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「だぁれだぁぁ! 俺様の眠りを妨げクソはぁぁ!!」

野太い声で、祭壇の中央で叫ぶ巨漢の魔族。かつて魔大陸で破壊の限りを尽して、多くの魔族から恐れられた存在。ギガント族の孤高の猛獣ギガンテス・・・・

「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」

 僕は焦ってどうすればいいかパニックになる。
だから起こすなって言ったのに言わんこっちゃない。こうなったらどうしようもない。

今は敵とか味方とかどうでもいい。すぐに脱出して近隣住民を避難させないと大変なことになるぞ。下手をしたら大勢の死人がでてしまうかもしれない。
僕は驚いて動けないエミリアに声をかける。

「おい、一時休戦だ。急いで逃げるぞ!」

「・・・一体なんなのだ。貴方といい、あの魔族といい、常識から外れ過ぎだっ! おかしいだろっ、この圧迫死しそうなほどのオーラは異常だぞ!?」

動転したエミリアに襟首をつかまれて強く揺さぶられる。
冒険者の筋力でそんな事されると、僕の脳がシェイクされて蕩けそうになるからやめて欲しい。死・・死ぬぅ・・・。

「と、とりあえず逃げないと!!!」

「で、でもフローラが・・・」

エミリアが、壁に衝突したフローラを探し始める。すると、壁の砕けた瓦礫の中から、ゴホゴホとせき込むフローラが立ち上がる。
流石、Aクラスの冒険者。寝起きで力が乗っていなかったとはいえ、あの攻撃を喰らっても死んではいない。僕がギガンテス君のパンチを受けていたら、多分壁に衝突する前に、色んな物飛び散らかして消滅していたと思う。いや間違いないね。
エミリアとフローラは、お互いに顔を合わせて素早く頷くと、全速力で出口に向かって駆けだした。

おいぃぃぃぃぃぃぃ!?
声かけてあげたのに薄情すぎん? 僕を置いていくなっ! むしろ抱えてけっ!!!
二人の背中を追うように僕も後に縋ろうとするが、残酷で無慈悲な怒鳴り声が発せられる。

「クソがァァ、一人も逃がさねえぞぉ!!!!」

咄嗟に後ろを振り向くと、ギガンテス君が地面を殴りつけていた。
そして、それと同時にグラグラと部屋が揺れて崩壊を始める。僕等が逃げようとしていた出口に繋がる通路の天井が陥落して、行き止まりになってしまった。
あぶない、危うく瓦礫の下敷きになり死ぬところだった・・・
退路を断たれてエミリアも動転する。

「嘘嘘嘘嘘!!! どうすればいいのフローラ!!??」

「お、落ち着け・・・・そうだっ、部屋の天井が崩れかかっているから、破壊してそあこから外にでるぞ!」

「そ、そうねっ、よしっ、死者よ焼き尽くせ!!・・・ってあれ?」

命令をとばしても、ファイアーボールが現れる気配はない。
エミリアはなんで?っと何度も呪文を唱えるけど変化は訪れなかった・・・

「どうしてっ! 死者よっ・・ってあれ?・・死者よ・・・・どこ?」

僕はとても気まずかったけど、現実を教えてあげる為、混乱しているエミリアの肩をツンと叩く。そして一点を指さしてあげた。

「死者・・・・・あそこ」

「えっ・・・・ええええええええええええ!?」

そこにはギガンテス君にマウントをとられてサンドバック状態の魔族のゾンビさんがいた。もういろんな所がぐっちゃぐっちゃにされて原型がない。

「ふう、とんだ雑魚だぜぇ」

ギガンテス君はゾンビさんを倒すと、一仕事終えたとでも言うように額の汗を拭いすがすがしい顔をする。
ギガンテス君・・・・・それだよ、それ。僕が普段から君に求めている姿は。
なぜ寝起きで出来て、日常生活で活かせない? 絶対わざとサボってるよね?

場違いにも僕がそんな事を考えると、ギガンテス君は、崩れた天井から落ちてきた柱を掴み、それをシゲシゲと眺めて嬉しそうに喜んだ。

「こいつぁ中々の棒だぜえっ! 愛用のこん棒が見あたらねえから丁度いいや」

その後も見分を続けて、持ちやすいように加工を開始した。やがて完成した棒で素振りをして具合を確かめると、満足そうにうなずく。

「ふんふん、まあまあの出来だな。よし試し打ちだ! 玉落ちてねぇかな・・・玉、玉、玉、・・おっあったぜ!!」

そう言ってギガンテス君が拾ったのはボッコボッコにされたゾンビさんだった・・・
いや、ギガンテス君それは玉じゃない、肉塊だよ・・・ついでに言うともうゾンビさんですらない。なにかの生物だったものだ。
もうやめたげて、僕の隣でエミリアさんが跪いて打ちひしがれているよ。精神崩壊しかけてるよ。

無理もない、少し前まで僕にどや顔で、自分の研究成果だと誇らしげに自慢してたんだから。それがちょっと目を離した隙に肉塊になってるとか救いがない。
敵ながら同情してしまう。

もちろん、僕等の心の声がギガンテス君に届く筈もなく、彼は楽しそうに玉・を空中に投げて、思いっきり木の棒を振りぬいた。
バッコーンっといい音を立てて打ち上げられた玉にくかいは天井を突き破り、崩壊させ、空高く飛翔した。

「フウゥーーーーー!!! センター方向、エキサイティングだなっ!」

その光景に僕はミアちゃんを落とさないように抱えながら、ひたすらにあの球が人様の頭上の落ちないのを願うばかりだった。

「わ、わ、私の最高傑作が・・あは、あわわわわわわ」

「お、落ち着けエミリア。結果、目論見通り天井を崩壊させたんだから、いいじゃないかっ、なっ!?」

「あわわわわわわ、私の傑作が・・天井と引き換えに・・」

「そ、そうさっ、天井と死者、イチ・イチ交換だ。なっ、無駄がないだろっ、なっ!?」

二人の会話に僕は申し訳なさに心がいっぱいになる。
あまりの無残な結末にエミリアさんの精神が壊れてしまった。初対面の時は雰囲気のある淑女系女子だったのに見る影もない。

あと、フローラさん、フォロー下手過ぎでしょ。なんだよ、イチ・イチ交換って、どう考えても不等価交換だよ。無駄しかないと思う。

僕等がカオスな空気で、しんみりしているというのに、その間もギガンテス君は瓦礫を打ち上げて楽しそうにしていた。

「やっぱマーロに教えてもらった野球は最高だなっ! ん? マーロって誰だっけ?? まっいっか」

いや、全然よくないよ!?
あまりの恩知らず発言に狂乱状態ギガンテス君に突っ込むところだった。あぶない、あぶない、今はひとつのツッコミですら命を左右する危険な展開なのだ。
ふうーーと安心して息を吐くとエミリアさんが僕を睨んでくる。

「お、お前があの怪物にあんな遊びを教えたのかっ!!!」

「や、やめてくれ。誤解だ、いや誤解じゃないんだけど、僕が教えたのはあんな修羅な遊びじゃない!!」

「よくもーーー!!」

僕はまた襟首をつかまれて、気持ち悪くなる。

「二人とも落ち着けっ!!」

フローラさんが仲裁してくれたおかげで、僕はなんとか解放された。エミリアさん追い詰められると本当に危ない人になるな。

「おい、あれはお前の味方だろ。どうなってるんだ!?」

フローラさんが僕を責めるような口調でいってくる。
だから僕はギガンテス君を起こすなと言ったのに、と溜息をこぼす。

「あー、ギガント族は活動休止中に無理やり起こされると頭が狂って好き放題しちゃうんだよね。普通に寝ている時は起こしてもまだ平気だけど」

「ちっ、じゃあ、どうすればいいんだよ?」

「どーするって・・どうだっけな・・」

僕は初めてギガンテス君に出会った時の頃を思い出す・・・あれはたしか、魔大陸で僕が迷子になって、困っていたら、良い感じの穴倉を見つけて・・・・・そうだっ、そこにギガンテス君が先住民として住んでたけど、僕が隅っこで勝手に住もうとしたブチ切れて・・・・・ん?・・その後どうしたっけ・・

僕は暫くうーん、と考えていると、ハッと思い出して指パッチンした。

「そうだ野球だよ、野球教えて仲良くなったんだよね! だから一緒に野球すれば落ち着くハズさ!」

一つの光明が見えて、善は急げと僕は周囲に落ちている瓦礫から木の棒を二本拾って彼女達に渡した。

「さあ、プレイボールだっ!!」

「「・・・・・・・はっ?」」
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