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3章瓶 僕と彼女のすれ違い
⁇杯目 〜閑話〜 願い事(2)
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「センパイ! 見てください! わたあめ、焼きそば、金魚掬い! 沢山ありますよ!」
さっきまで無言だった愛理は、祭り会場に足を踏み入れた途端はしゃぎ出す。せっかく清楚で大人な女性感が溢れていたのに……と思いながらも、はぐれない様についていく。
「センパイ、射的上手でしたよね?」
「最近やってないから知らん」
「大丈夫です! センパイなら出来ます! じゃ、あれ取ってくださいね!」
そう言われ指を刺された物に目を向けると、大きなPOPで
【取れるもんなら取ってみろ!】
と煽り文句を書かれた、最新型のゲーム機がある。定価で買うと、諭吉さんが五~六人飛んで行くほどの高価なものだ。それを見て、俺は愛理に言う。
「正気か? 流石にあれは無理だぞ?」
「やる前から諦めるんですか? 諦めたらそこで試合終了ですよ。ってどこかの先生が言ってるじゃないですか! センパイなら出来ます!」
「それは、漫画の世界の話だろ!」
「いや、私の担任言ってました!」
「じゃあそれは影響されてるわ!」
「ま、いいからいいから! ふぁいと~! センパ~イ!」
POPに煽られ、愛理にも煽られるがまま俺は特賞のそれに向かって構える。球は三発。風向き角度、空気抵抗全てを計算して一発目を放つ。一発目は、特賞の箱の右上押して少し後ろにずらす様に狙った。
────ドン
鈍い音と共に、箱が少し後ろにずれる。狙い通りだ。続けて二、三発目を放つ。二発目で左側を押し出し、最後の三発目で落とし切る計算だ。さて、今だな……
と思った時だった。
「センパイ! それ落としたら、────してあげます……!」
愛理が耳元で囁いた。俺は、一瞬耳を疑ったが気を取り直して狙おうとした。しかし、そう甘くはなかった。銃の先に付いていた球がなくなっている。前を向くと店主めがけて飛んでいた。
邪魔をされた文句を言おうと、愛理の方を向来ながら言う。
「何であんなこと言うんだよ……本気の相手意外に言っちゃダメだぞ? 俺だから良かったものの、他の男子は愛理に言われたら本気にするからな?」
「…………やっぱりそうですよね」
愛理はそう言うと、どこかへ向かって走り出す。俺は必死に追いかけて手を掴む。
「こんな人がいる中で、一人で走り出すな。何かあったらどうすんだよ」
「…………すみません。……少しお花摘みに行ってきます」
「了解。近くで待ってるから一人で行くな」
「……はい」
俺の言葉に受け答えする愛理は、どこか悲しそうに見えた。だが、その理由を聞くことは俺には出来なかった……
頭のどこかで聞いたらダメ。と言われているみたいで…………
愛理がお手洗いに行っている間、昔の七夕祭りの風景が突然頭に浮かんで来る。
────五年前
「センパイ! 何を願いましたか?」
「……ば、ばかっ! これは人に見られちゃいけないんだぞ!」
「いや、七夕にそんなの聞いた事ないですよ? いい夢を見た時は、誰かに言うと叶わないとは聞いたことありますけど……」
「今年からそうなったの!」
「あー、はいはい。センパイのことだから、女の子にモテますように。とか童貞丸出しの願い事なんですね!」
「…………ち、ちげーし!」
この時の俺は、必死に願い事を隠した。
『高校では彼女が出来ますように N.K』
なんて書いているもんだから。図星を突いてきた愛理にだけは、バレたくなくて必死に隠した。何としても見ようとしてくる愛理の短冊を覗き見る。そこには……
『センパイに友達ができますように 鈴本愛理』
と書かれていた。俺は思わず口に出して言ってしまう。
「お前に心配されなくとも友達くらいいるわ!」
「あー! 私の見ましたね? センパイのもいい加減見せてください!」
「うるせえ! 俺のはいいんだよ!」
「もう観念してください!」
「わかったよ。愛理が大きくなりますようにって書いたんだ!」
「なんなんですか! その無駄に強調されたものは? 何に対して言ってますか? 潰しますか?」
「何言ってんのかな? 俺は愛理が心の大きな人間になれる様に書いたんだぞ? それと、潰すとかはやめようか? 愛理は女の子なんだぞ?」
「うるさいです!」
あの時はこんな感じに、言い合いして終わったんだったな。と、思い出していると声が聞こえた。
「センパイ! お待たせしました! さ、短冊書きに行きましょう!」
「お、おう」
お手洗いから戻ってきた愛理は、いつもの愛理に戻っていた。正確には、いつも通りに振る舞っている。なんだろうけど、俺は深く聞く事ができなかった。
そして、短冊に書く。
『記憶が全て戻ります様に 根暗陰雄』
と。
◇◇◇
「はぁ……」
私は、お手洗いで一人ため息を零す。センパイの何気なく言ったことが、ずっとつっかえている。私があんなことを言うのがいけないのだが…………
射的をやっているセンパイに耳打ちした時の事。
「センパイ! 落としたら、キスしてあげます……」
どうしてこんなことを言ってしまったのかわからない。ただ、気づいたら言ってしまっていた。今日はそんなことを考えない。そう決めていたはずなのに……
と、自責の念に苛まれていた私は、ふと昔の七夕祭りでの出来事が頭に過る。
センパイの隠す短冊を見ようとした時の事。その時にセンパイに短冊を見られてしまったんだよなぁと振り返る。だけどセンパイは知らない。あの時私が短冊を二枚書いていたことを……
一枚はわざと見せるために、『センパイに友達ができますように』と書いた。本命である二枚目は…………
『いつかセンパイに気持ちが伝わりますように 鈴本愛理』
思い出した私は、思わず笑ってしまう。だって、やっと気づいたと思った気持ちが、過去の私はとっくに知っていたんだもん。全て思い出した。あの後のセンパイに色々起こって、自らその気持ちを封印してしまっていた事を…………
どこかスッキリした私は、センパイの元へ戻り言う。
「センパイ! お待たせしました! さ、短冊書きに行きましょう!」
と。
そして私は、短冊に書く。今年も二枚書く。
『センパイの記憶が戻って、しっかり仲直りができます様に 鈴本愛理』
もう一枚は、家に帰ってから書こうと思う。
『記憶を戻したセンパイに好きになってもらえます様に 鈴本愛理』
と。
さっきまで無言だった愛理は、祭り会場に足を踏み入れた途端はしゃぎ出す。せっかく清楚で大人な女性感が溢れていたのに……と思いながらも、はぐれない様についていく。
「センパイ、射的上手でしたよね?」
「最近やってないから知らん」
「大丈夫です! センパイなら出来ます! じゃ、あれ取ってくださいね!」
そう言われ指を刺された物に目を向けると、大きなPOPで
【取れるもんなら取ってみろ!】
と煽り文句を書かれた、最新型のゲーム機がある。定価で買うと、諭吉さんが五~六人飛んで行くほどの高価なものだ。それを見て、俺は愛理に言う。
「正気か? 流石にあれは無理だぞ?」
「やる前から諦めるんですか? 諦めたらそこで試合終了ですよ。ってどこかの先生が言ってるじゃないですか! センパイなら出来ます!」
「それは、漫画の世界の話だろ!」
「いや、私の担任言ってました!」
「じゃあそれは影響されてるわ!」
「ま、いいからいいから! ふぁいと~! センパ~イ!」
POPに煽られ、愛理にも煽られるがまま俺は特賞のそれに向かって構える。球は三発。風向き角度、空気抵抗全てを計算して一発目を放つ。一発目は、特賞の箱の右上押して少し後ろにずらす様に狙った。
────ドン
鈍い音と共に、箱が少し後ろにずれる。狙い通りだ。続けて二、三発目を放つ。二発目で左側を押し出し、最後の三発目で落とし切る計算だ。さて、今だな……
と思った時だった。
「センパイ! それ落としたら、────してあげます……!」
愛理が耳元で囁いた。俺は、一瞬耳を疑ったが気を取り直して狙おうとした。しかし、そう甘くはなかった。銃の先に付いていた球がなくなっている。前を向くと店主めがけて飛んでいた。
邪魔をされた文句を言おうと、愛理の方を向来ながら言う。
「何であんなこと言うんだよ……本気の相手意外に言っちゃダメだぞ? 俺だから良かったものの、他の男子は愛理に言われたら本気にするからな?」
「…………やっぱりそうですよね」
愛理はそう言うと、どこかへ向かって走り出す。俺は必死に追いかけて手を掴む。
「こんな人がいる中で、一人で走り出すな。何かあったらどうすんだよ」
「…………すみません。……少しお花摘みに行ってきます」
「了解。近くで待ってるから一人で行くな」
「……はい」
俺の言葉に受け答えする愛理は、どこか悲しそうに見えた。だが、その理由を聞くことは俺には出来なかった……
頭のどこかで聞いたらダメ。と言われているみたいで…………
愛理がお手洗いに行っている間、昔の七夕祭りの風景が突然頭に浮かんで来る。
────五年前
「センパイ! 何を願いましたか?」
「……ば、ばかっ! これは人に見られちゃいけないんだぞ!」
「いや、七夕にそんなの聞いた事ないですよ? いい夢を見た時は、誰かに言うと叶わないとは聞いたことありますけど……」
「今年からそうなったの!」
「あー、はいはい。センパイのことだから、女の子にモテますように。とか童貞丸出しの願い事なんですね!」
「…………ち、ちげーし!」
この時の俺は、必死に願い事を隠した。
『高校では彼女が出来ますように N.K』
なんて書いているもんだから。図星を突いてきた愛理にだけは、バレたくなくて必死に隠した。何としても見ようとしてくる愛理の短冊を覗き見る。そこには……
『センパイに友達ができますように 鈴本愛理』
と書かれていた。俺は思わず口に出して言ってしまう。
「お前に心配されなくとも友達くらいいるわ!」
「あー! 私の見ましたね? センパイのもいい加減見せてください!」
「うるせえ! 俺のはいいんだよ!」
「もう観念してください!」
「わかったよ。愛理が大きくなりますようにって書いたんだ!」
「なんなんですか! その無駄に強調されたものは? 何に対して言ってますか? 潰しますか?」
「何言ってんのかな? 俺は愛理が心の大きな人間になれる様に書いたんだぞ? それと、潰すとかはやめようか? 愛理は女の子なんだぞ?」
「うるさいです!」
あの時はこんな感じに、言い合いして終わったんだったな。と、思い出していると声が聞こえた。
「センパイ! お待たせしました! さ、短冊書きに行きましょう!」
「お、おう」
お手洗いから戻ってきた愛理は、いつもの愛理に戻っていた。正確には、いつも通りに振る舞っている。なんだろうけど、俺は深く聞く事ができなかった。
そして、短冊に書く。
『記憶が全て戻ります様に 根暗陰雄』
と。
◇◇◇
「はぁ……」
私は、お手洗いで一人ため息を零す。センパイの何気なく言ったことが、ずっとつっかえている。私があんなことを言うのがいけないのだが…………
射的をやっているセンパイに耳打ちした時の事。
「センパイ! 落としたら、キスしてあげます……」
どうしてこんなことを言ってしまったのかわからない。ただ、気づいたら言ってしまっていた。今日はそんなことを考えない。そう決めていたはずなのに……
と、自責の念に苛まれていた私は、ふと昔の七夕祭りでの出来事が頭に過る。
センパイの隠す短冊を見ようとした時の事。その時にセンパイに短冊を見られてしまったんだよなぁと振り返る。だけどセンパイは知らない。あの時私が短冊を二枚書いていたことを……
一枚はわざと見せるために、『センパイに友達ができますように』と書いた。本命である二枚目は…………
『いつかセンパイに気持ちが伝わりますように 鈴本愛理』
思い出した私は、思わず笑ってしまう。だって、やっと気づいたと思った気持ちが、過去の私はとっくに知っていたんだもん。全て思い出した。あの後のセンパイに色々起こって、自らその気持ちを封印してしまっていた事を…………
どこかスッキリした私は、センパイの元へ戻り言う。
「センパイ! お待たせしました! さ、短冊書きに行きましょう!」
と。
そして私は、短冊に書く。今年も二枚書く。
『センパイの記憶が戻って、しっかり仲直りができます様に 鈴本愛理』
もう一枚は、家に帰ってから書こうと思う。
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と。
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