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第13章 ヤーベ、王都の料理大会ではっちゃける!
閑話25 カソの村の日常?拝見
しおりを挟む-これはヤーベが王都バーロンでスイーツ大会に参加していたころのお話-
ここは辺境――――――
その辺境の更に辺境、西の最果て。カソの村。
バルバロイ王国の中で、最も西に位置するこの町は、ソレナリーニの町から更に徒歩で二日ほど西に移動した場所にあります。
この村よりさらに西は、「魔の森」と呼ばれ魔獣が多く生息する地域になります。
ここに暮らす人々は、日々開拓と開墾を繰り返し、王都からの物資が十分でない中、貧しいながらもお互いを助け合い、慎ましやかな生活を送っている村でありました・・・が。
「えっほ!えっほ!えっほらさっさ!」
「えっほ!えっほ!えっほらさっさ!」
「泉のみ~ずをは~こぶぞ~」
「泉のみ~ずをは~こぶぞ~」
「コイツはどえらいみ~ずだぞ~」
「コイツはどえらいみ~ずだぞ~」
「かーちゃんたちにはナイショだぞ~」
「かーちゃんたちにはナイショだぞ~」
「なんでかーちゃんにはナイショなんだいっ!」
バシンッ!
平たい、まるで警策のような板で水の担ぎ手のケツをひっぱたく一人の女性。
・・・女性でしょうか?すさまじくガタイのいい筋肉ムキムキの女性が男たちに気合を入れています。
「あいたっ!」
「ムダ口叩いてないで早く水を運ぶんだよっ!」
「アイアイサー!」
「おー、姉さんはやっぱ怖えーや」
「くわばらくわばら」
「何だって?」
「「「イエ!何でもありません!!」」」
多くの男たちが二人一組で木の棒に大きな水桶を吊るし、奇跡の泉からカソの村まで水を運んでいます。
「しかし、セトのやつも、すげー嫁さんもらったよなぁ」
「村長の息子のセトって、まだ若くなかったか?」
「村長がだいぶ年取ってからやっと出来た息子だったからな。目に入れても痛くないくらい可愛がってたから、ちょっと甘ったれなところがあったけど、もう25くらいじゃなかったか?」
「それが、仕事でやって来た女冒険者に言い寄られて、あっさり陥落か?」
「すっげえガタイしてるよなぁ」
「何でも森に連れ込まれて襲われたんだとか?」
「それ、普通逆じゃね?」
水を運びながら軽口を叩いて笑う男たち。
逆は逆で事案発生してますから、笑い事ではないのですが。
「ああんっ!? 何か言ったかいっ!?」
「「「イエ!何も言ってません!!」」」
ほぼほぼ軍隊の如く統率されながら水を運ぶ男たち。
村の中でも力自慢の男たちのメインの仕事になります。
朝から昼頃まで奇跡の泉の水を運び、昼からは畑仕事に従事する。
カソの村の男たちの大半はこのような作業に従事しています。
「ええーと・・・、次の方~、はい、これが取引依頼書ですね。ナナース10kg、トマトマ10kg、ピピーマン10kg・・・」
村長の息子であるセトが注文書を見て四苦八苦しながら商人の取引を希望する野菜の確認を行っていきます。
奇跡の泉の水で育てた作物は、どれもとてつもなく巨大化した上に、味も素晴らしく濃厚でおいしく、栄養価も高いと評判になり、「奇跡の野菜」としてすごい高値で取引されるようになりました。
そのため遠くは王都からも商人がやってくるようになり、たくさんの「奇跡の野菜」を買い求めていくようになりました。
あまりに多くの商人たちが押し寄せてきたので、「奇跡の野菜」はすぐ無くなってしまうのではと心配もされましたが、奇跡の水を撒いた畑からは収穫しても収穫しても次々に大きな実をつけていくのです。
そのため、ジマーメを始め畑担当の村人たちは嬉しい悲鳴を上げながらもてんてこ舞いになっています。
販売を担当するセトの後ろには別な男たちが何人もスタンバイしており、収穫された山のような大きな野菜の中から、商人の希望する野菜の量を集めて出して行きます。
セトとダブルチェックを行うのは、この村でも器量良しで評判のセシルです。
可愛らしく甲斐甲斐しい性格もあり、商人たちからも人気があります。
「はい、セト様、チェックOKです」
「ありがとう。それでは野菜は全部でこちらの籠の分になりますね、代金は・・・」
目の前に金貨や銀貨が積まれていきます。
少し前までありえなかった光景です。こんな辺境の村に、これほどの硬貨が見られることは今までありませんでした。まして金貨など、取り引きに使う事もなかったのです。
「ちょっとセシル! ダンナに近すぎるんじゃあないかい!」
急に怒鳴り声が聞こえます。
みれば、奇跡の泉から水を運ぶ男たちを指揮しているセトの妻、ガゼルです。
女冒険者だったガゼルはこの村の景気が良い事を聞きつけ、仕事にありつこうとソレナリーニの町からこのカソの村にやって来たのですが、その時にこの村で畑仕事をしていた村長の息子のセトに一目ぼれ。怒涛のガブリ寄りで押し切りお付き合いと言うか、即刻結婚まで漕ぎつけた剛の者にございます。
ちなみに女性なのに男性の様なガゼルと言う名は、貧しい村で生まれた娘に強く育って欲しいからと父親が名付けた名前です。希望した以上に強く育ってしまったのはいささか父親も思うところがあるかもしれません。
「仕事だから仕方ないでしょ! 文句があるならガゼルが書類チェックやればいいでしょー!」
「アタイはそんな書類みて数字をチマチマ数えるなんて仕事、向いてないんだよ! 野郎どもに気合を入れてる方が性に合ってるってもんさ」
セシルの文句にガハハと豪快に笑いながら言葉を返すガゼル。
「なら文句言わないでちょうだい!」
「でもダンナに近すぎるのは気に入らない!」
まるでおでこを突き合わせるかの如くにらみ合う二人。傍から見れば仲良しこよしでございます。
もともとセシルは綺麗で大人しい性格であったのですが、ガゼルとやり合うようになってから俄然元気が増してきているのでございます。
それが逆に殿方には受けがよく、セシルの人気は日に日に鰻登りになっているのですが、知らぬは当人ばかりなりでございます。
「だいたいアンタ、夜の営みの声がデカすぎるのよ!ちょっとは自重してくださらない! 夜寝られなくてメーワクなんですけど!」
「ななな、ナニを言ってんだコノヤロー! アタイは別にそんなこと・・・」
「二軒先の私が迷惑被ってるんだから、両隣のトムスじいさんやバンドーじいさんトコなんて最悪じゃないの?」
「そそそ、そんなことないぞ、きっと・・・」
顔を真っ赤にしてどもるガゼル。ちなみにいきなり飛び火したセトの顔もトマトマの身の様に真っ赤でございます。
「あの~、野菜の方をお願いできますでしょうか・・・」
「あ、すすす、すいませんっ!」
商人の遠慮がちなツッコミに我に返るセト達でありました。
「フォッフォッフォッ。今日も神殿は賑わっておるのう」
カソの村の村長はヤーベ殿の神殿・・・マイホームにある祭壇の前でニコニコしておりました。
カソの村の村長でありながら、息子のセトに豪快なお嫁さんが来てからというもの、ほとんどの時間をこの精霊神ヤーベの神殿で過ごしております。
早く孫の顔を見たいからワシに気を使わなくてもいいようにいつも神殿におるのじゃ、そう村の者には説明をしている村長ですが、息子のセトのお嫁さんが怖くて近寄り難いからと言うのは内緒の話でございます。
今日も神殿は大賑わい。村を訪れた商人たちが、次から次へとヤーベ像のある前に設置されたお賽銭箱にジャラジャラと御賽銭を入れて行きます。
お賽銭を入れたものは、奇跡の泉の水を汲んでも良い、と神殿入口・・・マイホーム入口に書かれているのです。
初めは万病に効くとも言われた、この奇跡の泉の水で商売しようと多くの商人が押し寄せたのでございます。ですが、不思議な事に樽詰めした奇跡の泉の水は、一日も立つとその効果は失われ、ただの水に戻ってしまうため、他の町へ輸送できずに商売にならないことが分かったのでありました。
しかしながら、奇跡の泉の効果は素晴らしいものがある事は間違いなく、カソの村に取引に来た商人たちはほとんどが帰りがけに奇跡の泉により、精霊神ヤーベ像に手を合わせ、お賽銭を入れて泉の水を汲んで帰るのであります。
通い始めた商人たちはみな健康になった、体調が良くなったと大評判になっているのです。
「あーあ、ヤーベ早く帰って来ないかなぁ~」
「そうだねー、早くスライムさんに会いたいね~」
カソの村に住む、カンタとチコの兄妹です。
今は精霊神ヤーベの神殿の掃除という重職を任されています。
祭壇の間を箒で掃いて、精霊神ヤーベの像をいつも雑巾がけしてピカピカにしています。
「あの・・・本当に私が巫女の役などを頂いてよろしいのでしょうか・・・?」
そう言って赤と白の独特な衣装を来て現れたのはカンタとチコの母、ライナです。
「もちろんじゃて。何せヤーベ様に確認を取ってお許しを頂いたのだからのう」
そう言って村長は屈託なく笑い声を上げるのです。
すでにヤーベ殿のマイホームはその99.9%が神殿と言っても過言ではなく、参拝客が後を絶たないため、管理する者を常駐させねばならなくなったのです。
そのため、村長はライナ母子に白羽の矢を立て、ヤーベに手紙で相談をしていたのでした。その後了承の返事がすぐに来たので、そのまま母子三人で神殿の一室に寝泊まりしながら参拝客の相手をしたり、掃除をしたり維持管理に努めてもらっているのです。
ちなみに神殿ではお土産も取り扱っており、一番人気はライナの手作りヤーベ神人形ストラップです。水色に染めた布と綿を使った力作で、ヤーベ神のフォルムが上手に表現されていると評判です。その第一号の完成品は娘のチコちゃんが「スライムさんかわいい~」と言って自分のベルトのバックル部分にぶら下げています。ワンピースにベルトが良く似合っており、その上でプラプラとティアドロップ型のヤーベ神人形が可愛く揺れているため、チコちゃんを見た参拝客がこぞって同じストラップを買い求めているのでありました。
「オラオラオラ! ここの責任者は出て来いや!」
「俺たちが今日からここを縄張りにしてやるぜ!」
どうやらトラブルが発生したようです。
見れば明らかに盗賊のようなナリをした悪者達が5~6人やってきました。
どうも奇跡の泉の噂を聞きつけて、その場所を奪いにやって来た者達の様です。
「フォッフォッフォッ。痛い目を見たくなければさっさと逃げる事じゃな」
「何だとぉジジイが! 即刻ぶっ殺すぞ!」
「あー、オッサンたちマジで悪い事言わないから、早く帰った方がいいぜ?」
掃いていた箒をビタッと悪党たちに向けるカンタ少年。ずいぶんとサマになっています。
「ウン! 悪い人はオシオキされちゃうんだよ? チコも早く帰った方がいいと思うの!」
元気にチコちゃんも悪党にアドバイスしてあげます。優しい娘ですね。
「ふざけんじゃねぇ!テメエらぶっ殺してやる!」
いきり立って襲い掛かろうとする悪党たち。大変危険です。
「先生!せんせ―――――い!! お願いします!」
いきなり村長が大きな声を上げます。
「どお~~~~~れ」
すると、奥の扉から出てきたのは、なんと体長1mはあろうかと言う巨大なヒヨコではありませんか。
「ななな、なんだこのデカいヒヨコは!?」
「バ、バケモノだっ!!」
「何じゃヌシらは? この神殿がどなた様の物と心得るか!」
ギンッッッッッ!!
眼力一発!
「「「「「ヒィィィィィ!!」」」」」
悪党たちが縮み上がります。
「神聖な祭壇の間にお前ら悪党は目障りじゃ!」
今度は羽ばたき一閃!
凄まじい突風が悪党たちを襲い、神殿の外まで吹き飛ばします。
ドサドサと神殿前まで転がり出される悪党たち。
それを待ち構えるものがおりました。
『ピヨ―――――!!(集合!)』
『ピヨ!(イチ!)』
『ピヨヨ!(ニ!)』
『ピヨヨヨ(サン!)』
『ピヨヨヨヨ(ヨン!)』
『ピヨピピピ!(五匹揃って!)』
『『『『ピヨピヨピー!!(ピヨレンジャー!!)』』』』
五匹のヒヨコがずらりと並んで、羽を広げてポーズをとっています。
この者達、先生と呼ばれたヒヨコの長老の愛弟子たちの中でも選りすぐりの猛者たちなのです。
『ピヨヨ!ピヨヨヨヨ!!(合体魔法!メガファイア!!)』
ゴウッ!!
集まった小さな火が集合し、巨大な火の玉になると悪党たちに一直線で飛んでいきます。
ド――――ン!!
巨大火球は悪党たちにぶつかり、炎上します。
「アッチイ!」
奇跡の泉に飛び込もうとする燃える悪党たちに長老の飛び蹴りが炸裂します。
「お前たちのようなバッチイ小悪党が泉に飛び込んだら泉が汚れるわ!」
その後、大量のヒヨコたちに啄まれ、頭をハゲにして悪党どもは逃げて行きました。
「さっすが先生!今日もかっこいいぜ!」
「先生、強いの~」
カンタとチコも大はしゃぎです。
「先生、ご苦労様です。いつも無頼な者達を排除してもらって助かります」
巫女であるライナが先生と呼ばれた巨大なヒヨコに向かって頭を下げます。
「なーに、大したことはしておらんよ。それよりこの村に来て奇跡の泉の水を飲んでから腰の調子も良くてこちらの方がありがたいくらいじゃ。我が孫を部下にしてくださったヤーベ殿には感謝しておるよ」
そうです、この先生と呼ばれた巨大なヒヨコは、何を隠そうヒヨコ隊長のおじいさんで、ヒヨコの里の長老なのです。
奇跡の泉の畔で住むことを許可してもらいたいとヒヨコ隊長を通じてヤーベ殿に打診したところ、快く快諾され、神殿横にある狼牙とヒヨコたちのための厩舎も利用してよいと許可をもらうことが出来たのです。
今では大勢のヒヨコたちが住んでおり、神殿周りやカソの村の警護を務めております。
そのためカンタやチコを始めとした子供たちや、力の弱い老人、女性も安心して暮らすことが出来るのです。
パタパタパタ
一羽のヒヨコが神殿にやってきました。
「あ! ヤーベからの手紙だ!」
ヒヨコが口に咥えている手紙を見て、カンタが大喜びします。
「スライムさん、今は何をしてるのかなぁ」
チコちゃんも手紙に興味津々の様です。
「かーちゃん読んで読んで!」
「カンタ、貴方ももう少し字が読める様にお勉強しなきゃダメよ? ヤーベ様のお手紙、読みたいでしょ?」
「ああ、勉強するさ!でも今は早く読んで読んで!」
「チコも勉強するー!」
手紙をせがむカンタに元気よく手を上げて勉強を宣言するチコちゃん。
カソの村の急速な発展に伴い、ヤーベ殿はソレナリーニの町の冒険者ギルドにカソの村で読み書きを教える教師の仕事を依頼しておいたのでした。ソレナリーニの町の冒険者ギルドのゾリア殿はヤーベ殿の依頼を快く受理、報酬も良かったため、薬草の採取などをメインにしている熟練のCランク冒険者パーティ<路傍の探究者>や<彷徨う旅人>たちのような学のある者達が名乗りを上げ、カソの村に教師としてやって来て字を教えているのです。そのため、カソの村の大人たちの識字率は急速に上がっているのです。
これにはソレナリーニの町の代官であるナイセー殿も協力しており、冒険者の他に、官吏の人間もカソの村に送って教育と共に、商人たちの取引で多くのお金が動くのをサポートさせており、村の運営がうまくいくようにソレナリーニの町も一丸となってバックアップを行っています。
正しくカソの村は、今、ヤーベ殿の力を元にして留まり知らぬ発展を成し遂げようとしています。
「それじゃ読むわね・・・」
ライナに手紙を読んでもらい、ワクワクしながらカンタとチコが耳を傾けます。
・・・・・・
「すっげー! ヤーベすっげーよ! 王女様と結婚するんだ! ヤーベ王様にでもなるのかな?」
「王女様、すごーい!」
どうやら手紙はヤーベ殿が王女様と結婚する事になったらしいと書かれていたようです。
「それに、王都のお菓子大会にも参加するんだろ? 今度会った時にその大会で作る予定の超ウマイお菓子くれるって! 早くヤーベに会いてーよ!」
「チコもお菓子食べたい!」
さらに、王都で開かれるスイーツ大会に参加する事も書かれていたようです。
甘いお菓子をヤーベが食べさせてくれると聞いて、カンタもチコも飛び上がって大喜びです。
「それもこれも、ちゃんとカンタやチコがお掃除やお片づけをしっかり手伝って、お勉強もたくさん頑張らないとご褒美はもらえませんからね」
手紙には書いていませんが、子供たちを甘やかさない様にライナがしっかりと注意します。
「「は――――い!!」」
今日も元気に子供たちの大きな声が聞こえます。
ここは辺境、最果てのカソの村。
ですが、ここには今、たくさんの希望が溢れています。誰もが辛く、ひもじい思いをしていた、昔の姿はもうありません。今は溢れんばかりの笑顔が、笑い声が絶えることなく続いているのです。
そしてカンタとチコがヤーベのおいしいスイーツを食べるのは
もう少し先のお話―――――
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◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
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