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No01 プロローグ 天葬の一族の最期

002 出会い

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 人間、急いでいたり用事のある時に限って、厄介事に遭遇するモノらしい。

 今回の葬儀の御客様、又は参列者様は、よっぽど位の高い人間らしい。村の自衛団員の数を倍以上に超える人員、豪華な制服を着用した警備兵の多さの御陰で、シャンマオは家に帰る為だけに何度も迂回して遠回りする事を強いられていた。
そして家に帰っても、買い置きの薬は前日に使い切っており…、自分で薬を買いに行く事もできない……。同じ村の住人に頼みたくても、警備兵の目を盗んで村人に接触する事も出来そうに無い。更に、家の裏の井戸に兵士が居たので、新鮮な井戸水を汲むのを諦めならなければならなかった。
シャンマオは色々な事を諦めて、蓋付きの酒用の瓶に水瓶の水を詰め、持ち手付きの籠に保存食と一緒入れ、一番大きな毛布を片手に、又もや何度も迂回して、肉食の鳥の保護区にある小屋に戻ろうとしていた。その道程で運悪く、シャンマオは領主の息子『ジエン』に出会ってしまったのだった。

・・・私は何故、あの時、領主の息子なんて生き物に声を掛けてしまったのだろう。コッソリ覗き見て、[金持ち]なら大丈夫と判断して、あのまま放置したとしても、領主の息子の不在に気付いた兵士が探し、その内に発見して保護した事だろうに…、今思えば、この出会いを後悔してもし足り無い……。・・・

 兵士を避けて山道を迂回する内にシャンマオは崖の方まで移動していた。そこで啜り泣く様な声を耳にして立ち止まる。地元の者なら、一人では近付かない場所だ。この崖、それなりに美味い野生の芋は取れるのだが…如何いかんせん崩れやすくて危険極まりない……。
足を滑らせて落ちると、一人では上に登るのは難しく、崖下は狼の縄張り。出血する様な怪我でもしてたら、血のニオイで狼が崖上までやって来てくれ、一緒に崖下まで御案内。崖下まで行ってしまうと狼さんの群れの御飯になってしまうのだ。(早くシーの所に戻りたいけど…、啜り泣きの声からして、落ちたのは子供か?放置したら寝覚めの悪い事になりそうだな……。)
シャンマオは(もしかしたら、参列者に振る舞う料理が尽きてしまって、食材採取に来た使用人の子供とかが落ちてしまったのかもしれない。)と、時々ある事例を思い浮かべ、持っていた荷物を木の根元に置き、芋を採取する時に使う[片方の端を木の幹に結び付けたロープ]を肩に掛けて、崖下を覗き込んだ。
案の定、崖の中腹で縮こまって泣いている子供の姿がある。シャンマオが「おい!怪我は無いか?」と声を掛けてみたら…、シャンマオより幾らか年上で、明らか、見るからに金持ちそうな身形みなりのお兄ちゃんが驚いた顔をしてシャンマオを見返し、慌てた様子で目を袖で擦り「怪我は無い。誰か大人を呼んで来て貰えないだろうか?」と言う。これは、シャンマオにとって、何の意無くても不都合極まりない現実だった。
シャンマオは前髪を掻き上げ、一回天を仰いで溜息を吐き、金持ちそうな身形の兄ちゃんの近くにロープを投げ下ろしてから「それは無理な相談だ。悪いがコッチは内緒で出歩いてんだよ。怪我が無いなら、そのロープ使って自力で登って来てくれw」と言って立ち去る事を選んだ。

(無駄な道草に時間を使ってしまった。そうでなくても、警備兵の巡回を避けて迂回を繰り返してるから、小屋に帰るのが遅くなってるってのに!)
荷物を両手に抱えたシャンマオは、地域の獣と、来客者が連れてきた警備兵の動きに注意を払いながら、駆け足でシーツーの元へと急ぐ。

 そうこうして、人里離れた山の上の方にある肉食の鳥の保護区の小さな小屋に戻ると、シーツーの体調は思っていた通り悪化していた。家から持ち出した水の量では足りず。シャンマオは家から持ち出した毛布でシーツーを包み、家の水瓶の水を空にする勢いで家と小屋を往復する事となる。
その結果…、シーツーの体調は持ち直したのだが…、シャンマオは、木の幹に結ばれたロープを投げ渡すと言う助け船を出した相手に捕まり、少し面倒に思える事となるのだった。

・・・村を滅ぼされた時の事を思えば…、2度目に会った時にでも、彼を本気で殺しておけば良かったのかもしれない……。あの再会は、正直、面白くもない、笑えない未来に繋がっている。・・・
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