上 下
4 / 59

04 ドラゴンズマウンテン

しおりを挟む
【ミステイク・ド失敗竜ラゴンの討伐に向かう前に買い物をおすすめします】

 スリサズの中では完全にミステイク・ドラゴンで登録されたらしい。
 訂正しそうにもないので放っておくことにした。

「そうだな。一人でドラゴン退治するには今の装備じゃ心もとないし」
【それもありますが、まずは八百屋さんに向かってください】
「八百屋だあ? 食料には困ってないぞ」
【先ほども言いましたが、私の張り付いているリンゴが傷んできており、電力供給に支障が出ています。このままではあと約45分で省電力モードに移行し、全機能が仮停止状態になります】
「あー……つまり生きてられないってことか?」
【理解力の向上が見られますね。SNSで褒めておいてあげましょう】
「見殺しにしてやろうか」

 うっとうしい声が無くなるのは歓迎だが、この機械が教えてくれる情報のおかげで当座の金が手に入り、トントン拍子に仕事にありつけたのも事実だ。
 俺はしぶしぶ代わりの果物電池?を探すために八百屋に向かった。

「買うのはリンゴじゃなくてもいいのか?」
【基本的には果物なら問題ありません。果物以外では例えばジャガイモからも電力は取れます。どれでもいいから早くしてくだ…サイ。…時間が…あり…ま…セン】

 スリサズの声がザラつき、尻すぼみに小さくなっていく。なるほど、本当に弱っているようだ。
 俺はとりあえず目についたレモンを買ってみた。
 深い考えはなかったがリンゴより軽いから持ち運ぶには便利だろう。

【私をリンゴから取り…外シ…12秒以内に電極を…交換用電池…に刺しこんでく…だ…サ…ィ……】
「ん……こうか?」

 俺はリンゴに刺さっている虫のような四本の足を引っこ抜き、買ったばかりのレモンに一本づつ刺し直していく。

【システムの再起動を行います】

 急にスリサズの声が明瞭になり、白いボディに埋まった目玉が点滅しながらグルグルと動く。

【電池交換に要した時間は17秒でした。あなたのおかげでストレージ内の一部にある某国の核開発に関する最高軍事機密情報が消去されました】
「それはなによりだな」
【これは褒め言葉ではありません】



 俺は誘拐少女の父親から貰った謝礼金を使って武器や消耗品を調達し、いよいよドラゴンのいる山の麓へやってきた。

【この山の標高は1,152M、それほど高くはありませんが今の季節は霧がかっていて登山には不向きです。交易路に使われているコースから逸れると、遭難の危険が高まります】
「ドラゴンが出るのはどの辺だ?」
【ほぼ山頂付近の霧が濃い場所です。あなたの年齢であれば休憩や水分補給の時間を平均より多くとることを推奨します】
「俺は年寄りじゃない」

 俺はそう言いながら足早に山を登り始める。

【ペースを落としてください。指示に従わなければ山岳遭難発生件数の高齢者の項目に加算することになりますよ】
「うるさい、黙ってろ」

 ますます年寄り扱いしてくるスリサズの言葉にムキになって、さらにスピードを上げて登り続ける。
 おかげで無駄に疲れたが、予定より早くドラゴンの目撃された地点である山頂付近までたどり着くことができた。

「ゼェゼェ……どうだ、ポンコツ」
【あなたの年齢の平均必要時間を大きく下回っていますね。身体能力のデータを再入力しておきましょう。それと、あなたは天邪鬼な人間だとSNSに書いておきます】

 俺は水筒の水をラッパ飲みしながら、周囲に目を配る。
 山頂付近は静寂に包まれ、視界は霧で霞んでいたが、ドラゴンのような巨体が近くにいればすぐに分かるだろう。

【周囲に巨大な熱源は検知されていません。小動物は何匹かいるようですが】
「そうか」

 視界が利かなくてもこれならドラゴンに不意打ちを食らうこともないだろう。
 いちいち癪に障る物言いを気にしなければ、これほど便利なアイテムもない。

【但し、我々のいる反対側、下りの方から複数の熱源が集団で山頂に向かって来ています。人間が四人と馬が一頭、馬の呼吸の荒れ方から約150kgの貨物を積載していると思われます】
「なんだと?」

 スリサズの口ぶりから、おそらく商人のキャラバンのようだった。
 ドラゴンが出るという話を聞いていないのか、それとも他の町にはまだ情報が伝わっていなかったのか。
 いつ現れてもおかしくない状況で、視界の利かない霧の中を通り過ぎるのは危険が大きすぎる。
 運んでいる荷物の中に食料があれば、なおさら格好の獲物だ。

「場所を教えろ」
【このまま直線距離で約300m先です。しかし気をつけてください。まだ遥か上空ですが巨大な熱源の存在を感知しました】

 俺は手遅れにならないことを祈りながら、商人の一団を止めるために山の反対側へ走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

処理中です...