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 足の治療の為、エーピオテースに寄って連れ出された湖を一望できるテラス席。エリニュエスは、何時もの事ながら諦めて靴を脱がされ靴擦れを治療され、エーピオテースの所為で木から落ちて大怪我した時の事を思い出す。
その時もエーピオテースは空回りし、エリニュエスを苦笑させていた。御陰で今回も自然とエリニュエスは笑っていた。エーピオテースも笑い。互いに笑い合っていた。このまま2人の関係が続いていたのならば、恋の一つでも互いに実らせていたかも知れないのだが、それを原作主人公であるフィリアの動向が許さなかった。

 ダンスフロアに響く悲鳴。エーピオテースに引き留められても「私は騎士だ!騎士職が逃げ隠れして如何する」と走り出すエリニュエス。
エリニュエスは女物のオシャレ靴では上手く走れなくて、まず靴を捨てた。建物の中には複数の魔物の姿。ドレスを纏うエリニュエスには帯剣が許されず武器が無くて銀の燭台と言う名の鈍器を手に獲物をまずは1匹仕留める。そして、帯剣を許されておきながら、腰を抜かし婚約者すら守れない男達から剣を奪い、動きを制限するドレスの長袖と長い裾を破り捨てた。

 身体強化をメインに戦うエリニュエスの四肢には無駄な筋肉も無駄な贅肉も無く、日に焼ける事も無くて白く細く程良く引き締まり、体の動きはしなやかで目の保養に成ったのだろう。場違いな言葉を漏らす男共を量産し、エリニュエスを幻滅させた。
更に残念な事に…、学園のみの訓練で騎士を目指した者達は対人戦ばかりを学んだのだろう、騎士を目指す者達の中に魔物の討伐に向いた者はおらず…手を貸してくれるのは、向き不向きがあって弱いながらもエーピオテースのみ…誰も居ないよりはマシだが、物凄く気は散った…魔物の気も散っていたから+-0かもしれない知れないが……。

 まぁ、良かった事は、実戦経験豊富な同じ騎士職のアレークトーと合流する頃には、優秀な新旧生徒会メンバーの御陰で避難誘導が行われ、戦いやすいステージが組み上がりつつある事くらい。
取り敢えず、気が散るのは頂けないので「エーピオテース様!私が安心して戦えるよう、ティシーを…、ティシー嬢とメラ嬢の安全確保を御願いします!」と避難誘導側の陣営にエーピオテースを押し付ける事にする。

 この時、エリニュエスを心配してと言うか…エリニュエスの格好が宜しくないと判断したのだろう。新旧生徒会メンバー皆が皆、エリニュエスの世話を焼き、その御陰で行方不明と成っていたフィリアの位置が殺気に寄って掴め、エリニュエスに事の真相を理解させる。
「あのクソアマ、魅了で魔物を操りやったな…」
但し、状況証拠だけで物証や言訳できない証拠はまだ、何所にも無い。のだが…、名案が浮かぶ……。
「ん?って事は…、メラ嬢!今すぐ、旧品の不味い万能薬手配して!」
「それなら、手配しなくても多分あるわ!パーティーでは泥酔者用に不味い方を常備する方向で宣伝してて、酒樽に少量タイプの試供品を付けて売って貰ってるから!」
「マジでか…」と酒樽を見に行ったら、十分な本数手に入った。

 この後…魔物の討伐では無く…「これ、普通は魔物に通用する対処法では無いからね」と言いながら…、魔物を建物の外側に誘導し、建物側から魔物の口の中に向かって不味い万能薬をびちゃびちゃに染み込ませた布玉を投げ込む…と言う作業に移行し…、騒動は収束へと向かう……。

 そうこうしてでの最後の1匹は中型の魔物。エリニュエスとアレークトーが大物を相手にしてたのが終わり、一息付いて戻ろうとしている時に、羽の生えた魔物を湖が一望できるテラス部分に追いやる事が出来ていた。
ここで油断をしてしまったのだろう。「あの魔物の羽の皮膜、エリスが欲しがっていた素材ではありませんか?エリスへのプレゼントにしましょう!外でなら雷の魔法が使えますわ」と、皆が止めるのも聞かずティーシポネーが外へ出てしまった。

 フィリアの遠距離からでの指示で、唐突に狙われ捕らえられ、テラスの手摺に向けて頭から落とされるティーシポネー…、彼女は騒ぎを聞き付けてやって来たエリニュエスに寄って救われ、一緒に落ち掛け「受け取れ!」とエーピオテースに向かって投げられて助かり…、魔物はテラスの上でアレークトーに寄って討伐される。

 その後に響いた大きな水音、大きな水の波紋。静まり返る月明かりに照らされたテラス。この時、誰が一番、青ざめた事だろう。遠くで誰かさんが大喜びした事だろう。
「この高さから落ちてしまっては、どんな身体強化魔法を使っていたとしても助からない」と誰かが言った。

 ティーシポネーの願いで、夜の内から出された捜索隊。だが、湖に落ちたエリニュエスが発見される事は無く、その痕跡すら見付ける事が出来ないまま捜索は一週間後、国王の命令で打ち切られる。
その序でに発見されたフィリアは証拠と成る記録水晶を魅了した者に奪わせたらしく、何も知らない貴族達を味方に付け過去の罪を冤罪だと主張したが…、証拠の予備は存在し、前回は教会側が内密にして欲しいと願ったので小規模な裁判で済まされていたが…、今回は大規模に成り、罪状に脱走・隠蔽・詐欺が追加され、殆どの貴族が、その罪を知る事と成った上で、元聖女フィリアには国外追放が言い渡された……。

 そしてフィリアは、卒業パーティーへの魔物乱入事件の容疑者と言う可能性を残したまま、誰にも見送られる事も無く、他国の教会へと移送されて行ったと言う。
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