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第12章 ヤーベ、王都の生活をマンキツする!
第152話 王都随一の大商会に相談に行こう
しおりを挟む王都商業ギルドの中央本部を出て、大通りを歩いて行く。
中央本部を出てから、リューナちゃんの元気がイマイチ無い様だ。
「どうしたリューナちゃん。砂糖が心配かい?」
「え、あ、砂糖も心配ですけど・・・」
一度俺の方に顔を向けたが、すぐに俯いてしまう。
「どうしたんだい?」
「ヤーベさん・・・お貴族様だったんですね・・・」
そう言って落ち込むように沈むリューナちゃん。
貴族が嫌いなんだろうか? 以前質の悪い貴族でもに嫌がらせされたとか?
「リューナちゃんは貴族が嫌いかい?」
「え・・・、そ、そんなことは無いです。と、言いますか、貴族の方とお付き合いなんてしたことないですし、貴族の方が私みたいな獣人のやっているお店に来てくれるはずないですし」
うーん、獣人って何か偏見でもあるのかな? かわいいケモミミ娘なんてご褒美でしかないが? もちろん異論は認めん。
獣人というか、いわゆる亜人人間族以外への対応とか全然調べて無いな。久々にヒヨコに情報集めさせるか。
「というか、俺、四日前に貴族になったばかりだから、自分が貴族とか全然自覚無いしね。大体、貴族って偉そうだから嫌いだし」
「え!? 四日前に貴族になったばかりなんですか? しかも貴族嫌いなんですか!?」
リューナちゃんが驚いて俺の方を見る。
「嫌いだよ。王城で王様に謁見した時も、お前みたいな奴が何で貴族に、みたいな事を言われたり、そんな目で見られたりしたりさ。もちろん貴族だけどいい人もいっぱいいたから、そういうのが分かっただけでも貴族になってよかったと思える事はあるけどね」
「じゃあ、それまでヤーベさんは平民だったんですか?」
驚いて耳としっぽがピーンとなるリューナちゃん。かわゆし。
「平民も平民だよ。ずーと西の端の田舎の村の奥の森に住んでいたんだから」
「わあ、じゃあすごく遠くから来られたんですね」
「そうだよ、とんでもない田舎者だからね、俺」
ビッ!とサムズアップして田舎者を自慢する俺。
「クスクス、田舎者を自慢する人ってあまりいないですよ・・・?」
笑いながらリューナちゃんが俺の方を見る。少し元気になったかな?
「俺の田舎は自慢さ! 凄く澄んだ空気に元気な森、おいしい水。どれをとっても最高の自然だよ。まあ、自然しかないけどね!」
自虐的に笑いながら言うと、リューナもつられて笑う。
「それに、獣人なんて、すごく可愛くて素敵じゃない。変な偏見や差別なんて俺からすればありえないね」
「え!? そ、そんな可愛いなんて・・・」
えへへっと笑い、頬を赤く染める。ぴこぴこ動く耳に、ゆらゆら揺れる尻尾。うん、かわゆし。ケモリスタとしての血が目覚めそうだ。
「さ、次の伝手に会いに行こう」
「え、ヤーベさんまだ伝手があるんですね・・・すごい」
「はっはっは・・・王都に来たばかりなのに縁だけはたくさんあるみたいでね」
俺は笑いながら目的地を目指して大通りを歩いて行った。
・・・・・・
「ここだな」
かなり大きな建物の前で足を止める。
思った通り商業ギルドの中央本部から近かったな。
「あ・・・あの・・・ここって・・・」
リューナが信じられないと言った感じで建物に指を指しながら俺の方を見る。
驚きが凄いのか、指がプルプルしているな。
「うん、ここに用があるんだ」
そう言って大きな建物の中に入る。
ここも問屋と言うか、お店はここではなく別でやっている感じだ。だからここは本店と言うか、本拠地なんだろうね。
「えええ・・・だ、大丈夫なんですか・・・?」
恐る恐ると言った感じで俺の後について来るリューナちゃん。
店に入り、カウンターらしきところにいた女性に声を掛ける。
「あー、すみません。ヤーベと申しますが。会頭のアンソニーさんいらっしゃいますか?」
「訪問予約はお取りでしょうか?」
カウンターにいた女性は見ていた帳票らしき資料から目を上げると、じろりとこちらを睨んだ。感じ悪いな。
「すみません、特にご連絡を差し上げてはいないのですが」
「それではご案内は無理ですね。ちなみに会頭への訪問予約は三か月以上一杯でお取りできません」
怪しい男が来たと思ったのか、ジトっと上目で俺を見た後、すげない回答をくれる。
「今いらっしゃらないんですかね? 事前にご連絡しなかったのは申し訳ないのですが、先方からぜひお会いしたいと言伝を頂いているのですが?」
ちょっと俺もプリッとしたプンプン感を出して詰め寄っちゃう。
「はあ? ウチの会頭からですか? 申し訳ないのですが、うちは王都の中の名だたる商会の中でもナンバーワンを誇るスペルシオ商会なんですよ? ウチの会頭が会いたいから来てくれなんて話、聞いてませんね」
そう、俺はこの王都ナンバーワンの大商会であるスペルシオ商会にやって来た。
なにせ、叙爵記念パーティの際にグラシア団長から言伝を貰っているからな。アローベ商会の遊具を取り扱いたいからぜひ会いたいってさ。
「来てくれと言われたわけじゃないから。いつでもいいので会いたいという言伝だったと思ったんだけど」
「いやいや、ウチの会頭馬鹿にしないでもらっていいですか。そんなヒマな人じゃないですから。会頭に会いたいって人がどれだけいるか知っています? それでも面会予約はなかなか取れませんからね」
ハハンと言った感じで肩を竦める受付嬢。取り付くシマもないとはこの事か。
「あっそう。じゃあもういいよ。アンソニーさんが今忙しいとか、いないとかならわかるけど、確認もしてもらえないならどうやっても彼に会えないしね。グラシア君には申し訳ないが、この話は無かった事にしてもらうとするよ」
「グラシア君? この話?」
受付の女性が首を傾げる。でもいいや。俺が何で詳しく説明せにゃならんのだ。先方が会いたい、商品を取り扱わせて欲しいって話だったのに。
「じゃあこれで」
そう言って踵を返し、出て行こうとしてボンっとぶつかる・・・胸に。
「あら」
そう言って声を漏らしたのは妖艶な大人の女性だ。鍔の大きいゆったりとした帽子をかぶっている。すらりとしたドレス、そして凄まじく豊かな胸。マダムと言う言葉がこの人以上に似合いそうな人はいないかもしれない。
「どちらさまかしら・・・もしかして、ヤーベ様かしら」
「はい、ヤーベと申します。こちらの会頭のアンソニーさんが私に会いたいとグラシア殿から言伝を頂きましたので、先振れなく失礼かと思いましたが寄らせてもらったのですが、どうも私のようなものは会頭と面会できないようですので帰ろうかと・・・って、どちらかでお会いしました? 何故私の名を?」
結構説明してから、俺は首を傾げる。
「ふふふ・・・ヤーベ様の事はよーく聞いてますよ。息子もそうですが、特に娘から。全くお見合いせず結婚のけの字もなかったあの子が、ヤーベ様の事は饒舌に話すのですよ」
やたらと嬉しそうに話すマダム。
俺の事を饒舌に話す娘・・・、後、息子もいて、このスペルシオ商会に来たマダム。
どう考えても、きっとそうだろう。王国騎士団団長グラシア・スペルシオと王都警備隊隊長クレリア・スペルシオの母親なんだろうね。
てか、会ったことのない母親が俺を見てヤーベだと分かるほど外面を細かく話しているのか? クレリアよ。他にトークするネタはないのか。母娘関係心配になるぞ。
「カレンさん?」
「ははは、はいっ! 奥様!」
「いつも言っているわよね? 思い込みでの判断は時に致命的な問題を引き起こしかねないって」
「ははは、はいっっっ!」
よく見ればカレンと呼ばれた先ほどの女性は滝の様に汗を流していた。
「この方はヤーベ子爵よ。そして今を時めくアローベ商会の会頭様でもあるわ」
「ひ、ひええっ!!」
「アローベ商会って今を時めいているんですか?」
「商会の会頭様がなぜお知りにならないのかしら・・・?」
俺が尋ねるとマダムに首を傾げられてしまう・・・手を頬に当てて傾げる仕草、色っぽすぎませんかね?
「それにしても、カレンさん」
「は、はいっ! 奥様!」
直立不動のカレンさん。
「今ここでたまたまヤーベ様にお会いできたから御止めできたけど・・・、このまま帰られたら、アナタ、クビ程度では済まなかったわよ?」
「は、はひ?」
よろけてぺたんとしりもちをついてしまうカレンさん。え、そんなに?
「え、そんなに? って顔してますわね。そんなにですよ。何せあの人はアローベ商会で独占している遊具の販売権をぜひとも我が商会にも融通頂きたいと御相談させて頂くためにウチの方から会いたいと言伝させて頂いたのですから」
「はわわ・・・」
ぷるぷるして小動物みたいになってるカレンさん。なんだか気の毒になって来たぞ。
「それを先方がわざわざ足を運んで頂いたというのに、門前払いなんてしたら・・・ねぇ」
「すすす、すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
全力の土下座を披露するカレンさん。この世界にも土下座風習あったんだ。商人だけかもしれないけど。
「まあまあ、誤解が解ければ私はそれで・・・」
「まあ、ヤーベ様の御心は澄み切った大空よりも広いのでしょうか。よかったわね、カレンさん。。ヤーベ様がご寛容な方で」
「はいいっっ! ありがとうございますぅぅぅ!!」
カレンさん必死だな。軽く引くぞ。
「まあまあ、立ち話も何ですから、どうぞお上がりください。あの人もすぐ仕事に一段落してくると思いますわ。カレンさん、いつもまでも土下座なんかしていないであの人を呼んで来てちょうだいな」
「は、はいぃぃぃぃぃ!!」
ドビュンって効果音がしそうなほどの勢いで奥へ駆け出すカレンさん。
まあ、これで王都随一のスペルシオ商会に相談できるね。
・・・今の感じだと、砂糖の相談より、向こうの相談の方が多そうな気がしてくるけどね。
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