144 / 206
第10章 ヤーベ、貴族としての生活が始まる
閑話20 王都に住む人々の幸せな日常①
しおりを挟む「は・な・し・な・さ・い~~~~~」
「離しませんよぉ!」
自室を出た王女カッシーナが廊下を脱兎のごとくダッシュし
たその瞬間、
レーゼンが羽交い絞めにしてカッシーナ王女を引き留める。
「今夜は! 今夜はヤーベ様の奥様方が揃って初めて同衾されるのです! 何としてもその末席に!」
「いや、姫様! 同衾もダメですが、末席って! もう少し王家の血というものに誇りを持って下さい!」
「王家の誇りなぞ偉大なるヤーベ様の前では何の価値もありません!」
「いやいや、そこは姫様がしっかりヤーベ様に王家について教育されるくらいの気持ちで・・・」
喋っている間もレーゼンはカッシーナ王女に引きずられている。
(ちょっとまって!? なにこの姫様のパワー! 一体いつの間に!?)
暗殺者として超一流の実力を持つレーゼンがそのパワーを持ってしてカッシーナ王女を止められない。
「エマ! メイ! 手を貸してちょうだい!」
「「は、はいっ!」」
今度はカッシーナ王女の正面から新たにメイドが二人止めに入る。
「姫様! 何卒!」
「お留まり下さい!」
がしっとカッシーナ王女に抱きつく二人。しかし、
「ぬおおおおお!」
三人に抱きつかれているのにじりじりと前に進んで行くカッシーナ王女。
「ええっ!?」
「姫様すごいお力です!」
エマとメイと呼ばれたメイドたちが驚愕する。
「姫様! うら若き乙女が「ぬおおおおお!」などと男くさい雄叫びを上げてはいけません!」
レーゼンは違うところで引っかかっていた。
「じ、人海戦術~~~~!!」
その言葉に十人以上のメイドたちが「わああ~~~」っと走って来る。
ついにメイドたちに押しつぶされるカッシーナ王女。
王女の扱いがそれでいいのかと思わなくもないが。
「や、ヤーベ様ぁぁぁぁぁ! 私も! 私も貴方様のおそばにぃぃぃぃ!!」
カッシーナ王女の絶叫は王城に響き渡った。
「ふうっ!」
下町の定食屋ポポロの裏戸が開き、妹のリンは昨日のゴミを袋に詰めて裏通りの回収場所に出しに行った。
「昨日のお客さんいっぱいだったな~」
昨日は昼時から客が並んで、夕方前には売り切れてしまった。
材料の買い出しもすごく親切にしてもらえるようになったし、すべてはあの「ヤーベさん」と呼ばれるお兄さんのおかげだとリンは思っていた。
最初、教会の孤児やシスターたちと大勢で食べに来てくれたのだが、先日はお客さんの来ない昼過ぎにふらりと訪れてくれた。
「俺の必殺の料理があるんだけど、食べてみる?」
材料は良い物が買えるようになったのだが、あまりお客は増えていない。
お客さんが来ないと、一番得意の「コロッケ」もたくさん作れないし、油も痛んでしまうため、お金がたくさんかかってしまう。
ちょうどどうしたらいいのか悩んでいたところへヤーベさんが来てくれた。
「必殺の料理?」
「何よ! またアンタ来たの? 余計な事しないでよね!」
姉のレムが奥の厨房からやって来て文句を言う。
「妹を守るために気を張っているのはわかるけど、話を聞かないといけないときに聞けないのは損にしかならないぞ?」
「うるさいわよ!」
「このお店の名物は油で揚げる「コロッケ」だったんだよね?」
「そうよ! お母さんの作るコロッケは絶品なんだから! 私もその技術をマスターしてるんだから!」
「うん、なら俺の必殺の料理も作れるね。その名も「バクダン」だ!」
「バ、バ、バ、バクダン!!」
「なんか怖そうな名前ですね・・・大丈夫な料理なんですか?」
レムもリンも驚く。
「もちろん! 食べたらおいしくて爆発するくらいおいしいから!」
「「ええ――――!!」」
姉妹が揃って声を上げる。
「それに、さらに驚く「必殺のソース」があれば無敵だよ!」
「「む、無敵!?」」
リンとレムは顔を見合わせて、
「「教えて!」」
と声を揃えるのだった。
ヤーベが教えた料理は「バクダン」。所謂スコッチエッグと呼ばれる類のものだ。ジャガイモコロッケの中にゆで卵を入れて揚げたものである。さらにゆで卵を半熟にして、しかもラーメンの煮卵の様に味のするタレをしみこませたものを使用するように工夫した。それをじゃがいもで包んで衣をつけて油で揚げる。それに合わせるソースは「オーロラソース」と呼ばれる、マヨネーズとケチャップを混ぜ合わせたものをチョイスした。トマトベースのケチャップに似たソースはあったのだが、マヨネーズは無かったので、ヤーベがリンとレムに教えている。
「これもその内アローベ商会で取り扱うから、作るのが大変なら買ってもいいけど、作る方が安くて新鮮だから、頑張って!」
と励ましていた。作り方も内緒にしてね! なんて可愛く頼んでいたので、リンもレムもちょっと照れながら「「うんっ!」」と返事をしていた。
「はいっ!バクダン定食3つですね!お待ちください」
昼前から新しいメニュー「バクダン定食」の看板を立てた。
実はヤーベはバクダン料理にひと手間加えていた。
バクダン、という真ん丸なコロッケに、導火線の代わりに見立てたアスパラガスを焼いたものを1本突き刺して導火線の様に見立てたのだ。異世界で誰がこのネタわかるんだ・・・と言わんばかりのヤーベの無駄なこだわりである。
だが、これが功を奏したのかどうか、見た目が珍しいという評判と美味いという評判がさらに評判を呼び、店を開けてから材料切れになるまで店を閉められないほどの盛況ぶりとなった。
「ヤーベさん、来ないかな・・・」
ヤーベに料理を教えてもらってからというもの、毎日大繁盛のポポロ食堂だったが、多くのお客さんが訪れるのとは裏腹に、ヤーベはポポロ食堂に姿を見せていなかった。
リンは開店の準備を進めながらヤーベがまたお店に来てくれたらたくさんサービスしようと心に決めた。
「こら―――――! ちゃんとお掃除終わったら道具を片付けなさい!」
シスターアンリが声を張り上げる。
「「わああ~~~、シスターアンリが怒ったぞー!」」
子供たちが走って逃げる。
「もう、ちゃんと片付けないとだめだよ」
優しく声掛けして掃除道具を片付けるのはマリンちゃんだ。
彼女はストリートチルドレンとして一人で生活してきた時間が長いせいか、年齢よりもだいぶお姉さん感が出ていた。
逃げた子供たちが教会の庭に出る。
庭でヒヨコたちと遊ぶためだ。
「ぴよぴよぴ~」
「わああ~」
庭に飛び出た子供たちは待機していたヒヨコたちを捕まえようと走り回る。
「ぴよぴよ~」
ひらひらと飛んで子供たちの追撃から躱し続ける。
ボスであるヤーベからも子供たちの運動や筋力トレーニングの一環として、走り回って体を使わせるように指示されている。
こうして日常的に教会の子供たちはヒヨコによって鍛え上げられていた。
「キュピー!」
シュゴゴゴゴッと派手な音をまき散らしながら謎の生命体が教会に帰って来た。
<スライム的掃除機スライスイーパー>である。
「あっ! キューちゃんおかえり!」
マリンが教会の庭に出て来て帰って来た<スライム的掃除機スライスイーパー>を持ち上げる。
「キュピー!」
「シスター。キューちゃんが帰って来たので、ゴミの引き取り屋さんに行ってきますね!」
「気を付けてね!」
マリンは<スライム的掃除機スライスイーパー>を抱えてゴミ収集屋さんに向かった。
その肩にはヒヨコが2羽止まっていた。
ちなみに、マリンちゃんに不埒な理由で寄って来る連中はこの肩に止まったヒヨコ2羽による火炎攻撃で撃退されることになる。
『クロムウェル将軍! 教会南東の壁に敵が3名張り付いております!』
『壁を乗り越える瞬間を狙って迎撃せよ! 魔法の使用許可を出す!』
『ラジャー!』
ヒヨコたちの活躍により、教会は今日もどこかで襲撃者たちの悲鳴が上がっていた。
シスターアンリは商業ギルドの通帳カードを見ながら溜息を吐いた。
借金やら何やらで、とにかく支払わなくてはいけないお金を払ったら金貨5枚以上かかってしまった。いろんなことをしっかり節約して、子供たちの食事にはいい物を、と考えていたのだが、残りのお金を考えると、食費にあまりお金がかけられない。せっかくヤーベさんが子供たちのために出資してくれたのに・・・と落ち込みながら商業ギルドにお金を卸しに行くと、何故か金貨が15枚近く入っていた。
アンリはヤーベが金貨10枚を追加してくれたのだと気が付いた。
「ヤーベさん・・・」
アンリは、そっと教会に設置してある神の像ではなく、空に祈った。少しだけ頬を染めて。
0
お気に入りに追加
304
あなたにおすすめの小説
新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》
橘末
ファンタジー
20XX年、日本は唐突に異世界転移してしまった。
嘗て、神武天皇を疎んだが故に、日本と邪馬台国を入れ換えた神々は、自らの信仰を守る為に勇者召喚技術を応用して、国土転移陣を完成させたのだ。
出雲大社の三男万屋三彦は、子供の頃に神々の住まう立ち入り禁止区画へ忍び込み、罰として仲間達を存在ごと、消されてしまった過去を持つ。
万屋自身は宮司の血筋故に、神々の寵愛を受けてただ一人帰ったが、その時の一部失われた記憶は、自衛官となった今も時折彼を苦しめていた。
そして、演習中の硫黄島沖で、アメリカ艦隊と武力衝突してしまった異世界の人間を、海から救助している作業の最中、自らの持つ翻訳能力に気付く。
その後、特例で通訳担当自衛官という特殊な立場を与えられた万屋は、言語学者が辞書を完成させるまで、各地を転戦する事になるのだった。
この作品はフィクションです。(以下略)
文章を読み易く修正中です。
改稿中に時系列の問題に気付きました為、その辺りも修正中です。
現在、徐々に修正しています。
本当に申し訳ありません。
不定期更新中ですが、エタる事だけは絶対にありませんので、ご安心下さい。
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート
ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。
胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。
いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。
――――気づけば異世界?
金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。
自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。
本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの?
勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの?
どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。
まだ、たった15才なんだから。
ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。
――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。
浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。
召喚から浄化までの約3か月のこと。
見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。
※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。
29話以降が、シファルルートの分岐になります。
29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。
本編・ジークムントルートも連載中です。
邪神さんはキミを幸せにしたい
ぺす
ファンタジー
様々な魔物が跋扈する深く暗い森の中に一匹の謎の生命体が住んでいた。
それは森を騒がすものを排除し自身の生活の安寧を保つうちに周囲から怖れられ、いつしか森の主として崇められていた。
そんな森の主の元にとある理由から一人の女性が生け贄として捧げられる。
これはそんな森の主と女性の出会いから始まる物語。
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~
ももちく
ファンタジー
|神代《かみよ》の時代から、創造主:Y.O.N.Nと悪魔の統括者であるハイヨル混沌は激しい戦いを繰り返してきた。
その両者の戦いの余波を受けて、惑星:ジ・アースは4つに分かたれてしまう。
それから、さらに途方もない年月が経つ。
復活を果たしたハイヨル混沌は今度こそ、創造主;Y.O.N.Nとの決着をつけるためにも、惑星:ジ・アースを完全に暗黒の世界へと変えようとする。
ハイヨル混沌の支配を跳ね返すためにも、創造主:Y.O.N.Nのパートナーとも呼べる天界の主である星皇が天使軍団を率い、ハイヨル混沌軍団との戦いを始める。
しかし、ハイヨル混沌軍団は地上界を闇の世界に堕とすだけでなく、星皇の妻の命を狙う。
その計画を妨害するためにも星皇は自分の妾(男の娘)を妻の下へと派遣する。
幾星霜もの間、続いた創造主:Y.O.N.Nとハイヨル混沌との戦いに終止符を打つキーマンとなる星皇の妻と妾(男の娘)は互いの手を取り合う。
時にはぶつかり合い、地獄と化していく地上界で懸命に戦い、やがて、その命の炎を燃やし尽くす……。
彼女達の命の輝きを見た地上界の住人たちは、彼女たちの戦いの軌跡と生き様を『蒼星伝』として語り継ぐことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる