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第10章 ヤーベ、貴族としての生活が始まる

第132話 ちょっと神様になって断罪の使者を送り込もう

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フラメーア枢機卿は困惑していた。

5人の美少女を自身の部屋に連れて来ること自体は成功した。
ドムゲーゾの奴がモメているのを偶然見たのだが、1人の男が凄まじい美少女を5人も連れていたのだ。

その美少女を狙って、明らかにドムゲーゾの奴が因縁をつけていた。美少女を連れて行こうとしていたのだろう。

(あのブタにはもったいないほどの美少女たちだわ。アタシが食べてあげる方がいいに決まってる!)

早速間に割って入って、いかにも仲裁のために話を聞くふりをして美少女たちを連れて来ることが出来た。

(あの男もバカね、何も気づいていないのかしら)

フラメーアは笑みが止まらなかった。

(ふふふ、愉悦が止まらないわ。ああ、なんて最高なんでしょう。こんな美しい美少女を5人も壊すことが出来るなんて!)

フラメーアは今年で39歳。だが見た目は20代中盤程度に見える容姿をしている。
所謂、美魔女といった感じであった。
その見た目は十分に美しいが、その内面は凄まじく爛れていた。
美しい物を踏みにじり、自分以外の者が苦しみ悶える事に非常に喜びを感じていた。

今も5人の美少女であるヤーベの奥さんたち、所謂「奥さんズ」を毒牙にかけようと、お茶に媚薬を盛ったのだ。女性神官たちが用意した媚薬入りのお茶を彼女たちは確かに飲んだ。


だが、一向に変化が見えない。


「で? ヤーベはどうなるのだ? というか、この教会はどうなっている? あのように下働きを足蹴にする聖女など、ありえるのか?」

イリーナが苛立つように話す。
フラメーアも苛立っていた。

「(何でクスリが効かねぇんだよっ! このビ○グソどもがぁぁぁぁぁ!!)」

思い通りに展開が進まないことにドス黒い内面が漏れ出してくる。

「(媚薬が効かねーなら、痺れ薬だ! すぐ用意しろ!)」

後ろに立つ従者に素早く後ろ手でハンドサインを送る。

「(はは、はいっ!)」

「お茶のお代わりお持ちしますね」

痺れ薬の入った2杯目のお茶が注がれる。
それを飲み干す5人の美少女。
だが、5人には何の変化も見られなかった。

「(なんでだぁぁぁぁ! アタシの用意した薬はどっちも一級品だぞ!)」

フラメーアは完全に理解不能に陥る。二種の薬ともに誰にも効果を及ぼさない。これは完全に薬に耐性があるか、もしくはアイテムによる状態異常防御効果を伴っているとしか思えない。

「それで、ヤーベ様はどのような扱いになるのでしょう?」

この期に及んでまだあの男の心配をしている。
自分たちの運命がどのような危機にあるかも知らずに。
フラメーアの苛立ちは頂点に達した。

「やってくれるじゃない・・・」

「「「「「?」」」」」

誰もピンと来ないのは育ちが良いからか、疑う事をしないピュアな精神の持ち主だからか。

「ちょっと状態異常の耐性強化を準備してきたからっていい気になるなよ! これが耐えられるかしら?」

そう言っていきなり席を立ち、魔法を行使するフラメーア。

「我が意図に傅き、その意思を放棄せよ!<女帝の魅了エンプレスチャーム>!!」

ついに王都聖堂教会を牛耳るトップの一角、枢機卿フラメーアが牙を剥いた。





「よっ・・・と」

俺は倒れていた体を起こす。
祈りの間にいた時、女神像の設置された床に見つけたひび割れからスライム細胞を流し込んでおいた。
牢屋に運ばれる時に一度切り離しているが、今からそこに再接続を試みる。

「さてさて・・・」

俺は触手を2本飛び出させる。牢を抜けて、壁際を高速で進んで行く触手。
屋根裏、床下、あらゆる隙間に忍ばせたスライム細胞に接続を行う。
いま、この大聖堂はスライムの館になったと言っても過言ではない。

「これがモンスターなら一網打尽で済むんだがなぁ」

俺は独り言ちる。
奥さんたちも助けなければいけない。当然捕まって酷い目に合っている人たちも助けなくてはならない。そして、この教会の状況に心を痛めている無力な人間も。

「まずは・・・あそこからだな」

俺は牢屋の鉄格子に体を押し付ける。

にゅるん。

何の抵抗も無く鉄格子の牢から脱出する。
俺は音も無く移動を開始した。





「ああ・・・主よ。愚かな我々をお許し頂きますよう・・・」

静かに、それでいて一種迫力のある祈りを一心不乱に捧げている老人。


ラトリート枢機卿。


この聖堂教会唯一の良心と呼ばれるこの男は、他の枢機卿たちの傍若無人振りを止められず心を痛めていた。そして主に祈りを捧げる事しかできない無力な自分を攻め続けていた。


「我は許さぬ」


重い、非常に重い声が静かに響く。

驚いたラトリート枢機卿は思わず祈りを止め、顔を上げた。
そこには二枚の羽を広げたティアドロップ型の姿をしたヤーベがいた。

「おおお・・・貴方様は・・・」

魔物、その考えは一瞬にして霧散した。圧倒的な魔力、もはや魔力とも呼べないような力の本流。
厳かな姿。雰囲気。それらはラトリート枢機卿に神そのもの、もしくは神の使徒を想像させるには十分であった。

「我は許さぬ・・・無力を嘆き、惨劇を止めず放置した貴様の罪は看過できぬ・・・」

「は、ははああああああっっっっっ!」

ラトリート枢機卿はその場にひれ伏した。もはや生きた心地すらしない。

「貴様に贖罪を命ずる・・・」

「は、ははあああっっ! な、なんなりとっ!!」

「これより断罪の使者を送る。罪人はその全てを滅ぼされるだろう。貴様は証人として包み隠さずその全てを王へ進言せよ」

「は、ははあああっっ!」

ラトリート枢機卿は滴り落ちる汗を拭う事もせず、深々と首を垂れる。

「(よしよし、証人GETだぜっ!)」

どこかの少年のよろしく、心の中でものすごい笑顔になるヤーベだった。





「こっちだ」

「はは、はははい!」

あの後、すぐに「どうも、断罪の使者ですけど」ってラトリート枢機卿の部屋に出向いたらものすごくびっくりされた。
もう少し低い声で威厳を持って喋る方がいう事をよく聞いてくれそうだ。

ローブ姿の俺はちょっと偉そうに命令口調で話しかける。

「ここだな」

スライム細胞を広げまくって触手で接続、あらゆる場所をすでにチェック済だ。
この部屋はあのドムゲーゾ枢機卿が飽きた女たちを他の貴族や他国の奴隷商に売り払った時の売買契約書などが保管されていた。

「クソ外道が・・・楽には逝かせねぇぞ・・・」

ついつい剣呑な言葉に殺気と魔力が漏れてしまう。
余波を浴びてラトリート枢機卿もちょっと漏れてしまう。

「ひひいっ! お許しを! お許しを!」

「許しを請う相手は俺ではない。神と被害にあった女性たちだ」

「お、おっしゃる通りでございます!」

「そのためには、まず腐敗した教会内の非道、不正をすべて洗いざらい王に直言することだ。その機会は主により与えられる」

「は、ははあ!」

「さて、これを持て。あと、これも。あ、これもこれも。こっちの書類もね」

そう言って抜き取った書類の束をポンポンとラトリート枢機卿に放り投げる。

「は、ははっ!」

わたわたしながら、慌てて受け取るラトリート枢機卿。

「無くすなよ? 断罪に必要な証拠だ。それを守る事も貴様の贖罪の一つだ」

「はは、ははあ!」

緊張しまくって返事が「ははー」しか行って無いけど、大丈夫だよな、コイツ?





「ああ、クソ! 胸糞悪いわい!」

今しがた、高級食材ばかりで作られた食事を平らげてきたドムゲーゾ枢機卿。
その一食は優に一般人の一食の百倍くらいの費用が掛かっていた。
腹が膨れて食欲が満たされれば、次は性欲を満たしたくなるのがドムゲーゾという男であった。

その足で自分の奴隷たちがいる部屋へと向かう。
奴隷と言っても、正規の奴隷商から買い入れた奴隷たちではない。
その証拠に奴隷紋が刻まれているわけではなかった。
ただ単にドムゲーゾが自分の部下に攫わせてきた女たちであった。

バンッと勢いよく扉を開ける。

「ヒッ!」

10人以上いる女たちが一斉に怯える。
この部屋の主人であるドムゲーゾ枢機卿が戻って来たのだ。
この後の悲惨な運命が頭の中を巡る女性たち。
何人かが首輪の鎖を引っ張られ凌辱されて痛めつけられる。
今の彼女たちには耐え忍ぶ以外に取ることが出来る手段が無かった。

「全く忌々しいわ! フラメーアめ、ワシの女どもを横取りし追って!」

一人の女性の鎖を引っ張る。

「ウグッ!」

あまりの勢いに首が閉まり嘔吐く女性。

ドムゲーゾがその女性に馬乗りになる。

「まずは貴様らをいたぶって気持ちを落ち着けるとするか」

狂気にも似た笑みを浮かべるドムゲーゾ枢機卿。


ドガンッ!


いきなり扉が蹴り破られ、吹き飛んだ。

「ななな、なんだっ!?」

馬乗りのまま振り返るドムゲーゾ枢機卿。

「さあ、断罪の時間だ」

ラトリート枢機卿を従えたヤーベが現れた。
珍しくローブのフードを下して顔を晒していた。
その笑顔は人とは思えないほどに三日月口が右側に吊り上がっていた。
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