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 メイドの案内で、僕は魔法使いが療養する部屋まで行った。そこには宰相様と大盾さん、そしてメイドさんの言っていた通り、魔王討伐の旅に参加していた僧侶さんの姿もあった。が、僕が記憶している魔法使いの姿が無かった。
但し、部屋に配置された唯一のベットには、魔法使いに似た雰囲気の女性が横たわっている。一瞬、メイドが案内する部屋を間違えたのか?と思ったのだが、間違っていなかった。これは、僧侶が魔法使いに対して[魔力酔い]と言う状態異常の緩和処置を行った結果らしい。

 怪我や毒に麻痺は、回復ポーションや魔法で簡単に治せても、病気や中毒症状に対しては回復ポーションが使えず。病気には民間療法か、投薬療法。中毒症状には…、上位の回復職しか使えない状態異常の緩和処置しかないのだそうだが……。
「魔法使いさんって、日常的に誤認識を引き起こす魔法を重ね掛けしてたんですね…、魔力回復ポーションの中毒を緩和させようと魔力の溜まった部分を循環させたら…(誤認識を引き起こす魔法が)解けてしまいました…、どうしましょう……」との事だ。因みに、魔法使いが女性である事を最初から知っていたのは僧侶だけだった。僧侶さんは、魔法使いを凛々しい女性と言う枠繰りで認識していたらしい。

 ここで大盾さんが「行く先々で一番良い夜の蝶を確実に御持ち帰りしてたから男だとばかり…」と、僕も御持ち帰りその事に関しては同意見だったが、ここで僕等は余計な事を口走ってしまっていたみたいだ。

「夜の蝶?蛾とかですか?それは魔術に使う媒介とかかもですね」
幸い、純粋培養の僧侶には通じていないのが救いだったけど、宰相様は夜の蝶の意味を知っていて「オマエ等は旅先で何をしていたんだ」と呟き溜息を吐く。魔法使いの方は夜の蝶を相手に何をしていたか不明(魔法使い談「避妊薬や堕胎薬、性病の治療薬の販売ですけど何か?」)、だけど、勇者の方は何か相応のサービスを受けていたであろう事は間違い無い。
この事は、勇者に幻想を抱いている僧侶さんには黙って置こう。と思った。

 序にその時、僕は魔法使いに意識がある事に気が付いた。
一瞬だけ目が合い。魔法使いは僕に何か言いたそうな顔をしてから、目を閉じる。その後、俗に言う狸寝入りと言うヤツで、魔法使いは宰相様にも大盾さんにも、勿論、僧侶さんにだって起きている事を気付かせる事は無かった。

 その間に宰相様は、魔法使いの事を僕等に対して勝手に話し出す。
魔法使いが…、勇者率いる魔王討伐の参加者に選ばれ…、魔法使いへの人質として、この国の国王が[魔法使いの大切な人達]を管理する事に成り…全滅させた御話だ……。僕等はそこで、魔法使いが大切にしていた人々の悲しい過去と末路を知った。

 魔法使いを含む魔法使いの大切な人達は[魔女]と呼ばれるまじない等の呪術や占い、御守りを作る等の付与術特化の魔法を扱う一族の者を中心に、他国で行われていた[魔女狩り]から逃げ延びた者や孤児が集まり、結果的に女子供を中心として集合していた集団。魔女として狩られる事の無い場所を求めて旅する移民の集団だったらしい。
だけども、他国へ難民として助けを求める事を選ぶ事無く、気高く、自分達の力で生きる為に金を稼ぐ旅芸人の一座であり、屋台で食べ物を売り、手作りの装飾品や御呪おまじないアイテムを売り、土産物を売る旅の行商人の御一行でもあったと言う。

 そんな人々が人質として捕らえられ、魔法使いが魔王討伐に出た後は…、最初に、何の為の人質なのかを忘れた国王自ら…奇麗所に手を出し…結果的に死なせ…、国王に従い一緒に魔法使いから人質を取った国王派閥の者達も、魔法使いとの約束を忘れ…魔女狩りをしている国との外交の為に…人質である筈の者達の大半を魔女として処刑されると分かって引き渡した…、人質を預かった国王派閥の者の領地の兵士が、人質を犯罪奴隷だと思い込み…使い潰してしまった事もあったらしい……。

 そう言う理由で、大所帯なのだから1人くらい減っても良いだろう。2人くらいなら大丈夫だろう。を繰り返して過失で殺し、王国を護る為に仕方が無かったと言い訳して、預かった人質を死地へ送って殺し、預かる為に必要に成った資金をケチッた為に奴隷として死なせ、魔法使いが魔王討伐を終え帰って来た時に人質と成っていた筈の者達は誰一人として生き残っていなかった。

 国王派が破天荒である。とは言っても、それ程にまで愚かでは無いであろう。と信じて任せ「そう言えば人質は如何しているのかな?」と人質の今を確認した者。結果を知った国王派閥に属さない別の会派所属であった担当者は、肝を冷やした事だろう。如何やって誤魔化すか?何時まで誤魔化し切れるか?と思案し、実行し続けて来たっぽい。

 最近まで嘘が書かれた正式な筈の報告書だけを受け取り、自分が属する派閥の者達や、自分の身内から示された報告書を信じていた宰相様も、魔王討伐の旅から魔法使いが帰って来たのに、魔法使いへの人質が解放されていない事を不審に思い。調査を外部委託して、最近、真実を知ったそうだ。
だから、宰相様は魔法使いに謝罪する為、自分で動いて再調査し、自分の身内がやらかした偽証も調べ上げ、須らく証拠や偽証の証拠までもを揃え、纏めて上げていた。
その為であろう。上手に隠せてはいるが、化粧で隠した目の下の隈や酷い顔色、時々見せる苦痛・苦悩の表情で、宰相様の苦労や心労が伝わって来る。

 それにしたって酷い話だ。全財産取り上げられ、約束を反故にされ、持ち歩いていた財産より少ない金貨だけ渡されて城を追い出され、命を狙われた僕と、どっちが不幸だろうか?
取り敢えず。怒りや憤り、憎しみや悲しみは、僕より魔法使いの方が上である事は確かだ。

 この夜、僕は軽い気持ちで魔法使いが療養している部屋を秘密裏に訪問して、憔悴した魔法使いと話をした。魔法使いは「私は何故に魔王討伐の旅に参加して、魔王の領地に住む人や魔王軍で働いていた人、そして魔王の人を何の為に殺して帰って来たんだろうね」と言っていた。
山賊と共生していた村を村民諸共消してしまっても罪悪感を感じないのに…、そちらは後悔するのか…と思ったが…、魔法使いは他国にて、魔女は魔族の一種であると主張をされ…人間に狩られる立場に置かれた経験があると今日…僕は知り…、その経験からか?魔法使いが人間と魔族は似た様なモノと思っていると理解でき…、魔法使いが、魔王の領地に住むを自分達とは少しだけ違う人種の人と認識して…魔族も同じ人間だと考えているのだと思い至った……。

 と、言う事で、魔法使いは犯罪者を殺しても人殺しと認識しないが、普通に生きている魔族を殺せば、人殺しと認識して罪悪感を覚えるのだろう。
まぁ、確かに僕も、魔王討伐の為に向かった先で、仲間を護る為に戦いを挑んで来た幼い者を討伐するのに、罪悪感を感じた事はある。当時は、そこを深く考えては戦えなく成って自分が殺される立場に立たされる事に成る為、自分の気持ちをも無視して殺したが、今思えば魔王討伐って、少数精鋭で城に押し入り略奪の限りを尽くし、抵抗した者を殺して回る大規模な強盗殺人みたいなモノだった気がする。多分これは、気の所為では無い。

 魔族が国を挙げて人間の国を侵略していた事実は無く、人間を攻撃して来ていたのは人間側にも存在する野党や山賊の類だ。だから、逆の事例もあった事だろう。寧ろ、事ある毎に勇者を選出し、魔王を討伐して来た人間側の方が質が悪い。

 だから、魔王討伐の旅から帰って来て、気付かぬ振りをしていた真実に気付いた…今更乍らの話…、勇者に魔王を討伐する力なんて無ければ良かったのに…、と思ってしまう……。

 魔王討伐の旅の間、魔法使いが顔を隠していたのは[寝返る事を前提としていたから]と、魔法使い自身が言っていた。若しかしたら、魔王討伐の旅の間、ずっと寝返って人質を救出できるか?を見極めていたのかもしれない。
結局は救出を諦めて…、人質を取った者の要求を呑み、魔王の討伐に手を貸し…、帰らぬ人質が無事でない事を悔やみ憤り、悲しむだけに終わっただけだけど……。世の中、本当に酷い話ばかりだと僕は思う。
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