上 下
84 / 206
第7章 ヤーベ、王都に向かって出立する!

第77話 厄介な魔物はローガ達に丸投げしよう

しおりを挟む


自分以外に転生者がいる。
この事実は俺にかなりの衝撃を与えた。
考えなかったわけではない。
だが、今までは自分がスライムだったこともあり、あまりそのことに意識を向ける余裕も無かった。
この世界で自分以外に転生者がいると分かった以上、転生者が敵になればかなりの脅威となる。なぜなら、なっちゃんが言っていたように俺の知らないチート能力を得ている可能性が高いのだ。
 
そうなればもはやチートが羨ましいなどと言っている場合ではない。
チート能力を持った転生者との戦いを想定した対策を練らなければならないのだ。
 
「尤も、どれくらい転生者たちがいるのかにもよるけどな・・・」
 
独り言のように呟く。
転生者が「迷い人」のようなイメージで決して珍しくないレベルの存在であればチート能力の情報を得やすいだろう。だが、今まで立ち寄った町ではそのような情報は皆無だった。
それは「転生者」が相当稀な存在であるか、その存在がほとんど知られていないか、国の上層部が秘匿しているかであると思われる。
 
今のところ「ナツ」以外の転生者がいるかどうかはわからないし、「ナツ」にしても、何とかコミュニケーションを取る事によって戦闘は回避できた。その代わり「ナツ」のチート能力は把握できずじまいとなっている。
 
「ヤーベ、どうした? もうすぐ王家直轄領最初の町バリエッタに着くようだぞ」
 
頭の中で情報整理に追われていた俺をイリーナが現実に引き戻してくれる。
時間的には昼過ぎ、と言ったところだろう。バリエッタの町で一泊して明日の朝また王都に向けて出発することになる。
 
王家直轄領に入ったので、冒険者ギルドに顔を出してギルド証を提示しておく必要がある。領を移動したら冒険者ギルドでギルド証を出しておくように言われていたのだ。
タルバリ領ではすっかり忘れていたが。
 
王家直轄領のバリエッタの町でも貴族は専用の門から待たずに町へ入れる。
便利なものだが、往来が多いのか一般受付の門では町へ入るための受付待ちが相当列を作っていた。
少し気が引けるな。
 
例によってこの町で一番良い宿を抑えてあるとのことで馬車は直接宿の前まで移動する。
コルーナ辺境伯家のみんなは宿でゆっくり休むようだが、俺は挨拶を済ませると冒険者ギルドへ出かけることにする。イリーナがついて来るが、例の如くサリーナは錬金術ギルドに出向くと言って別行動になった。
 
「ヒヨコ隊長、部下にいつも通りサリーナの護衛を。ローガ達は宿で待て」
 
『ははっ』
『ボス、ギルドは使役獣や馬車用の馬を休ませる厩舎があります。我々もぜひ同行させてください』
 
「だが、みんなで行くと目立って仕方がないし」
 
『では、我だけでもお供致しましょう』
 
ずずいっとローガが前に出る。

『あ、キタネェ!』
『リーダーばっかり!』
『そうだそうだ』
 
次々わふわふと文句を言い出す狼牙達。
 
『やかましい!』
 
 
シンッ!
 
 
一瞬にして静まる狼牙達。四天王を含む。
 
『ささっ、ボス参りましょう!』
 
ニコニコしながら催促するローガ。
 
「いや、ここまでシュンとされたら連れて行かんわけにもいくまい。全員ついて来ていいから、きちんと並んで来いよ?」
 
『さすがボスだ!』
『よっ! 大将カッコイイ!』
『一生ついて行くでやんす!』
 
次々ほめたたえる狼牙達。なんだかずいぶんと調子のいい奴らに育ってしまったきがするな。
 
『仕方のない奴らだ。ボスに恥をかかせない様に列を乱すなよ! きちんとついてこい』
 
『『『わふっ!』』』
 
そんなわけでまた俺とイリーナの後ろに狼牙達が61頭もついて来ることとなった。
 
 
 
「うおっ!? なんだあれ?」
「使役獣?」
「整然と並んでるって、ありえるのか?」
「あり得るから目の前を歩いているんだろうよ」
「すげー!」
 
完全に注目の的だ。
 
「お、良い匂いだ。ローガ食べるか?」
 
『わふっ!(ぜひ!)』
 
10件以上並んでいる屋台を次々覗いては買いまくった。
 
何せ山のように買っても61頭の狼牙達の食欲はハンパない。
次々に屋台で買った食べ物を食い尽くしていく。
 
「ヤーベ、ワイルド・ボアのスラ・スタイルだぞ! 一緒に食べよう!」
 
イリーナが屋台でワイルド・ボアのスラ・スタイルを2個買うと、1つを俺に差し出してくる。俺様考案のスラ・スタイルが王家直轄領でも流行っているのか・・・。
マジで名前しくじったな。
 
「アースバードの唐揚げも追加しよう」
 
イリーナは嬉しそうに唐揚げ屋の親父に唐揚げを注文する。

『イリーナ殿! 我にもアースバードの唐揚げを!』
 
「ローガもアースバードの唐揚げ食べるのか? もっと注文するか」
 
さらに財布から銀貨を取り出しているイリーナ。
・・・イリーナも普通にローガとコミュニケーションを取ってるな。まあいいけど。
 
その後30分以上屋台の前で食べまくって多くの屋台を売り切れに追い込んだ。
 
 
 
カランカラン
 
冒険者ギルドの扉を開けると、一斉にこちらを見る人々。
白ローブとポンコツ女剣士は珍しいですかね?
 
受付カウンターでギルド証を提示する。
 
「これから王都へ向かうので一応王家直轄領内での登録を頼む」
 
「了解しました。登録させて頂きます。そちらの方もご提示ください」
 
美人受付嬢は淡々と業務を処理する。
 
「た、大変だ! 北のバハーナ村でダークパイソンが出た!」
 
「な、何ですって!?」
 
ちょうど俺たちにギルド証を返した受付嬢はすぐに奥の部屋へ行った。ギルドマスターに連絡を入れに行ったのだろう。
 
「ダークパイソン・・・とんでもねぇ魔物が出たな・・・。下手すりゃバハーナ村は・・・」
「おいおい、不吉なこと言うなよ」
「だが、ダークパイソンなんて大物、この辺の冒険者パーティじゃ討伐できねーだろ、王都の騎士団でもなけりゃ」
「だから騎士団への討伐要請が出るんじゃないか?」
 
冒険者ギルドの中は騒然となっている。
それほどの敵なのか、ダークパイソンって。
 
俺は冒険者ギルドを出ると、ビシッとお座りしているローガ達の元へ行く。
 
「ローガ、ダークパイソンって手ごわい敵か?」
 
『ダークパイソンですか? 魔素を取り込み巨大化したヘビですな。大きく育つと二十メートルを超える個体も出るようですが、我らからすればよい栄養源ですな』
 
わふわふと笑いながら答えるローガ。頼もしいね。
 
「北のバハーナ村近くでダークパイソンが出たようだ。どれくらいの規模かわからんが、仕留めて来れるか?」
 
『容易い事です。出来れば例の回収用出張ボスを付けて頂けると助かります』
 
「任せておけ」
 
そう言ってローガの頭に手をかざす。
そして手のひらから触手を伸ばし、手のひらサイズのティアドロップ型スライムを作ると千切ってローガの頭に乗せる。
 
「亜空間圧縮収納機能付きの出張俺様ボディだ。獲物を狩ったら放り込んでおいてくれ」
 
『了解です! 出張ボスを預からせて頂きます』
 
「気を付けて行ってこい」
 
と言っても町から出るのは<調教師テイマー>たる俺が門までいかないといけないのか。ローガと共にとりあえず町の門まで向かう。
 
出張用俺様ボディは、ローガ達が狩りに行くときに付ける俺の一部だ。千切った俺は自由に動いたりしないが、千切る前にスライム細胞に「亜空間圧縮収納起動」と命令しておけば、俺から切り離してもどんどん亜空間圧縮収納へ物を放り込むことが出来る。これでローガ達の狩りに俺自身がついて行かなくても亜空間圧縮収納に獲物を放り込めるため狩りの効率がすさまじく上がった。
 
『ボス、ダークパイソンを狩って参りましたら、ぜひともまた、ボスの手料理で「蒲焼」を食べたいのですが・・・』
 
チラッと横目で俺を見るローガ。
 
「ああ、いいぞ。たくさん作って腹いっぱい食べさせてやるさ」
 
『ありがたき幸せ! お前達気合を入れるぞ!』
 
『『『おおっ!』』』
 
「ヒヨコ隊長。部下を何名かつけてやってくれ」
 
『了解しました』
 
まあ、ローガ達に任せておけば大丈夫だろう。
アイツ・・・蒲焼好きだったんだな。
ダークパイソンの蒲焼・・・おいしいといいけど。
 

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》

橘末
ファンタジー
20XX年、日本は唐突に異世界転移してしまった。 嘗て、神武天皇を疎んだが故に、日本と邪馬台国を入れ換えた神々は、自らの信仰を守る為に勇者召喚技術を応用して、国土転移陣を完成させたのだ。 出雲大社の三男万屋三彦は、子供の頃に神々の住まう立ち入り禁止区画へ忍び込み、罰として仲間達を存在ごと、消されてしまった過去を持つ。 万屋自身は宮司の血筋故に、神々の寵愛を受けてただ一人帰ったが、その時の一部失われた記憶は、自衛官となった今も時折彼を苦しめていた。 そして、演習中の硫黄島沖で、アメリカ艦隊と武力衝突してしまった異世界の人間を、海から救助している作業の最中、自らの持つ翻訳能力に気付く。 その後、特例で通訳担当自衛官という特殊な立場を与えられた万屋は、言語学者が辞書を完成させるまで、各地を転戦する事になるのだった。 この作品はフィクションです。(以下略) 文章を読み易く修正中です。 改稿中に時系列の問題に気付きました為、その辺りも修正中です。 現在、徐々に修正しています。 本当に申し訳ありません。 不定期更新中ですが、エタる事だけは絶対にありませんので、ご安心下さい。

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。 胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。 いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。 ――――気づけば異世界?  金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。 自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。 本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの? 勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの? どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。 まだ、たった15才なんだから。 ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。 ――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。 浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。 召喚から浄化までの約3か月のこと。 見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。 ※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。 29話以降が、シファルルートの分岐になります。 29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。 本編・ジークムントルートも連載中です。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

転生したら守護者?になり称号に『お詫び』があるのだが

紗砂
ファンタジー
ある日、トラックに轢かれ死んだ都木涼。 そんな都木の目の前に現れたのは転生神だと名乗る不審者。 転生神)『誰が不審者じゃ!      わしは、列記とした神で…』 そんな不審……痛い奴……転生神のミスにより記憶があるまま転生してしまった。 転生神)『す、スルーしたじゃと!?      しかもミスしたなどと…』 しかもその世界は、なんと剣と魔法の世界だった。 ステータスの職業欄は何故か2つあるし?つきだし……。 ?って何だよ?って!! 転生神)『わし知らんもん。      わしはミスしとらんし』 そんな転生神によって転生させられた冒険者?のお話。 転生神)『ほれ、さっさと読ん……』 コメディー&バトルファンタジー(のつもり)スタートです! 転生神)『何故無視するんじゃぁぁ!』 転生神)『今の題は仮じゃからな!      題名募集中じゃ!』

グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ
ファンタジー
 ここは魔法溢れる大国『グランアーク王国』。ここには、数々の魔導士や錬金術師、剣士などの戦いや研究、商売といった様々な分野に長けた人々が『ギルド』と呼ばれる集団に属して互いの生活圏を支え合っていた。中でも、ここ『グランメモリーズ』と呼ばれる魔導士専門ギルドは、うるさく、やかましいギルドで、そのくせ弱小と呼ばれているが、とっても明るくて楽しいギルド!!火を操り、喧嘩っ早い赤髪主人公カラーの『ヴァル』、氷で物を作り、イケメン顔のくせにナルシストな気質のある『ヴェルド』、火、水、風、然の4属性を操る頼れる最強剣士『フウロ』。その他にも、私『セリカ』が入団したこのギルドは、個性的な面子でいっぱいだ!私は、ここで私の『物語』を描いていく。 ※この作品は小説家になろう様と同時連載です。キャラ紹介などは向こうにて書いておりますので、気になる方は私の著者ページに飛んで、そこから外部サイトとして登録してあるグラストをお楽しみください。

処理中です...