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第10章 ヤーベ、貴族としての生活が始まる
第131話 教会に偵察を兼ねて懺悔に行こう
しおりを挟むチュン、チュン、チュン――――――――
「んんっ!?」
窓から柔らかな朝の陽ざしが差し込み、俺の目元をくすぐる。
ふああっ、もう朝か・・・、いつの間にか寝てしまったようだ。
ふと見れば、奥さんズの面々があられもない姿で寝ていた。
・・・一体何があった?
イリーナたちがギャアギャアとうるさくもめ出したので怒った気がする。
もしかして、R18指定になっちまうような事でもしでかたのか!?
リーナに至っては事案発生になりかねないぞ!?
チュン、チュン、チュン!
それにしても朝チュンがやかましい。もしかして――――
『ふざけるな! もっと声を出せ! タマ落としたか!』
『『『『『チュンチュンチュン!(サー! イェッサー!)』』』』』
「またかい!」
またもヒヨコ軍団によるスズメの虐待・・・いや、厳しい調教につい大きな声で突っ込んでしまった。
そのため、イリーナたちが目を覚ましてしまった。
「んんっ・・・ヤ、ヤーベ・・・」
「ヤーベさまぁ・・・」
「旦那様・・・」
「ヤーベさぁん・・・」
「ふおおっ!ご主人しゃまー!」
ぬおっ!? どうしたんだっ!? みんなが気怠い!
後リーナがいつも通りでホッとしています!
「もう朝だよ? さあさあ、顔を洗ってシャッキリ起きようか」
「ふあーい」
「はあーい」
「かしこまりましたわ・・・」
「りょ・・・」
「ふおおっ!」
貴賓室から出ていく奥さんズ。サリーナよ、了解が短いな! 高度な挨拶テクだなぁ。
「偵察を含め、教会に懺悔に行こう」
俺は真面目にそう思った。
俺たちは馬車に揺られて王都聖堂教会の大聖堂に向かっていた。
大聖堂は王都聖堂教会の総本山であり、中心部となっている。
何でも入るだけで一人頭金貨1枚は寄付がいるというガメツさだ。
「・・・ヤーベ、だいぶローガ達がしょげていたぞ?」
昨日も王城に出向いていたしな。
最近ローガ達の相手をまったくしていない。
ずっとゲルドンとトレーニングしている。
「何かイベントを考えねばな・・・」
楽しいイベントで使役獣たちとのコミュニケーションを図らねば。
いや、飲みにケーションってやつか?
俺がうだうだと悩んでいる間に馬車は大聖堂に到着したようだ。
「でかいねー、ココ」
この聖堂教会、かなり胡散臭いうわさが多い。
ヒヨコの情報でもかなり酷い物が多かった。
それに大聖堂の下働きのアリーちゃんが虐げられてるって話と、ポポロ食堂の姉妹のお母さんが教会の日雇い作業に参加した後行方不明になっている件、シスターアンリが嫌がらせを受けている件・・・後、質の悪い聖女か。
集まった情報だけ見てもロクでもねーな、王都の聖堂教会。
無駄に荘厳な造りの聖堂教会入口を潜ろうとすると偉そうな態度の神官に呼び止められた。
「大聖堂に入るならば寄付を納めよ」
シンプルにイラッとするヤツだな。
「はい」
だが潜入調査プラスついでに懺悔なのだ。
仕方なく払う。
「うむ、良い心がけだな。信心深い者には救いがあるだろう」
払った金貨を見てニヤつくお前には救いはねーだろうけどな。
「随分と横柄なのだな」
「質の悪い聖職者ですわ」
イリーナとフィレオンティーナがムッとした表情を浮かべるが、俺はとりあえずスルーするように指で合図を送ると、そのまま大聖堂内に足を踏み入れた。
そのまま俺たちは「祈りの間」と呼ばれる女神像のある大きな部屋に入った。
どうやら女神像の前で祈りを捧げるようだ。
「とりあえず祈ってみるか」
女神像の前で跪き一応祈ってみる。
後ろからついて来た奥さんズの面々もそれぞれに祈り出す。
「・・・・・・」
やっぱねーのかよ! 呼べよ女神! ラノベのお約束だろ!
教会に来たら神様が挨拶に来いよ! チクショーめ!
オノレカミメガ!
俺は一通り憤ると、本来の目的を果たす。
足先からどろりと溶かしたスライム細胞を床の隙間から流し込んで行く。
「・・・女神様ありがとうございます。おかげさまでヤーベと結婚することが出来ました」
「ヤーベ様と引き合わせてくださいました女神様に感謝します」
「女神様のお導きにて旦那様のそばにいられるようになりました」
「女神様のおかげでヤーベさんと出会う事が出来ました」
「ふおおっ! ご主人しゃまバンザーイ!」
みんな、女神に俺との出会いを感謝してるな・・・他にもっと感謝してもよさそうな事がありそうなものだが。無駄に女神への感謝が爆上がり中だな。後リーナよ、意味が分からないぞ。
「ちょっと! アンタ臭いのよ!」
けたたましい叫び声が聞こえたので、ふとそちらに視線を向けると、ボロボロの服を着た少女を綺麗な服を着た少女が足蹴にしていた。
「すみません、すみません、あまり体を拭くお水が貰えなくて・・・」
「当たり前よ! アンタのような何のとりえもないクズに水なんてやるわけないじゃない!」
そう言いながらボロをまとった少女を目の吊り上がったキツそうな少女が蹴り続けている。
周りの神官たちの中には、その行為に目を細めている者達もいるようだが、注意はしなかった。
「この聖女であるフィルマリー様のおかげでここにいられることに感謝しなさいよ!」
感謝しろと言いながら蹴り続ける聖女フィルマリー。
「臭い足で蹴りを入れてるから彼女が臭くなっちゃうんだろうな~」
俺は聞こえる様に言った。
その間も俺は足先からスライム細胞を床の隙間に大量に流し込んでいる。
「な、何ですって!!」
聞こえる様に言ったので当然の如く耳に入った聖女フィルマリーが烈火のごとく怒りの目を俺に向けて来る。
「聞こえなかったのか? お前の足が臭いから蹴られた彼女まで臭くなるんだろう」
「ふざけるんじゃないわよ! アンタアタシを侮辱したわね! 不敬罪で死刑よ! 死刑!」
聖女フィルマリーががなり立てる。
不敬罪って、本気か? コイツ。
どちらかと言えば、成りたてホヤホヤの新人男爵だけど、貴族である俺にこんな態度を取るコイツが不敬罪なんじゃね?と思わないでもない。
・・・まあ、貴族の特権振り回すような趣味はないけどさ。
「意味が分からないな。不敬罪で死刑? 教会にはそんな意味不明な法でもあるというのか?」
それはそうと、俺は今忙しいのだ。
ふむふむ、ここにこれが・・・、そっちにはこんな物も・・・
「そうよ! 私が法であり正義なのよ! そういうわけでアンタは死刑確定よ!」
周りの神官も可哀そうな目を向けて来る・・・俺に。
どうも本気で言っているようだし、周りの神官の雰囲気から察するに、下手をすれば俺が本当に死刑になりかねないくらいの勢いなのだろう。
「君、アリーちゃん?」
俺は足クサ女(自称聖女)を無視して、蹴られていた少女に話しかける。
「は、はい・・・私はアリーです」
「そうなんだ。俺の友達がね、アリーちゃんがいつもそこの足クサ女にいじめられて辛そうだから助けてあげてって。ここから逃げないのは行くところがないから?」
「そうです・・・」
「誰が足クサ女よ! アンタは死刑が確定したわ! 死刑100回よ!」
足クサ女(自称聖女)がキャンキャン喚いているが、俺は忙しいのだ。こんな雑魚に構っているヒマはない。さてさてこっちの部屋は・・・
「!!」
俺は一瞬、あまりの怒りに殺気と魔力が漏れてしまった。
「ひいっ!!」
聖女とやらが腰を抜かして失禁する。無様だな。
だが、こんな雑魚など相手にしているほどヒマではない。大事な事だからあえて二度言おう。
ローブの内側を探る真似をして。亜空間圧縮収納から紙と筆を出す。
さらさらと伝えるべき事を書きつけて、ヒヨコ隊長に咥えさせる。
「例のオッサンに届けてくれ。大至急だ」
『ぴよー!(了解!)』
ヒヨコ隊長はすごいスピードで大聖堂を飛び出て行った。
「クルセーダー、ローガを呼べ。向かうのは騎士隊長邸だ」
『ぴよー!(了解!)』
ヒヨコ十将軍クルセーダーも大聖堂を飛び出して行く。
そしてアリーちゃんに優しく微笑む。
「いい教会を知っているんだ。シスターアンリが運営している教会でね。孤児や行く当てのない子供たちを引き取ってみんなで力を合わせて生活しているんだ。アリーちゃんを優しく迎えてくれると思うよ?」
「ほ、本当ですか!?」
「うん」
「い、行きたいです! シスターアンリさんのところへ!」
泣きながら這うようにして俺に縋りつくアリーちゃん。
「勝手な事するんじゃないわよ! そいつはアタシのペットなんだから!」
「ああ? シッコ漏らしが何言ってんだ?」
再度殺気が漏れてしまう。
「ひいいっ!」
再度失禁する聖女とやら。無様極まりないな。
「ぐふふふふ、シスターアンリの教会は潰れるので無理な話ですなぁ」
急に太ったねちっこそうなブタが奥の通路からやって来た。
おお、声だけで鳥肌が立ちそうなほど嫌悪感を催す声・・・あな恐ろしや。
「ドムゲーゾ枢機卿! コイツは不敬罪よ! 死刑よ! 殺しなさい!」
聖女が殺せってセリフ堂々と吐くの、どうなんだろう?
「聖女シッコ・モラシータよ。貴様はお漏らしの罪によりお尻ぺんぺんの刑だ」
俺は某ケン〇ロウのごとく渋い声で指さす。
「誰がお尻ぺんぺんよ! というか、誰がシッコ・モラシータよ! 不敬罪不敬罪!!」
俺のツッコミに切れる聖女とやら。
そしてコイツが枢機卿のドムゲーゾか。
誰だよ、こんなブタを枢機卿の地位につけたヤツ。
「シスターアンリの教会が潰れる?」
「そうですよ? 彼女は教会への寄付を横領した罪に問われることになりましてねぇ」
実に嫌らしい笑みを浮かべるドムゲーゾ枢機卿。
「彼女は聖堂教会を脱退したのでは?」
「・・・彼女にいらぬ知恵を付けさせたのは貴様か? 我が聖堂教会は彼女の脱退を認めておらんよ。そして彼女が教会の寄付を個人口座に隠し持っていた。実に悲しい事だが、横領の証拠だ」
「俺が教会ではなく彼女自身に孤児院の活動費として渡したのに?」
「そうだ。彼女の商業ギルドの口座にある金は教会の寄付を横領したものだと俺が認めたのだ。それが真実だ」
更に愉悦に浸るかのように顔を歪めて笑うドムゲーゾ枢機卿。
「そうか・・・彼女はまだ聖堂教会に所属したままなんだな?」
「その通りだ。だから聖堂教会の法典に乗っ取り捌かれる」
「なら悪事で真っ黒のお前は細切れに捌かれて欠片も残らんな」
俺は肩を竦めて小馬鹿にしたように笑う。
「・・・下賤な輩が。不敬罪だな。そして、その後ろの女たちも教育が必要だな。全員を拘束しろ」
堂々と言い放つドムゲーゾ枢機卿。なんだろう、教会の権力に酔いしれすぎて、世の中のことが全て自分の都合通りに行くと勘違いしているような勢いだ。
「まったくもって理由がわからんな。教会内で誘拐か? お前アホじゃないのか?」
「男は死罪とする。殺す直前まで痛めつけろ。女どもをいたぶる姿を見せつけながら殺してやるわ。捕らえろ」
「お前、今まで生きてきた時間の中で一瞬でも本気で神を敬い信じたことがあるのか?」
「何を言っておるか、貴様。神は常にワシと共におるよ」
歪み切った顔はもはや人間として見るのが難しいほどに醜かった。
バタバタと槍を持った兵士のような連中が俺たちを取り囲む。
「騎士ではないのか? ドムゲーゾの私兵か?」
俺が首を傾げる。
「あらあら、わたくし、旦那様以外の方に触れられるのを良しとしませんの」
渦巻く魔力を纏わせるフィレオンティーナ。
「私もそうだな・・・」
イリーナが腰の剣に手を掛ける。
今更だが、出かける時に何故か軽装の冒険者ルックなんだな、イリーナは。
ルシーナ、サリーナ、リーナは戦闘力ゼロだ。イリーナとフィレオンティーナ二人でその三人を守りながらというのはかなり厳しいか。
「お待ちなさい」
奥から女性の声がした。
見れば豪華な白いローブを羽織った女性がやって来た。
「フラメーア枢機卿・・・」
ドムゲーゾ枢機卿がそちらを見て呟く。
「ここは神聖なる聖堂教会王都大聖堂ですよ? 何をしているのです」
比較的静かな声だが、妙な迫力がある。
「そちらの女性の方々。私について来て下さい。話を聞きましょう」
「だが、ヤーベは!」
「私の言う事が聞いていただけませんか? そちらの男性の方は別に話を聞きますので」
さらに後ろから2人の女性神官が出て来て、イリーナたち5人を連れて行く。
「ヤーベ・・・」
イリーナが心配そうな目を向ける。
とりあえず心配するなと手を振る。
・・・といっても、ヤツも危険だ。それを感じとる事はイリーナたちにはまだ難しいだろうし、かと言ってこの場で暴れるのは効率が悪い。
奥さんズが連れて行かれた後、祈りの間には俺だけが残される。
「ぐふふふふ、あの女、いつもお気に入りの女をいびり抜いて殺してしまう。殺すには惜しい女どもだからな。頃合いを見て譲り受けに行かねば」
自分の想像通りの内容に溜息しか出ない。
教会は本来恵まれない人々にとって救いでなければならない。
だが、いつしかこんな外道の巣窟の様に落ちぶれ果ててしまったとは。
「痛めつけろ!」
号令と共に槍の柄で俺を滅多打ちにする兵士たち。
倒れた俺をぐるぐる巻きにして地下にある牢屋に放り込んだ。
「なんで教会の地下に牢屋があるのかね?」
「まだそんな減らず口を聞ける元気があるとはなぁ」
ドムゲーゾ枢機卿が愉悦に満ちた笑顔で牢屋越しに俺を見た。
「すぐにあの女どもをお前の目の前に連れて来てやるわ。泣き叫ぶ姿が今から楽しみだわい!」
「横から獲物を攫われたブタが何を偉そうに」
俺の捨て台詞に顔色が変わるドムゲーゾ枢機卿。
「貴様ぁ! 許さんぞ! 必ず殺すからな! 泣いて命乞いをさせた上で殺してやる!」
そう言って捨て台詞を吐くと牢屋から遠ざかって行った。
さてさて・・・奥さんズが絶体絶命の大ピンチ・・・かな?
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