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第11章 ヤーベ、王都の危機を救う!

第137話 トンデモない二つ名の登場に心の底から驚こう

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「キィィ――――!!」

イリーナの慟哭が響き渡る。
ちなみに咥えているハンカチはすでにビリビリになってしまい、見るも無残な状態だ。
昨日、聖堂教会大聖堂へ覗きに行った後、イリーナはヤーベに露店で素敵なハンカチを買ってもらう予定だったのだ。ところが、様子見で行った聖堂教会の大聖堂でまさかの大捕り物となってしまった。

その後、教会内の処理も含め、相当の時間を取られてしまい一日が潰れてしまったのだ。挙句に、枢機卿捕縛で活躍したのはヤーベやローガ達、ゲルドンを除くと、奥さんズの中ではフィレオンティーナだけであり、従って王城で謁見の間で褒賞を受け取るのもヤーベとフィレオンティーナだけとなっているのだ。そんな訳で、フィレオンティーナを除く奥さんズの面々は謁見の間控室でヤーベとフィレオンティーナが戻って来るのを待っている。

「イリーナちゃん、いい加減そのハンカチは止めた方がいいと思うよ?」

盟友ルシーナがイリーナのビリビリのハンカチについてツッコミを入れる。

「ううう・・・、ヤーベが新しいハンカチ買ってくれるって言ったんだ・・・」

目に一杯の涙を溜めて唸る様に言うイリーナ。
どうやら、新しいハンカチを使うとヤーベにハンカチを買ってもらえなくなるのではと思っているようだ。

「きっとヤーベ様はそんなビリビリのハンカチ使ってなくても、約束を忘れないと思うよ?」

「ううう・・・そうかなぁ」

決壊寸前の目を大きく開いたまま、ルシーナを見つめるイリーナ。こんな顔でヤーベに迫ればイリーナの買って欲しいものなど何でも買ってくれるのではと思うのだが、結構イリーナはヤーベのそばにいる時は素直になれないことが多い。

ルシーナはイリーナの肩をポンポンと叩く。

「ご主人しゃまはすごいでしゅ! すごいでしゅ!」

両手でゲンコツを作って顎の下に当てたまま、お尻をプリプリと振って踊るように喜んでいるリーナ。ご主人様であるヤーベがまたも王様に呼ばれてご褒美をもらうという話に朝から感動しっぱなしなのである。ミニスカートの腰をフリフリしているので、下着が見えそうになるが絶妙なラインで見えていない。わかってやっているのであればとんでもない魔性の女なのだろうが、リーナは完全に天然素材である。

「それにしても、フィレオンティーナさんがあんなに強いなんて全然知らなかったよ」

サリーナがふかふかのソファーに身を埋めながら思い出したように言う。

「そうだね~、私たちも魔法を教えて貰いましょうか?」

「いいねっ! ぜひ教えて貰おうよ!」

ルシーナの提案にサリーナも賛成する。

「ううう・・・ヤーベェ・・・」
「ご主人しゃまー!」

イリーナとリーナは先ほどから全く変わらないテンションだ。まるで光と闇だ。

「早く謁見終わらないかな・・・」

ルシーナは早くヤーベに帰って来てもらってイリーナの落ち込みとリーナのハイテンションを何とかして欲しいと願った。





その日の夜。
再びコルーナ辺境伯邸には多くの貴族が集まっていた。
最初の謁見で男爵に叙爵されると国王から申し渡された2日前の夜、このコルーナ辺境伯邸にお祝いにやって来た面々が再び集まったのである。

イリーナのご両親であるダレン・フォン・ルーベンゲルグ伯爵とその奥方アンジェラさん。ガイルナイト・フォン・タルバリ伯爵とその奥さんシスティーナ。
そしてラインバッハ・フォン・コルゼア子爵。
キルエ侯爵家当主シルヴィア・フォン・キルエ侯爵までもがまたもやって来たのだ。

そして王都警備隊隊長のクレリア・スペルシオと王国騎士団団長のグラシア・スペルシオの兄妹までもがまたまたコルーナ辺境伯邸にやって来た。

「しかし、ヤーベ君。男爵に叙爵されて2日後に子爵に陞爵とか・・・どう考えてもあり得ないんだが・・・」

ルーベンゲルグ伯爵が飲み物を片手に俺に話しかけてきた。隣には奥さんのアンジェラさんもいる。ほぼ2日前のデジャヴだな。

「ほぼ実感ないですけどね・・・」

俺は苦笑しながら答える。そりゃそうだよな。男爵にするって言われただけで、とくに男爵として貴族の活動を行ったわけでもないのに、その2日後子爵だからな。男爵2日間って全く実感ないわ。そもそも貴族と言う意識が俺には無いしな。

「イリーナの旦那様はとてもすごい方だったのですね。イリーナの人を見る目が優れていた証拠ですわね」

奥さんのアンジェラさんがニコニコしながらイリーナを褒めている。
俺の隣にいるイリーナが顔を真っ赤にして照れている。
珍しい。ドヤ顔でそうだろうそうだろうと偉そうにするとばかり思っていたのだが。
そういや、王城からの帰り道、馬車を止めて高級な服飾店でハンカチを買いに行った後、ものすごく喜んで照れまくっていたな。

タルバリ伯爵と奥さんのシルフィーナさんはフィレオンティーナを褒めまくっている。何せフィレオンティーナも一代限りの騎士爵に叙されたのだ。正式な貴族である。

「いやはや、すでにもう私と同じ子爵になるのだな・・・」

「いや、もうヤーベ殿にはそんな感覚を持たないほうがいいかもしれんな。私もあっさり抜かれそうな気がしてきたわ。一応ワーレンハイド国王からは私の寄子にするように言われたのだが・・・」

コルゼア子爵が嘆息しながら呟けば、コルーナ辺境伯も苦笑しながらぼやく。

「それにしても、お主は信じられぬほどの規格外よの・・・」

キルエ侯爵はもはや呆れてしまったように微笑みながら声を掛けてくれる。

「たまたまですよ・・・教会言ったらいきなり奥さん達拉致られたんですよ? 俺は牢屋にぶち込まれましたし。そりゃぶっ潰すしかないですよね」

如何にも偶然の正当防衛を主張するが、

「どうせ必要な証拠はすでに押さえてから行ったのだろう?」

ニヤニヤとしながらヤーベの戦略を見抜くキルエ侯爵。
どうやら俺がかなり精度の高い情報網を持っている事を知っているようだ。


そこに来客があった。


「旦那様、お客様が到着されました。こちらへお通ししてよろしいでしょうか?」

執事がコルーナ辺境伯に確認に来た。

「誰が来たんだ?」

「賓客でありますヤーベ様にお会いしたいと・・・冒険者ギルドのギルドマスター・ゾリア様がお越しになられました」

「ゾリアが?」

俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
なぜソレナリーニの町冒険者ギルドのギルドマスター、ゾリアがここへやって来たんだ?



「やあ、どーもどーも」

態度からして図々しいな、ゾリアよ。
よくこれだけの上級貴族が大勢いる場でそんな態度が取れるものだ。
誰か不敬罪でぶっ殺してくれ。

「コルーナ辺境伯、急に訪問して申し訳ないですな」

「いや、かまわん、気にせんでもよいぞ」

「絶対に申し訳ない気持ちモッテナイだろ」

コルーナ辺境伯にぞんざいな挨拶をかますゾリアに俺がしっかりとツッコミを入れておかねば。

「失礼な事を言うなよ! だいたいお前さんが国王様に呼ばれて謁見するっていうから、俺も楽しみにしてお前さんを追って来たんだよ。だからお前さんは英雄になるって言っただろ? 噂じゃ男爵に叙されたって言うじゃねーの! やるねえ」

ニヤニヤしながら俺を見て来るゾリア。
ムカつくからとりあえず一発殴りたい。

「ゾリア殿。その情報は少し古いな。ヤーベ殿は今日子爵に陞爵されることになったぞ」

「ええっ!? 男爵になったばかりでもう子爵!? ヤーベ、おまえどうなってるんだ?」

「俺が知るわけないだろ」

「いや、そんなこと言ったって・・・」

と言ってふと周りを見回すゾリア。
ふとタルバリ伯爵と目が合う。

「ガイルナイト! お前もいるのか」

「なんだゾリア。いちゃ悪いのか? これでも俺は伯爵だぞ。ヤーベ殿の謁見時には登城するよう連絡が来ているんだよ」

そう言えばこの二人は昔冒険者パーティとして一緒に戦ったこともあるんだったな。

そしてゾリアはタルバリ伯爵の隣にいる奥さんのシスティーナさんを見て、さらにその隣にいるフィレオンティーナと目が合う。

「あれ? 『雷撃姫らいげきひめ』じゃねーの。なんでここにいるんだ?」

「「「雷撃姫らいげきひめ?」」」

大半の人間がポカンとした。俺もその一人。フィレオンティーナがとてつもない魔力を隠しているのは気づいていた。だから聖堂教会大聖堂に行くときに万一の時は、と直接指示を出したのだ。でも雷撃姫って? フィレオンティーナさんどえらい二つ名頂いておりますな。

それに、タルバリ伯爵と奥さんのシスティーナさんが明らかに「しまった!」という顔をしている。もしかしてフィレオンティーナに口止めされていたか?

「あ、いや、最後の二つ名は『轟雷の女神』だったか?」

「どちらでもいいですわ」

更なるゾリアの追撃に溜息を吐くフィレオンティーナ。
いやいや、どちらでもいいって! 今度は『轟雷の女神』ってもう最上級じゃん。それ以上ないよ?雷としても女性としても。轟雷だし女神だし。

「で、お前さんは何でここに?」

「わたくしはヤーベ様の妻ですから。旦那様であるヤーベ様と一緒にいるのはあたりまえのことですわ」

「はいっ? ヤーベの奥さん・・・雷撃姫なの?」

「しかもフィレオンティーナ殿は今日正式に貴族に叙爵されたぞ」

「はあっ!? ヤーベの奥さんで・・・貴族!?」

今度はゾリアがポカンとする番だった。
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