上 下
102 / 206
第8章 ヤーベ、王都ではっちゃける PARTⅠ

第92話 定食屋で昼ご飯を食べよう

しおりを挟む

ヤーベ達が南地区の教会でシスターアンリと会っていた頃、コルーナ辺境伯家の庭ではゲルドンが狼牙族を相手にトレーニングをしていた。

『あのオーク、ボスに言われてトレーニングしてるんだって?』

『ああ、一応俺たちを殺すつもりでハルバードを振れって言われたようだが』

四天王の一角、雷牙と氷牙がゲルドンを見ながら話していた。

『だが、オークなんだろ? オークなんぞ鍛えたって役に立つのかねぇ』

雷牙は多少嘲りの色を持って呟く。

『侮るな! あのオークはボスの使役獣となった特別なオークだぞ。それでもボスは俺たち狼牙族ならば危険なことは無いと信頼して俺たちを殺す勢いでやるこのトレーニングの指示を出していらっしゃるのだ。だが、万が一に備えてヒヨコ隊がそこに控えている。万一、一撃貰って大けがでもした場合、すぐに緊急念話がボスに届くようになっているんだ。俺たちを信用して任せてくれ、且つ心配して緊急時の手配を済ませてくれている。これほど俺たちにとってありがたいボスがいるだろうか。いやいないぞ!』

風牙が涙を流しながら力説する。

『お、おお・・・』

熱すぎる風牙の弁舌に若干引き気味の雷牙。

『だが、ハルバードの一撃は万一当たりでもすれば致命傷になりかねない。それこそ部下の連中にもいいトレーニングになるであろうよ。もう少しゲルドン殿が攻撃に慣れて来れば、躱すだけでなく、コンビネーションで攻撃に転じるトレーニングがあっても良いだろう』

氷牙が冷静にトレーニングを分析する。

『くくっ! ハルバードを振るうだけでもとんでもなく疲れるだよ!』

ぶつくさいいながらも周りに配置される狼牙達を次々に狙っていく。
ゲルドンのトレーニングはヘトヘトになるまで続くのであった。

 

 

・・・・・・

 

 

「アンリさん、少し早いですが、みんなでお昼ご飯に行きませんか?」

俺はアンリさんに孤児のみんなと一緒に食事に行こうと誘った。

「え、ええ・・・? ですが、それほど予算も今はありませんし・・・」

「もちろん私が食事代は持ちますよ。ご心配なさらずに」

「よろしいのですか・・・?」

おずおずと聞いてくるアンリさんの肩をポンポンと叩いて、

「さあゴハンに行きましょう!」

新たにマリンちゃんを加えた9人の孤児たちを連れて食事のため、ある店を目指して出かけようとした。

「あら、お出かけ? お気をつけて」

「オソノさん、すみません、留守番お願いしますね」

「はい、いってらっしゃい」

オソノさんというおばあさんに見送られて食事するお店に出発した。

 

目指すお店は・・・そう、「定食屋ポポロ」である。

だが、定食屋ポポロは西地区にある商業区画のお店だ。徒歩では遠いし、子供たちもいる。無理はさせられない。

だが、そんな俺様は秘策を用意している。

「タララタッタタ~ん! ローガの狼車ローシャ!」

『ボス・・・もう少し名称に気を使って頂けるとありがたいのですが』

「え~、ダメかね?」

俺が取り出したのは大きめのリヤカーのようなもの。

馬車ばしゃならぬ、狼車ろうしゃだ。

早速ローガにつなぐことにする。。

「さあみんな乗って乗って」

「「「わ~い!」」」

子供たちが喜んで荷台に乗る。

「あ、アンリさんもどうぞ」

手を差し出し、荷台の前部に引き上げる。

「あ、ありがとうございます・・・」

手を握ったためか頬を赤くして俯くアンリちゃん。かわゆし。

「さ、出発しますよ」

俺はローガに手綱で合図を送ると、ローガが元気よく歩き出した。

「わー!すごーい!」

子供たちが大はしゃぎだ。

 

 

「さて・・・、ここがお目当ての定食屋さんです」

定食屋ポポロの前に着いた俺たち。

「わあ・・・なんとなくですが、レトロな定食屋さんですね」

アンリさんがお店の前で呟く。
うん、もう少しストレートに言うと、ボロいねこの店。

「「「お腹空いた~!」」」

子供たちが元気に声を上げる。

「じゃあ、早速お店に入ってご飯を食べようか」

「「「はーい!!」」」

子供たちは元気よく返事をするのだった。

 

 

「まいど~」

俺は建て付けの悪い格子戸を引いて扉を開ける。

「あ、いらっしゃいませぇ」

お盆を持った少女が奥からタタターっと走って来た。

「全員で11人だけど大丈夫かな?」

聞いては見たけど、大丈夫だろう。
何せ店にはお客がゼロ。誰もいないのだから。

はっ!? 11人分も食材がないという可能性が!?

「はいっ! どうぞこちらの席へ」

だが、少女は笑顔で俺達を席に案内してくれた。
とりあえず食事が出来そうでよかった。

子供たちを席に座らせて早速メニューを見る。

「・・・・・・」

メニューを見るが、いくつかが消されて、現在選べるのは・・・

『野菜炒め定食』

その一択のみであった。オンリーかよ。
思わず前世のビーフorチキン・・・チキンオンリーのCMを思い出してしまった。

金額は銅貨5枚。

「・・・これしかメニューが無いんだね。えっと、みんなこれでいいかなって、ダメでも他にないんだけどね」

俺は苦笑しながら子供たちに伝える。

「ふふっ、子供たちは食べ盛りですから、なんでもおいしくいただいちゃいますよ!」

アンリさんが笑ってくれる。
じゃあ早速注文しよう。

「注文お願いしまーす」

「はいっ! お待たせしました。何にいたしましょう・・・って、今は野菜炒め定食しか出来なくて・・・すみません」

そう言って頭を下げる小学生高学年くらいの女の子。

「そうなんだね。とりあえず野菜炒め定食11人前でね」

「はいっ! ありがとうございます! お姉ちゃん野菜炒め定食11人前入りまーす!」

「わっ! そんなにお客さん来てくれたんだ・・・、お姉ちゃん頑張って腕を振るうよ!」

フライパンでジャッジャッと野菜を炒める音が聞こえてくる。

「さあお待たせしました。野菜炒め定食お待ちどうさまでーす!」

出来立ての野菜炒め定食が出てくる。
湯気が立ち込める野菜炒めは中々にうまそうなのだが・・・

よく見れば、明らかに野菜が切れ端や欠片のような端材で出来ている。

一口食べてみる。味自体は悪くないと言えば悪くないのだが・・・。
プロの味ではない。素人の家庭料理といったところだ。
頑張っていると言えなくもないが。

それより何より、素材が悪い。悪すぎるといってもいい。

素材さえマシならば家庭料理とはいえ、そこそこ食える料理になりそうなんだが。

「おいしー!」
「あったかーい!」
「シャキシャキー!」

子供たちには好評のようだが、正直この値段で、このメニュー一択。材料もいい物を使えていない。

(ないわぁ・・・)

なぜ姉妹が定食屋など開いているのか不明だが、どう考えても客が入る要素が無い。

(これはやっかいな案件になりそうだな・・・)

俺はお店の天井を見つめて溜息を吐いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...