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第12章 ヤーベ、王都の生活をマンキツする!

第160話 リーマン商会を救ってみよう

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朝―――――

俺は朝早く散歩に出た。
昨日の風呂は思いもかけず大変だった。
風呂ってあんなに体力がいるものだと初めて知った。

「ローガは嫁さん欲しくなったりしないのか?」

俺は横で一緒に歩いているローガに問いかける。

『嫁ですか?』

「そう、嫁」

朝早く、日が昇ってすぐの頃だろう。
俺は思いもかけず早く目が覚めてしまった。
嫁さんズの面々は女性陣の部屋に戻って寝たこともあり、俺は自分の部屋に戻り一人で寝た。そのため、コルーナ辺境伯家の筆頭執事グリードさんに朝飯は不要と挨拶して散歩に出た。目的は<水晶の庭>クリスタルガーデンでの朝食だ。もちろん朝食はついでであり、一週間後に迫った王都スイーツ大会のネタを検討するために出向くのだ。

尤も午後からは伯爵への陞爵式がある。
もう三度目ともなると、午前中早い時間から王城へ出向かなくてもいいらしい。ありがたいと言えばありがたいが。

そして、俺は散歩について来て隣を歩くローガに再度問いかける。
嫁は欲しくないのかと。

朝、一人で散歩に出ようとしたとき、庭にいたローガ達が一斉に起きて俺の方に寄って来た。
朝の挨拶は良いとしても、散歩に全員ついて来ようとしたのでさすがにローガだけにした。軍団で歩くと目立ちすぎるしな。他の連中はだいぶしょげていたが。
帰ったらモフり倒してやるか。

『嫁ですか・・・、今は不要ですな。ボスを護衛する仕事を全うするために嫁は不要です』

そう言って歩きながら俺の方を見てニッと笑う。

「俺を護衛するのと嫁は関係ないような気がするが?」

『とんでもありません。ボス以外に大事なものを作る事は、ボスの護衛を担当する者にとって致命的なミスを招きかねません。部下たちはボスに服従する者同士の繋がりがありますが、家族となりますと、部下の系統とはまた違いますからな。私には不要のものです』

「随分と厳しい判断な気がするが」

『それこそお気になさらず。ボスに寄り添う事を至上の喜びとしておりますゆえ』

「律儀だね」

俺はそう言ってローガの頭を撫でる。
ローガはわふわふと嬉しそうに笑った。



・・・・・・



「よう、サラ! 砂糖は用意出来ているんだろうなぁ?」

「う・・・、いや、しばらく待ってくれ!」

「ああっ!? ふざけんなよテメエ! お前が出した条件だろうがよぉ!」

随分と剣呑な声が朝の静寂を切り裂く。
人がせっかくいい気持で朝の凛とした空気を楽しんで散歩しているというのに。

見れば、ここはいつぞやのサラ・リーマン商会のある通りだった。
リーマン商会の前でチンピラ風の男が三人そろってがなり立てている。

「約束の期限に砂糖を納品できなかったんだ! 約束通りテメエの体で払ってもらおうか!」

「そんなっ! 本日いっぱいまで時間はあるはずだ! 待ってくれ!」

「待ったって一緒なんだよ! テメエに砂糖は手に入れられねぇんだよお! あーっはっは!」

ああ、砂糖の流通を止めているタチワ・ルーイ商会の関係者かな?
それにしても、納品できなかったときは体で払うとか、どういう約束しているんだろう。自業自得か?

「い、今伝手のある商会を回っているんだ・・・。なんとか砂糖を分けてもらってくるから待ってくれ!」

「待てねえよ! それにテメエの伝手なんざ、もう無いも同然だろうがよ! 仲買人にケンカばかり吹っ掛けて見捨てられちまった哀れな商会さんよぉ!」

そう言ってサラの胸倉を掴むチンピラ。
なるほど、リーマン商会の会頭であるサラ・リーマンの動向を見た上でつぶしに来ているというわけか。しかも明らかに手に入らない砂糖を指定して取引自体がサラの納品失敗を誘い、サラ自身を自由にしようとする作戦だな。
それこそ伝手のある仲買人がいれば早い段階から砂糖の動向を掴めたはず。仲買人とケンカばかりして伝手を失っていたサラには情報が入って来なかったというわけか。

「やだ・・・やだよぉ・・・」

ついには泣き出すサラ。

「はあ・・・」

俺は溜息を吐いた。

『気の乗らない人助け・・・ですか?』

ちらりとローガが俺の方を向く。

「ああ、そうだ。面倒臭い」

そう言いながら俺はリーマン商会へ近づいて行った。

「ああ? 何だテメエは? 関係ねーヤツは引っ込んでな!」
「「そうだそうだ!」」

この感じ、チンピラAとその取り巻き二名って感じだな。

「あ、貴方は・・・あの時の・・・」

俺を見て、少しバツが悪そうに俯くサラ。俺が誰だか思い出したらしい。最もあの時の俺と今の俺の立場は圧倒的に違うけど。

「砂糖、どれだけの分量をいくらで売る予定だったんだ?」

「あ・・・さ、砂糖を融通してくれるの!?」

飛び掛からんばかりに俺の方へ顔を向けて来るサラ。

「先に聞いたことに答えたらどうなんだ? アンタピンチなんだろう?」

「あ・・・、うん。砂糖10kg一袋だ。銀貨で二枚の予定だったのだが・・・」

「はっ? 銀貨で二枚? 砂糖10kgが? お前、今の砂糖の相場知っているのか? タチワ・ルーイ商会が取り扱っている砂糖、混ぜ物が入って1kg金貨二枚だぞ?」

「な、なんだって!? どうしてそんな相場に・・・!?」

「タチワ・ルーイ商会が流通をガナードの町で止めたからだろうが。現在この王都には砂糖はタチワ・ルーイ商会が販売している物以外には基本的に出回ってないぞ」

「そ、そんな・・・」

絶望に暮れるサラ。それに、どうせ例え金貨十枚持って行っても砂糖を10kg売らないだろうさ。タチワ・ルーイ商会ならな。

「だから大人しく俺の女になるしかねーんだよぉ!」

そう言ってサラを突き飛ばすチンピラ。

「ううっ・・・」

しりもちをついたサラがうなだれて再び泣き出す。

ドサッ!

俺はサラに歩み寄ろうとした男の足元へ砂糖10kgの麻袋を放りだす。

「おわっ!? 何だテメエ!」

「砂糖だよ。お前がご所望のな。しかもまじりっけなしの正真正銘ガルガランシア製だ。これで文句は言わせん。銀貨二枚を払ってとっとと失せろ」

「はあっ!? テメエふざけてんのか? ガルガランシア製の砂糖があるわけねーだろうがよぉ! テメエが言ったことだぜ! ガナードの運輸会社はタチワ・ルーイ商会が牛耳ってんだ。砂糖が手に入るはずがねえ!」

「うるさいな。現実を見ろよ。目の前の麻袋を確かめろ」

そう言って男は麻袋を開けて中を見る。

「そ、そんなバカな・・・」

そう言って指でつまみ、口に放り込む。

「ま、間違いない・・・正真正銘の砂糖だ・・・」

信じられないと言った顔で俺を見るチンピラ。

「テメエ! サラのためにタチワ・ルーイ商会の倉庫から盗んできやがったな! 王都警備隊に突き出してやるぜ!」

「わ、私のために・・・?」

いきなり斜め上の発言をかましてきたチンピラA。コイツ、本気か?
そしてサラ。お前の事なんか知らん。たまたま通りがかっただけだし。

「今の今まで、契約を立てに非合法な方法で女を犯すと言った、バリバリ犯罪を犯そうとしたお前が、俺に事実無根の言いがかりをつけ、おまけに王都警備隊に突き出すと言ったか? ちゃんちゃらおかしいな、お前。頭湧いとるんか?」

「なっ! 何だとテメエ!」

掴みかかって来たチンピラAの手を掴み、ねじり上げてから引き落とす。

「グエッ!」

地面に叩きつけた後、横顔を思いっきり踏みつける。引き落とした際の手は逆手に持ち、倒れたチンピラAの横顔を足で踏む。

「殴り掛かって来たんで思わず反撃してしまったが、想定以上にザコだな、お前。俺が王都警備隊に突き出してやるよ、いきなり殴りかかって来た強盗犯としてな」

「ななな、なんだとっ!?」

「それか、リーマン商会からの買い付けとして銀貨二枚を支払ってこの砂糖を持ち帰るかだ。どっちがいい? お前に選ばせてやるよ」

ギリギリと強めに横顔を踏みながら話す。
取り巻きがこっちに走って来そうになるが、ローガのひと睨みでビビッて腰を抜かす。

「わ、わかった! 分かったからカンベンしてくれ! 銀貨二枚払う!」

「あ、そう。じゃあさっさと支払って消えてくれ。砂糖持ってな」

「お、覚えてろ!」

そう言って銀貨二枚をサラに投げつけて、砂糖10kgの袋を担いで消えるチンピラAと取り巻き二人。

それらを見送った後、サラに向き直る。

「さて・・・」

「あ、ありがとう・・・砂糖を譲ってくれて」

サラが勝手な事を宣う。

「誰が砂糖を譲ってやると言った? 砂糖の相場は先ほど説明した通り、砂糖1kgで金貨二枚だ。10kgだから金貨二十枚だな。しかも俺の渡した袋はまじりっけなしだからな」

「そ、そんなお金、払えない・・・」

泣きそうになるサラ。自業自得とはいえ、不勉強すぎるよな。

「じゃあ仕方ない」

「ま、まさか私の体を好きにさせろというつもりか!」

自分の体を自分で抱きながら怒り出すサラ。こいつも頭湧いとるんか?

「ふざけんなよ、お前なんかいるか」

「そ、そんな言い方しなくても・・・」

落ち込むサラを無視して、俺は考える。

「じゃあ、アローベ商会の傘下に入れ」

俺はニヤッと笑って言った。
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