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 時が経つにつれて、音を言葉を記憶する魔石の数が増えて行く。証拠と成る会話が、どんどん集まって行く。無駄に、積み重ねられて行く。中には国家転覆でも目論んでいるかの様な言葉まで出てきたが…、その言葉の御蔭で、繰り返し繰り返し、繰り返しの中でファータの為に尽力していた彼には、ファータが狙っている攻略対象の正体が見えて来た……。

 ファータは、その攻略対象と出会う為に、どうやってでも、王族と御近付きに成らなければイケナカッタのだろう。どうしても攻略したい攻略対象がいたのだから、王族ですら踏み台でしかなかったのだろう。彼は自嘲気味に笑い、逆にファータの心の隙に入り込み、繰り返し繰り返しの中でしてきた様に「僕は君の為に何ができるだろうか?」と完全に魅了されている振りをして、少しづつ希望を与え、少しづつ願いを引き出し、仲間の力を借りて偽り含みで叶えて行った。

 その効果もあってファータは、どの攻略対象よりも攻略したい攻略対象と出会える可能性を感じ取ったのだろう。偽物の公爵令息を演じる彼の気持ちも知らないで、ファータは本当の笑顔を見せる様に成る。今まで作り笑いしか向けて貰えなかった彼が、何時もとは違う本気の笑顔を見せられ、どんな思いをしたか?どんな気持ちに成ったか?想像できるだろうか?
喜び浮かれ、相手を完全に操れていると思い込んだ者の目は節穴と成り、操っている相手の気持ちに鈍感に成るモノなのだろう。そして、隠しても隠し切れない滲み出る気持ちは、疑いの目を持った相手に簡単に見透かされてしまう事をファータは、まだ知らない。

 恋心とは何て醜悪で愚かなモノなのだろうか?恋心から変異した憎しみや憎悪はどれ程に強いモノなのだろうか?化かし合いは、物語のエンディングまで続いて行く。

 ファータが、どの攻略対象よりも攻略したい攻略対象へのツテを手に入れたと信じた途端、メイン攻略対象は勿論、他の攻略対象への攻略の手が周囲も気が付く程に完全に止まった。
凡てを知る者は不思議に思い動き出し、情報を手に入れる為に見張っていた罠を仕掛けるグループのリーダーへと接触する。その話を聞いて、その後ろ盾に表立って付き、ファータが心から求めているであろう攻略対象の事を知り、凡てを知る者自らが暗躍を始める。

 手始めにファータが心の底から求める攻略対象に、ファータのしてきた事、手段・手管を証拠付きで手渡し熟読させ、国家転覆を狙う悪者を掴まえる名目で[偽物の公爵令息]の[幼馴染]として出動させたのだ。
本命の攻略対象と出会ったファータは、偽物の公爵令息の目の前で、誰が見ても理解できるくらい目を輝かせていた事だろう。紛い物の幼馴染を紹介する偽物の公爵令息である彼が、どんな思いをして、どんな気持ちに成ったのかも知らないで、ファータは心の底から本気で喜んだ事だろう。

 偽物の公爵令息の紛い物の幼馴染に対し、ファータが[内緒の相談]を持ち掛けたのは、出会ったその日、彼が故意に一時的に席を外して、そんなに時間が経っていない時の事であった。
この繰り返しで対象が魅了される事は無いが、少しづつ魅了されている演技をする最中の魅了されていない状態。ファータが心の底から求めているその攻略対象にとっては、どんなにその言葉が白々しく聞こえた事だろう。それでも、任務を遂行する為に存在する訓練を受けた攻略対象は、ファータと言う名のターゲットを泳がせる為だけに親身に成ってファータの話を聞く振りをしていた。
その話の中で、偽物の公爵令息を貶める言葉を吐くファータに、偽物の公爵令息は何を思っただろうか?話は全て、音や言葉を記憶する魔石を通して筒抜けなのである。彼の握り締め白く成った手が言い知れぬ憤りを物語っていた。

 事前に準備された断罪の刻は刻々と近付いて行く。ただ実質、今回の繰り返しでのファータは偽物である有力者の男を誘惑し、その偽の婚約者の悪い噂を流しただけの為、大した罪には問われない。言葉の証拠は重たいが、悪女であると言う事だけで、罪に問える罪は少ないのだ。だから大事にするのは憚られ、今までの繰り返し繰り返しで傷付けられてきた者達の憂さを晴らす程度の事ですら、できそうにもない。仕方無しに卒業式でネタ晴らしをし、影武者替わりに偽物の公爵令息を演じていた彼と、その偽の婚約者を紹介。彼と同僚の女性の功績で不正が幾つが発覚し、処罰された者が出た事を説明して、彼と同僚の女性を簡単に表彰し、一番功績を上げた彼に褒賞を与え卒業式は締め括られた。

 結果、訳が分からず卒業式の間、呆然とするファータ。何で?如何して?如何いう事?と自問自答した事だろう。
卒業式の後「何よコレ、如何なってるの?」と動揺しているファータに、彼は詰め寄られる事に成る。大した罪に問う事が出来ずに終わり任務を終えた人達。ファータが心の底から求める攻略対象と、その婚約者である偽物の公爵令息の婚約者役だった同僚の女性は二人仲良く既に、この時、蔭に帰り蔭として姿を消している。
御蔭でファータが心のから求める攻略対象の手がかりは、ファータにとって、もう彼しか残っていなかった。

 ファータは繰り返し繰り返し「彼は何処!答えなさい!」「ねぇ!彼は何処に行ってしまったの?」と命令口調で問う。必死なファータに対し、彼は冷めた目でファータを見て鼻で笑い、笑顔で「知らないよ」とだけ答える。その態度に憤りながら、[従わない=彼が自分に魅了されていない事]にやっと気付いたファータは、偽物の公爵令息に騙されたと怒って泣き叫ぶ、そのファータの姿は、想像よりも醜いモノだった。

 但し、ここまで来てもファータは、自分が今までの繰り返しでしてきた事を悔やまない御様子だ。自分で騙されて辛い体験をしても、自分が騙してきた相手の事やその気持ちは考えられないのだろう。そう言う人種だ。きっと、ファータなら、後からでも、傷付けた相手に申し訳ないと思う事も、相手に謝罪したいと思う事も無い筈だ。
だからファータは、偽物の公爵令息に成ってでも、ファータと交流する事を選んだ彼に、聞こえるのも気にせず「次の繰り返しでは、騙されない!今度は王道の逆ハーエンドで彼を攻略するんだから」と吐き捨てた。

 それが彼に取って衝撃的で、とても嫌な事だった。もう一度ファータに、やり直させる何て事は如何しても、如何やっても、如何頑張っても許せなかったのだろう。
彼は諦めたつもりでも心の何処かで、何時かファータが自分だけを見てくれる時が来るのではないか?と期待してしまっていたらしい。彼は天を仰ぎ片手で両目を押さえ肩を震わせ静かに笑い出す。癇癪を起していた涙目のファータは、彼の行動が気に入らず「煩い!笑うな!!全部アンタの所為なんだからね!」と怒鳴りつける。すると彼はすっと笑うのを止め、静かに冷たく「一番悪いのは君だろ?」と言って物語を終わらせ覚悟を決めた。ファータヒロインさえ、存在しなければ繰り返しの物語は繰り返される事は無い筈なのである。

 先程手に入れた物。凡てを知る者、学園の創設者でもある国王から与えられた褒賞品がココで役に立つ事だろう。それが凡てを知る者に寄って仕掛けられた罠であっても構わない。と彼は思った。
そう思ったのだ。彼は嘗て、とても愛しく思っていたファータに対し、優しい笑顔を向けゆっくり歩いて近付いて行く。ファータは異変に気付いて鳥肌を立て後退り、彼の笑顔に言い知れぬ恐怖を感じ振り返って「何で?如何して、こう成るのよ!」と言って、その場から逃げ出した。

 気が付くと怖くて恐ろしくて息を切らし必死で走っていた。スピードが落ちると、何かが背中に触れかけた感覚があった。追い付かれ掛けたのだと恐怖し、決死の覚悟で走るスピードを上げる。続いて、後ろ髪を何かに引っ張られ掛けた感覚を感じ、恐怖でまた落ちかけたスピードを上げて走り出す。気付けば、何処を如何やって逃げていたのだろうか?見た事も無い様な木々が生い茂る場所を走っていた。踏み締めた腐葉土が滑り足を取られ掛ける。木の根に引っ掛かりかけて転びそうに成る。その度に静かに笑う様な息遣いが聞こえて来た気がして鳥肌が立った。
開けた場所を探し、風景を見て草木が生える場所に無理やり分け入った。草木の葉や枝が肌に触れ傷を作った。まだ自分に触れてはいないけど後ろから熱い息遣い。生暖かい手の感触を感じた。
心臓が止まるような恐怖。息を飲み込み、必死に暴れ逃れてまた走り出した。
どんなに走っても追い掛けて来る足音。振り返らずとも追い掛けられている事が分かる。振り返れば速度が落ち、追い付かれてしまうかもしれ、そんな感じをさせる足音がずっと追い掛けて来ている。息切れと疲労感が重なり苦しいのだが、時に服を引っ張られ掛ける感覚、腕や手を掴まれ掛ける感覚が襲って来て、やっぱり死に物狂いで必死で走って逃げるしかなかった。

 はてさて、その感覚は実物なのだろうか?人間、そんなに走り続ける事は出来ない。校内で走り回って行き止まりに辿り着く事無く、誰とも遭遇する事が無いってのも変な御話だ。と言っても、もう彼女は、その事に気付けない。
自分がやらかして来た事の責任から逃げ続けるのならば…、何で走って逃げてるかも忘れてずっと逃げ回っていれば良いと、彼が思ったから…、繰り返し繰り返す世界を彼女だけに押し付け、自分が抱えた愛憎と一緒に封じ込めて…、彼は繰り返しの無い世界で、最後の繰り返しにて得た友人達と再出発する事にしたのだ……。これでもう、この先、巻き戻って学園でヒロイン万歳な物語が物語られる事は無いであろう。と、彼は信じたであろう。

 リセットされた学園。貴族だけの学園では無く成りながらも、本来の学園の姿を取り戻した学園。その頂点に君臨する凡てを知る者が今、何を考えているかも…知らないで……。
繰り返し繰り返し彼に植え付けられた彼の自分自身の思いが、思い出させられる様な貪欲な子女がまた、学園へ入学して来る可能性が無い事は無いと思いもしないで、彼は新たな生活に身を投じる。
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