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第8章 ヤーベ、王都ではっちゃける PARTⅠ
第107話 王国騎士団団長に挨拶しよう
しおりを挟む報酬ねぇ・・・今の所何にも浮かばないが。
また今度までに考えておこう。
「それでは帰るとするか」
フェンベルク卿の言葉に全員が立ち上がる。
現在昼過ぎ、お腹も空いてきたところだ。
帰りにどこかで食べたいな、などと考えながら王城の廊下を出口に向かって歩いていたのだが。
「これはこれは、コルーナ辺境伯様。大変ご無沙汰しております」
廊下を向こうから歩いて来た銀色の鎧に身を包んだ騎士が声を掛けてきた。
短髪に襟を短くした髪形だが、銀髪自体は美しく艶めいている。
しっかりしたガタイのイケメンだ。
「おお、グラシア騎士団長殿ではないか。こちらこそご無沙汰しておる。壮健そうでなによりだ」
お互いがガッチリ握手をする。
「グラシア騎士団長・・・って、王国騎士団の騎士団長、グラシア・スペルシオ殿ですか?」
俺が呟くと、グラシアはこちらを見て微笑む。
「おっ、君は俺の事を知っているのかい?」
「ええ、お噂はかねがね。昨日は妹さんの王都警備隊隊長であるクレリアさんにお会いしましたよ」
俺の言葉にグラシア殿はびっくりした顔をする。
「そうなんだ! もしかして、王都の警備隊配置地図を提出させたの、君のアイデア?」
「あ、そうです。届きました?」
「うん、今朝急に。警備隊の隊別に隊長名と人数、位置が書き込まれている地図がね。あれ、なんだい?」
「どうも、クレリア殿を陥れようとしている連中がいるようなのですよ。チンピラを雇って暴れさせて王都の治安に不安を抱かせるような事をしています。そのことをクレリア殿だけに責任転嫁して、その責任を取らせて隊長職から引きずり降ろそうという作戦の様でしてね。そこで、どの場所でチンピラが暴れて、どの隊が対応できなかったのか確認するための地図なんですよ」
「うわっ! キミ賢いね! 隊の配置近くでチンピラが暴れたのに捕まえられなかったら絶対責任追及できるよね」
「そうですね。だいたいそいつらが手引きした裏切り者かもしれないし」
「うわー、身内の裏切り者を炙り出せるんだね!」
「その通りです。2~3日続けて見れば状況が見えて来るでしょう。それを見ながら対策を練る様伝えてあります」
「いや~、君のような知恵者がクレリアについてくれるとはこれほどの僥倖は無いよ。これからもよろしく頼むよ!」
握手を求められて、ガッチリすると肩をバンバンと叩かれる。
「それはそうと、皆さんお腹空いてないかい? 今から騎士団の昼食なんだけど、皆さんも一緒にどうだい? コルーナ辺境伯様もよろしければいかがでしょうか?」
俺はコルーナ辺境伯の方を見る。
「俺も騎士団の連中がどんなものを食べているのか知らないな。良ければご相伴にあずかろうか」
「もちろん辺境伯様が普段召し上がられているような食事ではないのですが」
そう言って笑うグラシア団長。
グラシア団長について俺たちは食堂に案内してもらった。
「すごいですわね・・・」
フィレオンティーナはそのメニューと盛られる量に若干引いていた。
騎士団の昼食はいわゆるビュッフェスタイルだった。
お盆に皿を乗せて、料理が5種類くらい並んでいる物を思い思いに自分の皿に盛りつけ、パンとスープを受け取って食べるようだ。5種類の料理も肉が中心。野菜炒めが混じっていたり、煮込み野菜もあるが、ほとんど肉だ。
「みんなすごく食べるのだな・・・」
「すごいですね・・・」
イリーナとルシーナはボーゼンと見つめている。
それぞれ騎士たちが自分の皿に料理を盛っているのだが、その量が凄い。誰も彼も小山の様に料理を盛っている。
パンも一人で5~6個は食べているようだ。
「これ、ボクたちもこんなに食べていいのっ!?」
なぜかサリーナが笑顔満面で聞いている。
イリーナとルシーナが「マジで!?」みたいな表情でサリーナを見た。
「ふおおっ! ご主人しゃま! お昼はゴチソーでしゅぞ!」
リーナは騎士たちの豪快な食べっぷりを見て喜んでいる。リーナはサリーナ側か。
「はっはっは、お嬢ちゃんお腹いっぱい食べていいぞ」
一番小さいリーナがサリーナとともに大盛りの食事にすごく前向きだったのでグラシアはリーナに笑顔で言った。
「はいっ! 頑張って食べるでしゅ!」
なぜかビシッと敬礼を返すリーナにグラシアは元より、他の騎士たちもほっこりするのであった。
「いやはや、味がコッテリしているものが多かったが、うまかったな」
「コルーナ辺境伯殿に褒めて頂けるとは、騎士団の昼食もこれで箔が付くというものですな」
グラシア団長が快活に笑う。
「ところでヤーベ殿。腹ごなしに騎士団の訓練を覗いて行かれませんか?」
グラシア団長は歯がキラッと光りそうな爽やかな笑顔を向けてくる。
だが、この爽やかな笑顔はもちろん罠だろう。
ラノベにおいて、騎士団の訓練を見学というイベントは、ほぼ100%の確率で、ちょっと手合わせしよう的な流れになり、巻き込まれてしまう事間違いなしだ。
「いや~、それはちょっと・・・」
この後も予定がありますので~みたいな流れで断ろうと思ったのだが、
「それはいいな! 久しぶりに血が滾るわ!」
まさかのコルーナ辺境伯即答!
しかも血が滾るって。
コルーナ辺境伯ってそんな脳筋なイメージ無かったですけど?
タルバリ伯爵ならともかく。
「<迷宮氾濫>で大量の魔物を討伐して町を救った君の実力をぜひ見せてもらいたくてね、ヤーベ殿」
「えっ!?」
どうしてグラシア団長は俺の事を知っているのか?
クレリアから聞いたとしても<迷宮氾濫>の規模を正確には把握していないはずだが。大量の魔物という意味を正確に把握されているとしたら、王国には1万の魔物を殲滅した人物として情報が上がっていると言うことになる。
・・・どうせ、ソレナリーニの町の冒険者ギルドマスター・ゾリアが喋ったに違いない。奴に土産は無しだな!副ギルドマスターのサリーナにその分お土産を増やしておこう。
「君の武勇伝は王都でも噂になっているよ。もちろん漠然とした噂が多いんだけど、さすがに王国に仕える騎士団を預かる者としては、ある程度正確に君の情報を掴んでおく必要があってね。ソレナリーニの町で起こった<迷宮氾濫>への対応、城塞都市フェルベーンの奇跡の立役者、バハーナ村のダークパイソン討伐、商業都市バーレールでのオーク1500匹殲滅等、君は派手な逸話が絶えなくてね。ぜひともその腕前を見てみたくてね」
はいアウーッツ!
全然見学じゃないですよね?よね?
「・・・それ、見学だけで終わらないヤツですよね?」
「まあ、そうだね。ぜひ模擬戦の参加を頼むよ」
なぜかウインクしていい笑顔を向けてくるグラシア団長。
どうみても断れない笑顔だ。
「・・・はい」
俺は溜息を吐くような承諾の返事を返すのだった。
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