹木のある場所まで走ると、その途中で、小高い丘の上にある二基一対の沈黙の塔から、噴火する火山の如くに煙が立ち昇っているのが見えた。
「は?何これ?!有り得ないんですけど!!」
沈黙の塔は、火気厳禁。乾燥した人だったモノの油分、それを食べた鳥の乾燥した糞は、思った以上に燃えやすいからだ。
シャンマオ達は、鳥葬できない御遺体を天葬する時の経験から…、乾燥させた御遺体と同じく、それ等も怖いくらい燃える事を皆が知っていて…、静電気や何かの自然発火にも気を配り、火気には神経質で、村の住人の消防活動には怒号が飛び交うのが当たり前だった……。なのに今回、その怒号すらも聞こえて来ない。静か過ぎる。村に異変があったであろう事は確実だった。

 シャンマオは情報を得る為、手近な木に登り、木を渡り、村を見渡せる高い樹木の上へ登って村を見下ろす。都会育ちであろう豪華な制服を着用した警備兵達からシャンマオの姿を確認する事は出来ないだろうが…山育ちのシャンマオには、そこに存在する光景が余す事無く良く見える……。村人を紐で繋いだ警備兵の口の動きから推測するに、領主様の命令で動いている御様子だ。
(シーが危ないかもしれない。)
シャンマオは、体調の悪い双子の兄シーツーを人里離れた山中の保護区まで歩かせた父親の部下である神官の顔と、自分達の居場所を知るジエンの事を思い出し…、どちらかが口を滑らせる可能性を危惧して、枝を渡りながら木を降り、来た道を急いで引き返す……。

 そして、保護区に戻った時には、紐で縛られたシーツーが馬車に積み込まれている所だった。シャンマオに気付いたシーツーは首を横に軽くゆっくり振り、その後、目と視線で『逃げろ』と合図する。

・・・この後、幸か不幸か私は…、シーツーを拉致した馬車を追い掛け、取り返そうとしていた為に、難を逃れ…、孤児とはなったが、一人、生き延びてしまった……。・・・

 何の手段も無く、馬車を追うだけ追って…、追い付けなくて、馬車を見失って…、シャンマオは、まだ日の高い内に村へと戻る事になった……。その時には、朝、快晴だった空は、[沈黙の塔から昇った煙]に呼ばれ来た雨雲に覆い尽くされ、この地では珍しく雨を降らせていた。
乾燥の激しい山間部の辺境の地と言う立地の為に家は石造り…、燃える物が少なくて、村は殆ど焼かれずに残り…、雨の所為で積み上げられた首無し死体も、少し焦げている部分もあるが、殆ど焼かれずに、そのままその場に置かれている……。

 シャンマオは暫く、その場に立ち尽くしていた。
その内に死体を前にしたシャンマオに対し、肉食の鳥達が「歌わないのか?」と声を掛けてきた。(これは、幻聴だろうか?)「雨で歌い辛いなら、傘になってやろうw」5歳のシャンマオより大きな鳥達が、大きな黒い翼でシャンマオを雨から護ってくれる。(ヤバイ…幻も見えてるかもしれない。)こうして歌を催促されたシャンマオは(まぁ~、夢でも幻覚でも、やるべき仕事は一緒か…)鳥達に促され、一族に伝わる鎮魂歌を歌い始めた。
歌を聞き付け、村に残っていたらしき兵士が、金品を物色する為の手を止め、シャンマオを捕獲しようと縄を持ってやって来る。その時も、鳥達はシャンマオを護ってくれた。
(何て、リアルにスプラッターな夢なんだろう…、目が覚めたらシーに話して見ようかな?いや、でもこれ…無駄に心配させる事になるか?黙っていた方が良いかも?)

 生きたまま首無し死体と一緒に天葬される男達の悲鳴は、暫く山中に轟いていた。シャンマオは、鳥達総出の天葬が終わるまで歌い続け、鳥達に自宅へ送って貰って、その日は、何も考えず眠りに付く。
(あの出来事は、夢だったのだろうか?)翌朝、焼け焦げた沈黙の塔、家捜しされた後の少し焦げた家は存在したが…、雨で流されてしまったのか?何処かの誰かの死を意味する血の跡も、その死の痕跡すらも村には存在しなかった。
一つだけ確かな事は…、シャンマオが村に一人だけ取り残されてしまったと言う現実だけだったのだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

黒縁メガネの先生と、下着モデルの女子高生

桐嶋いろは
恋愛
※再編集しました※ 幼い頃に父を亡くした菜奈。母は大手下着会社の社長で、みんなに内緒で顏出しNGの下着モデルをやっている。スタイル抜群の彼女はある日の帰り道、高校生に絡まれ困っていると、黒縁メガネにスーツの黒髪イケメンに助けられる。その人はなんとマンションの隣に住む人で・・・さらに・・・入学する高校の担任の先生だった・・・!? 年上の教師に、どんどん大人にされていく。キスもその先も・・・・ でも、先生と生徒の恋愛は許されない。無理に幼馴染を好きになる。 何度も離れながらも本当に愛しているのは・・・

大好きな人が義兄になりました♡

もか♡
恋愛
同級生の蓮也に2年間片想いをしている萌恋、勇気を振り絞って告白をしたが、結果は惨敗。 そんな日に不仲だった両親が離婚し、弟は母に、萌恋は父に引き取られた。 その後直ぐに父が再婚相手を連れてきて⎯⎯

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

処理中です...