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第9章 ヤーベ、王都での生活を始める
第123話 まさかの提案に動揺を悟られない様にしよう
しおりを挟む俺を見てパチンとウインクをかますワーレンハイド国王。
全くもってイタズラ好きのちょい悪親父的な国王だ。
以前の王都談義で、死ぬほど悪口言った貴族もいましたけど、大丈夫ですかね?
言ってないよね? オレの方睨んでないよね?
後、聖堂教会のタチの悪さも、商業ギルドの管理の甘さも、ストリートチルドレンなんかの話もざっくばらんにガンガン話しちゃいましたけど?
「よくぞ参られた『救国の英雄』ヤーベ殿とそのお連れ様一向」
宰相ルベルクが声を掛ける。
「先に説明した通り、『救国の英雄』ヤーベ殿は国難ともいうべき事象を数々治めて頂いた功労者であり、王国としてはその大恩に報いるべき・・・」
「馬鹿な! 貴様なぜ生きている!?」
宰相ルベルクの説明を遮る様にプレジャー公爵は声を荒げて叫んでしまった。
「・・・どういうことか?」
ワーレンハイド国王が冷ややかな目でプレジャー公爵に説明を促す。
「あ、いやっ・・・別に・・・」
「今、明らかに貴様は『救国の英雄』ヤーベ殿が生きてこの謁見会場に姿を見せたことが信じられないといった言動をとったではないか。一体どういうことか?」
しどろもどろになるプレジャー公爵に畳みかけるワーレンハイド国王。
「・・・実はこの謁見の前にヤーベ殿が控室からメイドの手により連れ出され、暗殺者に襲われるという事件がありました。幸いな事にヤーベ殿自身に怪我は無く、大事には至りませんでしたが、諜報部を統括するグウェインがヤーベ殿を罠に嵌めたメイドの取り調べを行っておりますので、詳細が分かり次第ご報告申し上げるように致します」
さらに追い打ちを掛ける様に宰相ルベルクが詳細を説明していく。
「うぐっ・・・」
「大方、首を落として始末したとでも報告を受けて安心したのでしょうな、この暗殺を目論んだ黒幕は。それがヤーベ殿の仕掛けた罠であったとは知らずに」
嬉しそうに話す宰相ルベルク。
いいえ、こちらはそこまで想定していませんけど。
とりあえず暗殺が成功したと思わせておけば時間が稼げると思っただけで。
「ぐぐぐっ・・・」
表情が思わしくなくなるプレジャー公爵を尻目に、国王は俺に向かって言葉を発した。
「『救国の英雄』にふさわしい褒賞を用意しよう」
「ヤーベ殿の主な功績は以下になります」
そう言って宰相ルベルクが説明する。
・ソレナリーニの町<迷宮氾濫>の魔物殲滅
・ソレナリーニの町、城塞都市フェルベーンでのテロ活動鎮圧
・城塞都市フェルベーンでの重篤な患者回復(1000人以上)
・バハーナ村のダークパイソン討伐
・商業都市バーレールを襲撃したオーク軍勢1500匹の殲滅
・王都バーロンでの魔物襲撃における鎮圧助力
・キルエ侯爵襲撃事件の襲撃者撃退助力
・悪魔の塔に封印されていた悪魔王ガルアードの討伐
多いな! 自分で言うのも何だけど!
ソレナリーニの町での<迷宮氾濫>はともかく、魔物の襲撃は王都に向かう俺の先々で仕組まれたように起こっていたイメージがある。
・・・俺を狙ってのことだとすると、各町や村に到着するタイミングで事件が起きていた意味も見えてくる。直接的にしろ、オークの軍勢の様に間接的にしろ、裏で俺のタイミングを見ながら策略を張り巡らせていた質の悪い誰かがいるって事だもんな。
「見事な功績である。よってヤーベ殿をこのバルバロイ王国の男爵として叙爵することにする」
国王がそうぶち上げる。
「?」
あれ? 俺は事前の褒賞打診時に叙爵の件はお断りしたはずだが?
慌ててコルーナ辺境伯の方を睨む。
コルーナ辺境伯は首をブンブンと横に振っている。コルーナ辺境伯もあずかり知らぬ事か?
「ヤーベ殿には男爵としてこのバルバロイ王国の末永い安寧を支える一角を担って頂きたい」
宰相ルベルクが俺への期待を口にする。
「だだだ、男爵ですと! 一代限りの特別騎士爵などでは無くですか!」
「いきなり男爵に叙爵するのはいかがなものか!」
「どこぞの馬の骨ともわからぬものですぞ!」
一部貴族からワーレンハイド国王及び宰相ルベルクの説明に不満の声を上げるものが現れる。馬の骨って、俺様にホネなどないがな!
「お心遣いはありがたいのですが、私は世界を旅してまわる旅人にございますれば、男爵などと貴族の爵位を頂きましてもそのご期待に沿えるような働きは出来ぬ事でしょう。謹んで辞退させて頂ければと存じます」
事前の確認で伝わっていないのであれば、丁寧に説明する以外にない。
俺は膝をついたまま頭を下げて丁寧な口調で辞退を述べる。
「いやいや、ヤーベ殿には国の礎を築く一端を担って頂きたく、男爵への叙爵を受けて頂きたい」
「いやいや、私ごときの非才な身から見れば、爵位などという大役を担うことなどままならぬと・・・」
おいおい、グイグイくるな!
「いやいや、ヤーベ殿の体力、魔力は十分王国を支える貴族に名を連ねても問題ございませぬ」
「いやいや・・・」
俺と宰相でいやいや合戦を行っていると、謁見の間に凛とした声が響き渡る。
「それではヤーベ様への褒美として、私を下賜願えませんでしょうか?お父様」
そこには、国王と王妃、宰相が謁見の間へ現れた通路と同じ入口から姿を現した王女カッシーナがいた。
「おお、カッシーナ。しかし、ヤーベ殿の褒美に下賜とは・・・?」
ワーレンハイド国王がいきなり現れたカッシーナ王女に向き直り、その真意を問うた。
「はい。『救国の英雄』ヤーベ様はその功績素晴らしく、まさに『救国の英雄』の名にふさわしいお方に存じます。大事な事はそのもたらされた結果だけではなく、ヤーベ様ご自身がそれだけの力をお持ちになっておられるという事にありますでしょう。ならばこそ、叙爵して王国の礎を築く一端を担って頂ければそれに勝る喜びはないと存じます」
「うむ、そのとおりだな。そのためワシも宰相のルベルクもヤーベ殿を叙爵しようとしておる。だが、王女であるお前を下賜するというのは?」
国王のもっともな疑問にカッシーナ王女は説明を交えて答えて行く。
「叙爵の爵位が男爵なのはあまりにもヤーベ様のお力を軽視しているかと・・・。最低でも伯爵への叙爵が必要かと思いますが、それ以前にヤーベ様はご自身が旅人であり、叙爵をお断りする意思を示されました。これはすなわち、この国にずっと留まらず、必要があれば他国へ旅立つこともあり得ると暗に意思表示されているかと思います。ならばこそ、私という楔をヤーベ様に打ち込むことにより、叙爵による爵位ではなく、私という人間によりバルバロイ王国との繋がりを持って頂くことが最上の関係と考えますわ」
顔の半分を銀の仮面で覆ったカッシーナ王女がにっこりと微笑んだ。
仮面に隠れていない右半分の表情だけでも優しく微笑んでいるのがわかる。それほどにカッシーナ王女は普段見せない柔らかな表情を見せていた。
「ふむ・・・叙爵を受けてもらえないから、君がヤーベ殿に嫁いで、王国との関係を築いて協力体制を作ってくれる・・・そういうことかな?」
ワーレンハイド国王は自分の娘が仮面をつけているとはいえ引きこもった塔から姿を現し、自らの位置を朗々と語るその姿に感動すら覚えていた。
「その通りですわ、お父様」
王妃の隣までやって来て、父親であるワーレンハイド国王へ告げるカッシーナ。
カッシーナ王女の顔左半分を覆う銀の仮面が妖しく光り、一種異様な雰囲気を醸し出しているが、その所作はさすがに王女であると思わせるほどに完璧であった。
そのカッシーナ王女はそのまま一礼し、王族と宰相が立つ今の場所から階段にして5段、ヤーベが膝を付き控える場所まで降りていく。
「カッシーナ・アーレル・バルバロイにございます、『救国の英雄』ヤーベ様。今後はこの身を掛けて誠心誠意ヤーベ様に尽くし御身について行く所存にございます。幾久しくよろしくお願い申し上げます」
そう言ってドレスの裾を両手でつまみ、優雅にお辞儀をする。
カッシーナの顔を覆う銀の仮面から覗く笑顔は半分しか見えていない。それでもその美しさを隠せるものではなく、彼女が間違いなくこの国の王女であることを証明するかの如く光り輝いているように見えた。
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