10 / 18
覚醒?
しおりを挟む
―――朝。
俺の気分は今にも胃に穴が開きそうなほど暗く沈んでいる。悩みが多すぎて。
結局一睡もできずに朝食を食べるため食堂へやってきたのだが
「ハイネだけまた居ないな。どうしたんだ?」
席についてるのは、ジンとリアの二人。
俺も椅子に座り、食事が運ばれてくるのを待つ。我が家では、必ず食事は家族全員でと決まっている。だが、ハイネの姿が見当たらない。昨晩の夕食にも顔を出さなかった。
「お父さんが、ハイネお兄ちゃんを追い出すとか言ったから、顔を出しづらいんでしょ!」
リアがそう発言する。不満を示すためか俺にそっぽを向むけると、リアのおさげ髪がブンブンと揺れた。
「そう怒るな。あれは仕方のないことだったんだ。許せ」
「いいやっ、発言を撤回するまで絶対に許さないからね。いい? ハイネお兄ちゃんは将来リアと結婚するのっ。幸せな家庭を築くんだから、一生家を出ていく日はありませんーっだ!」
「お前な……もう十五だろ。兄弟で結婚だなんて、いつまで子供みたいなこと言ってるんだ」
非現実的な発言をするリアは、俺にとって初めての娘ということもあり、存分に甘やかせて育てた記憶がある。
ハイネも似たような気持ちだったのか、初めての妹で親子そろって、蝶よ花よと可愛がった結果、とんでもないブラコンが爆誕してしまった。
「家族とか兄弟とか関係ないし、愛はどんな障害でも乗り越えるものだし」
「はあ、勘弁してくれよ。ジンも何か言ってくれ。リアは俺のいうことにまるで耳を貸さない」
「ふうん」
ジンが考え込むように、あごに手を添える。ジンは今年で二十歳になる我が家の頼れる長男。
身長も既に俺を追い抜き、手足も長くモデル体型の美男子。いずれ領主の立場を引き継ぐジンには、他の兄弟よりも厳しく育ててきた。自頭も良く、今では仕事関連について色々相談に乗ってもらっている。
「父上の言う通りだ。もう子供ではない。そろそろ分別のある行動を心がけるべきだ」
「おお分かってくれるか。兄弟でなんてやはり間違っている」
「ええ、血縁者同士で子供を産むのリスクが高すぎる。だから結婚するにしても軽いスキンシップに程度に留めた方が良いかもしれませんね」
「いや、ジン、お前さあ、そういうことじゃなくてな……はあ」
そうだった。コイツも兄弟に対しては激アマだった。
つまり、相談するだけ無駄。普段は真面目で良い奴なんだが、なぜかハイネやリアのことになると、視野が究極に狭くなるのが珠に瑕だ。ハイネもちょっと変だし、我が家でまともなのは俺くらいか。
「それはそうと、ハイネが食堂に現れないのは、単純に殴られ過ぎて口の中が痛いからごはん食べれないそうですよ」
とジンが教えてくれる。
「ええ!? お父さんまた、殴ったの!? しっんじらんない! リアが看病してあげないと」
「それには及ばない。セレンが付きっきりで面倒をみてくれてる」
「なんだ。それならよかったわ。セレンがいるなら安心ね。お父さんが近くにいたら、ハイネお兄ちゃんの身がもたないもの」
いや、むしろハイネをそこまで痛めつけたのはセレンの方だぞ。俺は途中で怖くなって止めたのに。
「けれど、ハイネも父上にしぼられて随分と心を入れ替えたらしい。今は一分一秒を無駄にするのが惜しいと言って、厳しい鍛錬を己に課していたよ」
「なにっ!? それは本当か!」
ジンの言葉で、俺は椅子から立ち上がる。
「ええ、『ついに目が覚めた』と言ってました」
「おお!」
なんたることだ!
ついに目覚めたか! もしハイネが勇者にならなかったら、この先どうなるのか不安で仕方なかったが、息子は己の使命に気が付いたようだ。
結局、親が子を思い通りにするのは土台無理な話だったということ。自然と子供は親の背中を追い抜いて成長していくらしい。
なんか急に一日がバラ色に見えてきたぞ。
「それで、ハイネは今どこにいる!? 道場か? それとも修練場か? 頑張っているなら、一言ぐらい声をかけてあげないとな。食事も忘れる程熱中してるなら、差し入れも必要か!」
パンパンと手を叩く
「マーヤはいるか!? 料理長に豪華な馳走を用意させよ!」
「落ち着いてください父上。ハイネは道場にも修練場にもおりません」
「なに、それではどこに? まさか滝行でもしてのるか?」
「そんなまさか。普通に資料室ですよ」
「し、資料室? なぜそのような奇怪な場所に。室内で剣など振り回しては危ないだろ」
「わっはっは、父上こそ奇妙なことをいいますな。なぜハイネが剣を持つ前提なので?」
「それはお前が、ハイネが戦士として『目覚めた』と言ったからであろう!」
「とんだ早とちりだ。いいですか、ハイネが言ってたのは戦士に『目覚めた』のではなく……文官としてですよ」
「はあああああああ!?」
「父上にどうすれば認めて貰えるか悩んだ末にだした答えみたいですよ。わっはっは流石は我が弟、無属性と宣告された翌日に立直れるとは素晴らしい……って父上どこにいくのです!?」
「あの馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は全速力で資料室に駆け出していた。
俺の気分は今にも胃に穴が開きそうなほど暗く沈んでいる。悩みが多すぎて。
結局一睡もできずに朝食を食べるため食堂へやってきたのだが
「ハイネだけまた居ないな。どうしたんだ?」
席についてるのは、ジンとリアの二人。
俺も椅子に座り、食事が運ばれてくるのを待つ。我が家では、必ず食事は家族全員でと決まっている。だが、ハイネの姿が見当たらない。昨晩の夕食にも顔を出さなかった。
「お父さんが、ハイネお兄ちゃんを追い出すとか言ったから、顔を出しづらいんでしょ!」
リアがそう発言する。不満を示すためか俺にそっぽを向むけると、リアのおさげ髪がブンブンと揺れた。
「そう怒るな。あれは仕方のないことだったんだ。許せ」
「いいやっ、発言を撤回するまで絶対に許さないからね。いい? ハイネお兄ちゃんは将来リアと結婚するのっ。幸せな家庭を築くんだから、一生家を出ていく日はありませんーっだ!」
「お前な……もう十五だろ。兄弟で結婚だなんて、いつまで子供みたいなこと言ってるんだ」
非現実的な発言をするリアは、俺にとって初めての娘ということもあり、存分に甘やかせて育てた記憶がある。
ハイネも似たような気持ちだったのか、初めての妹で親子そろって、蝶よ花よと可愛がった結果、とんでもないブラコンが爆誕してしまった。
「家族とか兄弟とか関係ないし、愛はどんな障害でも乗り越えるものだし」
「はあ、勘弁してくれよ。ジンも何か言ってくれ。リアは俺のいうことにまるで耳を貸さない」
「ふうん」
ジンが考え込むように、あごに手を添える。ジンは今年で二十歳になる我が家の頼れる長男。
身長も既に俺を追い抜き、手足も長くモデル体型の美男子。いずれ領主の立場を引き継ぐジンには、他の兄弟よりも厳しく育ててきた。自頭も良く、今では仕事関連について色々相談に乗ってもらっている。
「父上の言う通りだ。もう子供ではない。そろそろ分別のある行動を心がけるべきだ」
「おお分かってくれるか。兄弟でなんてやはり間違っている」
「ええ、血縁者同士で子供を産むのリスクが高すぎる。だから結婚するにしても軽いスキンシップに程度に留めた方が良いかもしれませんね」
「いや、ジン、お前さあ、そういうことじゃなくてな……はあ」
そうだった。コイツも兄弟に対しては激アマだった。
つまり、相談するだけ無駄。普段は真面目で良い奴なんだが、なぜかハイネやリアのことになると、視野が究極に狭くなるのが珠に瑕だ。ハイネもちょっと変だし、我が家でまともなのは俺くらいか。
「それはそうと、ハイネが食堂に現れないのは、単純に殴られ過ぎて口の中が痛いからごはん食べれないそうですよ」
とジンが教えてくれる。
「ええ!? お父さんまた、殴ったの!? しっんじらんない! リアが看病してあげないと」
「それには及ばない。セレンが付きっきりで面倒をみてくれてる」
「なんだ。それならよかったわ。セレンがいるなら安心ね。お父さんが近くにいたら、ハイネお兄ちゃんの身がもたないもの」
いや、むしろハイネをそこまで痛めつけたのはセレンの方だぞ。俺は途中で怖くなって止めたのに。
「けれど、ハイネも父上にしぼられて随分と心を入れ替えたらしい。今は一分一秒を無駄にするのが惜しいと言って、厳しい鍛錬を己に課していたよ」
「なにっ!? それは本当か!」
ジンの言葉で、俺は椅子から立ち上がる。
「ええ、『ついに目が覚めた』と言ってました」
「おお!」
なんたることだ!
ついに目覚めたか! もしハイネが勇者にならなかったら、この先どうなるのか不安で仕方なかったが、息子は己の使命に気が付いたようだ。
結局、親が子を思い通りにするのは土台無理な話だったということ。自然と子供は親の背中を追い抜いて成長していくらしい。
なんか急に一日がバラ色に見えてきたぞ。
「それで、ハイネは今どこにいる!? 道場か? それとも修練場か? 頑張っているなら、一言ぐらい声をかけてあげないとな。食事も忘れる程熱中してるなら、差し入れも必要か!」
パンパンと手を叩く
「マーヤはいるか!? 料理長に豪華な馳走を用意させよ!」
「落ち着いてください父上。ハイネは道場にも修練場にもおりません」
「なに、それではどこに? まさか滝行でもしてのるか?」
「そんなまさか。普通に資料室ですよ」
「し、資料室? なぜそのような奇怪な場所に。室内で剣など振り回しては危ないだろ」
「わっはっは、父上こそ奇妙なことをいいますな。なぜハイネが剣を持つ前提なので?」
「それはお前が、ハイネが戦士として『目覚めた』と言ったからであろう!」
「とんだ早とちりだ。いいですか、ハイネが言ってたのは戦士に『目覚めた』のではなく……文官としてですよ」
「はあああああああ!?」
「父上にどうすれば認めて貰えるか悩んだ末にだした答えみたいですよ。わっはっは流石は我が弟、無属性と宣告された翌日に立直れるとは素晴らしい……って父上どこにいくのです!?」
「あの馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は全速力で資料室に駆け出していた。
1
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!
石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり!
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。
だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。
『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。
此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に
前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。
【R18】私はお父さんの性処理係
神通百力
恋愛
麗華は寝ていたが、誰かが乳房を揉んでいることに気付き、ゆっくりと目を開けた。父親が鼻息を荒くし、麗華の乳房を揉んでいた。父親は麗華が起きたことに気付くと、ズボンとパンティーを脱がし、オマンコを広げるように命令した。稲凪七衣名義でノクターンノベルズにも投稿しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる