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第12章 ヤーベ、王都の生活をマンキツする!
第153話 直接砂糖を買い付けに行こう
しおりを挟む「どうぞ、こちらへ」
マダムな奥さんに案内されて俺たちは応接室と思わしき部屋へ案内される。
素人の俺が見てもかなり豪華だ。
尤も壁の絵や、隅にある壺の価値など俺には全く分からないが。
「失礼します」
「し、失礼します・・・」
即されて座ったソファーは体が沈み込むかのような感触だった。
「ひゃいっ!」
あまりの柔らかさに体がソファーに沈んだリューナちゃんは驚いて声が裏返る。
「ふふっ、そういえば挨拶がまだでしたわね。私はスペルシオ商会の会頭アンソニー・スペルシオの家内でスパルタニア・スペルシオになります。よろしくお願い致しますわね」
「子爵を賜っておりますヤーベです。アローベ商会の会頭にもなっております」
「リュ、リューナです。東地区で喫茶店<水晶の庭>を開いています!」
俺もリューナちゃんも丁寧に挨拶を返す。
だが、俺の心は悲鳴を上げていた。
名前が「スパルタニア」って!めちゃ怖すぎないか!?
名は体を表す、と言うしな。
少なくとも、息子であるグラシア団長や娘であるクレリア隊長はひとかどの人物に育っている。ただ、その結果がスパルタニアさんのスパルタ的教育方針によるものだとすれば、商会の運営にも影響があるかもしれない。
ただまあ、見た目は優雅なマダムといったイメージだ。そのイメージのままであってくれと祈ろう。
バタバタバタッ!
激しい足音が聞こえて来たかと思うと、扉がバーンと開けて男性が入って来た。
「おおおっ! ヤーベ子爵様! わざわざご足労頂くとは申し訳ないっ!」
相当慌てていたのか、ずり下がるズボンを引き上げながら部屋に入って来る男性。
小太りでつるっぱげ、ちょび顎髭の短足チビ。
スパルタニアと並ぶと、頭一つスパルタニアの方が大きいだろうな。
こうやって見ると、美女と野獣と言う言葉では言い表せないほどの衝撃だ。
人は外見じゃないと心の底から言える夫婦だ・・・これで金だったら涙が止まらないが。
「なんです、あなた! そんなに慌ててみっともない。大切なお客様の前ですよ?」
「や、すまないタニア。何せ『救国の英雄』ヤーベ子爵がいらしたと聞いて、いても立ってもいられなくてな!」
悪びれず嬉しそうに話すこの人がスペルシオ商会の会頭、アンソニー・スペルシオさんなんだろうなぁ。
「ホントにもうあなたって人は・・・」
溜息を吐くスパルタニアさん。
「改めてご挨拶を。ワシがこのスペルシオ商会の会頭を務めるアンソニー・スペルシオです」
会頭のあいさつに俺もリューナちゃんも改めて名乗る。
「それはそうと、さっきカレンがヤーベ様に随分と失礼な対応をしてしまったのよ」
「なにっ!?」
そう言うとスパルタニアさんの説明を食い入るように聞くアンソニーさん。
「ヤーベ子爵、大変申し訳ない!」
テーブルに手を付きガバッと頭を下げるアンソニーさん。
「アンソニーさん、お気になさらず。大丈夫ですよ、私は気にしておりません」
「それは大変ありがたい。お忙しい身でしょうから、早速お話を進めさせていただければと思います」
「その前に、こちらから少しお尋ねしたいことがあるのですが?」
食い気味に商談に入ろうとしたアンソニーさんに待ったをかける。こちらの質問を先に聞いてもらおう。この後に商談があるとなれば、いろいろと優遇してくれるかもしれない。
「なんでしょうか?」
「今、王都に砂糖がまったく売られておらず、手に入らないんです。ご存知ですか?」
俺の質問にアンソニーさんも表情を曇らせる。
「ええ、タチワ・ルーイ商会の仕業ですな。砂糖の流通を止められてしまい、王都に入って来る砂糖をかなり絞られています」
「ここにいるリューナが一週間後の王都スイーツ決定戦に参加する予定なのですが、砂糖が手に入らないんですよ。まず、スペルシオ商会で砂糖の在庫を保管していませんか?」
少し考えたアンソニーさんは、パンパンと手を叩く。
「お呼びでしょうか?」
ガチャリと扉を開けて入って来たのはきっちりとした服装の紳士だった。
「ドノバン、倉庫から砂糖のツボを持ってきてくれ」
「・・・よろしいのですか? 砂糖はあの壺1つで最後ですが・・・」
「かまわないよ。我々は商人だ。商品は必要な人に使ってもらってこそ価値が出る」
「わかりました」
そう言ってドノバンと呼ばれた男が去っていく。
「砂糖をお譲りいただけるのですか?」
「はい、どうぞお持ちください」
「? お売り頂ける、ということですよね?」
俺は思わず聞き直した。
「いえいえ、商品の在庫としては僅かな残り物です。どうぞそのままお持ちください」
「い、いいんですか!?」
リューナちゃんが前のめりになる。そりゃ砂糖が貰えるんだから嬉しいだろうけどね。
昔から言うのよ、只より高い物はないってね。
だが、こちらからもスペルシオ商会に得になる様な提案がある。
「確か、砂糖は南のガルガランシアで生産されていて、ガルガランシアと王都を結ぶルートの途中にあるガナードの町を集積地としていたんですよね?」
「おお、その通りですぞ、詳しいのですな」
素人ながらによく勉強していると感じたのか、アンソニーさんが笑顔になる。
「スペルシオ商会で直接ガルガランシアにて買付できる生産者の方いらっしゃいます?」
「もちろんおります・・・当商会に専属で砂糖を卸してもらっている生産者ですが・・・ガナードの町で運搬を受け持つ商会がタチワ・ルーイ商会の傘下の商会で、運搬に影響が出ているため、この王都に砂糖が届かないのです」
説明をして溜息を吐くアンソニーさんだが、俺はこの説明で安心した。
問題は運搬であって、生産者とスペルシオ商会が直接買い付けできるなら、砂糖の問題は解決できる。
「では、その生産者の方へ手紙を書いてもらえますか? 後、買付の予算を預けて頂ければ、必要分だけ私が運んできますよ。ああ、いくらでも大丈夫です。亜空間圧縮収納という能力を使います。どれだけでも砂糖を運んで来ることが出来ますよ」
「・・・あ、貴方は神か?」
「いいえ、違いますよ?」
ここで、とんでもねぇ、アタシャ神様だよ!なんてギャグでも飛ばそうものなら、本気で神様扱いされそうだ。
「本当にヤーベ様は規格外でいらっしゃいますわね・・・。アローベ商会の商品を取り扱わせて頂きたいと商談を進めようと思っていましたのに、その前の砂糖で奇跡の提案をなさって下さるなんて・・・」
スパルタニアさんが胸の前で両手を組んで感動している。
「この後すぐにガルガランシアまで出向いて砂糖を買ってきます。夕方には戻って来られると思いますから。砂糖納品しますよ」
「え? ガルガランシアはガナードの町を経由して馬車で一週間以上かかりますが・・・」
「超高速で空飛んで行くので大丈夫ですよ」
俺の返事にアンソニーさんもスパルタニアさんもポカーンとするのであった。
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