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第7章 ヤーベ、王都に向かって出立する!
第74話 炎の精霊フレイアの力を借りて今よりも生活基準をアップしよう
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本日から8月15日まで、朝と夜の二度、物語を更新していきます。
夏のお休みは巣ごもりでアルファポリスの物語にどっぷりとつかりましょう!
早く世界が落ち着き平穏が訪れますように・・・。
タタール村を朝一で出発。一山超えて平原を進んで行くと次の村であるソラリーの村に到着できる距離である。馬車で進んで約半日、夕方には到着できる予定だ。
一山超える峠には盗賊などが出ないとも限らないので斥候の騎士たちが出ているとのこと。
・・・コルーナ辺境伯家の騎士団も大変だね。剣だけ振ればいいってもんじゃないんだな。
それはそうと、馬車の中で俺は取り留めのない会話に相槌を打ちながら、昨日の夜の事を考える。
確かに俺は攻撃時に放つ精霊魔法についてはそのほとんどを水の精霊ウィンティア、風の精霊シルフィアの力を中心に借りている。風の精霊だけでも真空波を操れるため、<真空断頭刃>のような強力な風の斬撃を無数に飛ばすような精霊魔法が使える。水の精霊は生命を司る力もあり、<生命力回復>の精霊魔法は俺も重宝する。ウィンティアには本当にお世話になりっぱなしだ。野営の時もウィンティアの加護を受けた冷たくておいしい水を出せるし。それに<生命力回復の嵐>のように、水の精霊ウィンティアと風の精霊シルフィアの力を合わせた合成精霊魔法を造り上げる事にも成功した。
この二人の力は縦横無尽に活用させてもらっている。
そして土の精霊ベルヒアねーさん。
土は非常に汎用性が高い。
野営の時のテーブルや椅子はもちろん、箸やナイフ、フォーク、石斧、皿、器、何でも細々と作ることが出来るのだ。もはやこれは精霊魔法として呪文を使っている、という認識すらない。ベルヒアねーさんに相談して、こんなの欲しいなーって言うと、「どう?」って試作した物を出してくれる。もう二人で相談しながら作り上げる、作品だ。使い終わったらまた土に戻るのだが、最初はちょっと寂しかった。
「いつでも同じのを作れるから大丈夫よ」って後ろから抱きしめてくれたときは嬉しかった。それに、魔力を高めて作ると、解除しない限り消えたり崩れたりしない強固な食器などを作ることが出来るようにもなった。これで贈答品も製作できる。
・・・まあ、これを売りさばいて儲けようとは思わないけどさ。
それに、戦闘となればこの前のキラーアントを殲滅したような<石柱散華>、<永久流砂>のような超強力な攻撃系呪文もある。<土壁建造>のような防御系魔法も得意だ。ベルヒアねーさん一人でほとんどの内容を賄える万能さんなのだ。
そんなわけで、今回は、と言うか今後、ウィンティアとシルフィア、ベルヒアの三人だけでなく、炎の精霊フレイアの力も借りた精霊魔法もなんとか実行せねばならない。またフレイアに泣かれると困る。
「どんな魔法がいいか・・・」
馬車の窓から外の景色を眺める。
とりあえず野営があれば薪に火をつけるのにフレイアの力を借りればいいと思っていたのだが、今回の移動行程ではとりあえず一日でソラリーの村に到着する。
その後タルバリ領内でもう一村滞在したのち、タルバリ領最後の町へ到着する予定だ。その後は王都まで王家直轄の領土が続く。そんなわけで、もう野営のチャンスが無いかもしれない。
でもよく考えれば、炎の精霊フレイアの力を借りればいろんな事が出来る気がしてきた。
例えばドラム缶風呂だ!
・・・まあ、この世界にドラム缶は無いだろうから、それこそ土の精霊ベルヒアにドラム缶に似た器を作ってもらい、水の精霊ウィンティアに水を注いでもらい、炎の精霊フレイアの力で下から温めて風呂にする!
これ、完璧じゃね!?
野営はしばらくないけどさ。
それに、オーブン料理もいけるかもしれない。
もちろんオーブンは無いのだが、炎を一定に長時間保てるなら、今よりももっと料理の幅が広がりレパートリーが増えそうだ。さらにウィンティアやシルフィアの力を借りればスチームオーブンでヘルシーな蒸し焼き料理もチャレンジできるかもしれない・・・夢が膨らむな!
王都に着いたらコルーナ辺境伯やルーベンゲルグ伯爵家の皆さんに美味い料理を振る舞って俺のイメージアップを図るのもいいかもしれない。
焚火で焼いたワイルド・ボアもうまかったのだが、中まで火が通らず、あの時焼いてスラ・スタイルとして食べたのは外側の肉だけだった。尤もその後の内臓の食べられる部分と内側の肉の一部は煮込み鍋に、余った内側の肉はベーコンや干し肉などの加工品に回っていたけどね。
もしかしたら部屋の暖房も工夫できるかもしれない。
炎という力をどのように具現化できるかで変わって来るな。
部屋を暖かくする、マッサージをするときに触手を暖かくしてもらって効果を高める・・・、あ、触手は自分の魔力エネルギーを使えば温度を変えられるかもしれないけど。
お、もしかしたらフレイアとシルフィアの力を借りれば合成魔法で温風をコントロールできるようになるかも! ドライヤーをしてやれるかもしれないな。洗い立てのイリーナの髪を後ろから温風で乾かしながら梳かしてやる。ちょっといいかもしれない。
「・・・何をニヤニヤしているのだ? ヤーベ」
ふと見ればイリーナが窓の外を見ながらブツブツ言っている俺を不振がってジト目で睨みながら声を掛けて来た。
・・・しかしなぜ俺がニヤニヤしていると分かるのか。俺はイリーナに背を向けているし、何よりローブをすっぽりかぶっているのである。
「いや、特段何か考えていたわけではないのだが・・・」
俺が曖昧に答えたからだろうか、イリーナは話題を変えた。
「昨日、ヤーベの部屋から女のすすり泣くような声が聞こえてきた様な気がしたのだが・・・」
「あ、ボクも聞こえた様な気がしたけど!」
イリーナの爆弾発言にサリーナもあっさりと乗る。
「・・・幽霊でも出たのかな」
俺は馬車の窓から顔を動かさずに答える。
「ええっ!? 女性がすすり泣く声って、ヤーベさんまさか無理矢理連れ込んで!」
「なんだとっ!」
「こらこらっ! ルシーナちゃん滅多な事言わないで! なんで君たちと一緒に移動しているのにそんな事しなくちゃいけないの」
ルシーナちゃんのトンデモ発言にコルーナ辺境伯が腰の剣に手を伸ばす。
どうする気だよ!
「そうか、でも一瞬そうなのかと思ってしまった」
「うんうん」
イリーナにまでそう思われるとは。サリーナもあっさりと同意してるし。
「ヤーベの姿が滅茶苦茶かっこいい事が分かってしまったし・・・。その姿を見たら町娘たちが殺到してしまうぞ」
「そうだね、ボクもそう思うな!」
イリーナよ。俺は一体どこのアイドルなんだ!? そんな事あるわけないだろ!
そしてサリーナよ、何でも乗っかればいいというものでもないぞ。
「そんな事ありわけないだろ・・・。あまり気にしなくていいよ」
炎の精霊フレイアが号泣してましたなんて、言えるわけないし。言ったら言ったでフレイアが後でキレそうだし。
「ヤーベ殿、もちろんわかっている事とは思うが、婚前交渉は認められないからな。だが、若い上に力もあるヤーベ殿だ、辛い時は俺に相談するがいい。フェルベーンならいい店も・・・」
だがコルーナ辺境伯は二の句が継げない。
「ア・ナ・タ・・・?」
奥方がものすごい睨みを効かせている。
コルーナ辺境伯は滝のような冷汗が止まらない!
俺は馬車の窓の外の景色を見て素知らぬフリに努めることにした。
馬車は何事もなく峠を抜けて広い平原に出た。
「このまま真っ直ぐ向かうだけだが、非常にだだっ広いな」
コルーナ辺境伯は窓の外を見ながらぼそりと感想を呟く。
きっと移動にヒマしてるんだろうな。
でもそう言うセリフはフラグになりかねないから危険だ。
「た、大変です!」
「ど、どうした!?」
「信じらせませんが、グロウ・キャタピラーの集団がギール・ホーネットと混じりながら森から飛び出てきています! 至急回避しないと押しつぶされます!」
「ななな、なんだと!」
窓から外を見れば、濛々と土煙が横からこちらへ向かって来るのが見える。
やっぱりフラグだったか。コルーナ辺境伯のせいだな、ウン。決してこれは俺のせいではないぞ。コルーナ辺境伯の立てたフラグだからな。大事なことだから二度言っとく。
・・・フラグって恐ろしいほど強力だな。
「アレ、仕留めないとどこへ行くと思う?」
「う~む、多分だが、ここから近い村へ行くと思われるな・・・」
「とすると、倒さないと野宿になってしまうな」
「いや、そんなレベルの話ではないのだがな・・・」
俺は馬車の扉を開け、外に出る。
「<微風の探索>」
俺はシルフィアを呼ばすに風の精霊魔法を行使する。
「ふむ、二メートルを超えるイモムシが五十匹程度、でかいハチが百匹くらいいるな。ハチが空中を飛び回っているし、イモムシの突進力も侮れない。奴らを仕留めるには両方を一気に広範囲で殲滅できるほどの火力が必要だ」
「お、おいおいヤーベ殿、悪魔王ガルアードを倒したらしい貴殿の力を疑うわけではないが、あれほどの大群の魔物を仕留められるものなのか・・・?」
俺はコルーナ辺境伯の質問には答えず、虚空を見つめる。
「結構な魔物の数だな。だがお前の力を借りれば仕留めるのも造作も無いか。フレイア、力を貸してくれるか?」
少々勿体つけながら、炎の精霊フレイアを呼ぶ。
フレイアは俺のすぐ後ろに顕現した。
「ヤーベ・・・、やっと呼んでくれた・・・」
そう言って背中から俺を抱きしめるフレイア。後ろからの抱擁はベルヒアねーさんの特権ですよ?
「ううっ・・・」
感極まって泣くフレイア。
「この声って・・・?」
イリーナがフレイアの泣き声を聞いてピンと来てしまう。
ふだんはぽや~っとしてるのに!
「さあ行こうかフレイア。俺たちの初陣だ」
「ああっ! 任せろヤーベ!」
涙を拭って、嬉しそうに俺の肩に手を乗せるフレイア。
俺は魔物の方に向かって歩き出す。
「さて、一撃で仕留めようか。準備はいいかフレイア?」
「もちろんだ!」
「行くぞ! <十字火炎撃>!!」
両手を大きく広げたその先から炎が噴き出る。
その両手を自分の目の前でクロスするように振り下ろすと巨大な炎の十字架が敵に向かって飛ぶ!
ドゴォォォォォン!!
敵に直撃した炎の十字架は大爆発を起こし、その上で敵を焼き尽くしていく。
特に飛び回っていた巨大なハチは吹き飛んだ上に燃やされて逃げることも出来なかった。これが風や氷なら範囲から外れたハチに逃げられたかもしれないが、炎の爆発は吹き飛ばした上に燃やし尽くす。かなり強力な精霊魔法だな。
ハチだけでなく巨大イモムシもこんがり焼き上がっているものや、ばらばらに吹き飛んで燃やし尽くされたものが散らばっている。
「さすがフレイア。やはりちょっと強力過ぎるかな」
「うっ・・・これでもやり過ぎた? また呼んでもらえなくなる・・・?」
そういって目をウルウルさせるフレイア。
「大丈夫だ。俺の魔力で調整するし。また力を貸してくれ、フレイア」
そう言って頭を撫でる。
「ううっ・・・。やっとヤーベの役に立ったよぉ」
そう言って抱きついてくるフレイア。
よしよししてやってから、戻ってもらう。
「また、頼むな」
「いつでも、呼んで!」
そう言って姿を消すフレイア。
また、すぐ呼びたくなるような笑顔だったな。
これからはあの四人にも頻繁に出てきてもらって一緒にいろいろ試してみたりするか。
・・・まあ、それも王都でのイベントを無事にかわして泉の畔のマイホームに帰ってからだけどな。精霊が姿見せまくっていたら、即事案だろうし、王都から帰してもらえなくなるかもしれん。気をつけねば。
「とりあえず動いている魔物はいないな。それでは村まで行くとしましょうか。暗くなる前に到着するといいですな」
そう言って馬車の中に戻る。
「いや、分かってはいるつもりなのだ・・・わかってはな・・・でも・・・これは・・・」
コルーナ辺境伯が頭を抱えている。
「ヤーベ、見事だったな」
「ヤーベ様カッコよかったです!」
「ヤーベさん、素材ははぎとらなくて良かったの? ボク行ってこようか?」
三人娘がそれぞれ声を掛けてくれる。
それぞれの個性が出ていてわかりやすいね。
サリーナ。ハチやイモムシの素材はいらないです。
あまりお金にも困ってませんので。
さ、出発しようか。
夏のお休みは巣ごもりでアルファポリスの物語にどっぷりとつかりましょう!
早く世界が落ち着き平穏が訪れますように・・・。
タタール村を朝一で出発。一山超えて平原を進んで行くと次の村であるソラリーの村に到着できる距離である。馬車で進んで約半日、夕方には到着できる予定だ。
一山超える峠には盗賊などが出ないとも限らないので斥候の騎士たちが出ているとのこと。
・・・コルーナ辺境伯家の騎士団も大変だね。剣だけ振ればいいってもんじゃないんだな。
それはそうと、馬車の中で俺は取り留めのない会話に相槌を打ちながら、昨日の夜の事を考える。
確かに俺は攻撃時に放つ精霊魔法についてはそのほとんどを水の精霊ウィンティア、風の精霊シルフィアの力を中心に借りている。風の精霊だけでも真空波を操れるため、<真空断頭刃>のような強力な風の斬撃を無数に飛ばすような精霊魔法が使える。水の精霊は生命を司る力もあり、<生命力回復>の精霊魔法は俺も重宝する。ウィンティアには本当にお世話になりっぱなしだ。野営の時もウィンティアの加護を受けた冷たくておいしい水を出せるし。それに<生命力回復の嵐>のように、水の精霊ウィンティアと風の精霊シルフィアの力を合わせた合成精霊魔法を造り上げる事にも成功した。
この二人の力は縦横無尽に活用させてもらっている。
そして土の精霊ベルヒアねーさん。
土は非常に汎用性が高い。
野営の時のテーブルや椅子はもちろん、箸やナイフ、フォーク、石斧、皿、器、何でも細々と作ることが出来るのだ。もはやこれは精霊魔法として呪文を使っている、という認識すらない。ベルヒアねーさんに相談して、こんなの欲しいなーって言うと、「どう?」って試作した物を出してくれる。もう二人で相談しながら作り上げる、作品だ。使い終わったらまた土に戻るのだが、最初はちょっと寂しかった。
「いつでも同じのを作れるから大丈夫よ」って後ろから抱きしめてくれたときは嬉しかった。それに、魔力を高めて作ると、解除しない限り消えたり崩れたりしない強固な食器などを作ることが出来るようにもなった。これで贈答品も製作できる。
・・・まあ、これを売りさばいて儲けようとは思わないけどさ。
それに、戦闘となればこの前のキラーアントを殲滅したような<石柱散華>、<永久流砂>のような超強力な攻撃系呪文もある。<土壁建造>のような防御系魔法も得意だ。ベルヒアねーさん一人でほとんどの内容を賄える万能さんなのだ。
そんなわけで、今回は、と言うか今後、ウィンティアとシルフィア、ベルヒアの三人だけでなく、炎の精霊フレイアの力も借りた精霊魔法もなんとか実行せねばならない。またフレイアに泣かれると困る。
「どんな魔法がいいか・・・」
馬車の窓から外の景色を眺める。
とりあえず野営があれば薪に火をつけるのにフレイアの力を借りればいいと思っていたのだが、今回の移動行程ではとりあえず一日でソラリーの村に到着する。
その後タルバリ領内でもう一村滞在したのち、タルバリ領最後の町へ到着する予定だ。その後は王都まで王家直轄の領土が続く。そんなわけで、もう野営のチャンスが無いかもしれない。
でもよく考えれば、炎の精霊フレイアの力を借りればいろんな事が出来る気がしてきた。
例えばドラム缶風呂だ!
・・・まあ、この世界にドラム缶は無いだろうから、それこそ土の精霊ベルヒアにドラム缶に似た器を作ってもらい、水の精霊ウィンティアに水を注いでもらい、炎の精霊フレイアの力で下から温めて風呂にする!
これ、完璧じゃね!?
野営はしばらくないけどさ。
それに、オーブン料理もいけるかもしれない。
もちろんオーブンは無いのだが、炎を一定に長時間保てるなら、今よりももっと料理の幅が広がりレパートリーが増えそうだ。さらにウィンティアやシルフィアの力を借りればスチームオーブンでヘルシーな蒸し焼き料理もチャレンジできるかもしれない・・・夢が膨らむな!
王都に着いたらコルーナ辺境伯やルーベンゲルグ伯爵家の皆さんに美味い料理を振る舞って俺のイメージアップを図るのもいいかもしれない。
焚火で焼いたワイルド・ボアもうまかったのだが、中まで火が通らず、あの時焼いてスラ・スタイルとして食べたのは外側の肉だけだった。尤もその後の内臓の食べられる部分と内側の肉の一部は煮込み鍋に、余った内側の肉はベーコンや干し肉などの加工品に回っていたけどね。
もしかしたら部屋の暖房も工夫できるかもしれない。
炎という力をどのように具現化できるかで変わって来るな。
部屋を暖かくする、マッサージをするときに触手を暖かくしてもらって効果を高める・・・、あ、触手は自分の魔力エネルギーを使えば温度を変えられるかもしれないけど。
お、もしかしたらフレイアとシルフィアの力を借りれば合成魔法で温風をコントロールできるようになるかも! ドライヤーをしてやれるかもしれないな。洗い立てのイリーナの髪を後ろから温風で乾かしながら梳かしてやる。ちょっといいかもしれない。
「・・・何をニヤニヤしているのだ? ヤーベ」
ふと見ればイリーナが窓の外を見ながらブツブツ言っている俺を不振がってジト目で睨みながら声を掛けて来た。
・・・しかしなぜ俺がニヤニヤしていると分かるのか。俺はイリーナに背を向けているし、何よりローブをすっぽりかぶっているのである。
「いや、特段何か考えていたわけではないのだが・・・」
俺が曖昧に答えたからだろうか、イリーナは話題を変えた。
「昨日、ヤーベの部屋から女のすすり泣くような声が聞こえてきた様な気がしたのだが・・・」
「あ、ボクも聞こえた様な気がしたけど!」
イリーナの爆弾発言にサリーナもあっさりと乗る。
「・・・幽霊でも出たのかな」
俺は馬車の窓から顔を動かさずに答える。
「ええっ!? 女性がすすり泣く声って、ヤーベさんまさか無理矢理連れ込んで!」
「なんだとっ!」
「こらこらっ! ルシーナちゃん滅多な事言わないで! なんで君たちと一緒に移動しているのにそんな事しなくちゃいけないの」
ルシーナちゃんのトンデモ発言にコルーナ辺境伯が腰の剣に手を伸ばす。
どうする気だよ!
「そうか、でも一瞬そうなのかと思ってしまった」
「うんうん」
イリーナにまでそう思われるとは。サリーナもあっさりと同意してるし。
「ヤーベの姿が滅茶苦茶かっこいい事が分かってしまったし・・・。その姿を見たら町娘たちが殺到してしまうぞ」
「そうだね、ボクもそう思うな!」
イリーナよ。俺は一体どこのアイドルなんだ!? そんな事あるわけないだろ!
そしてサリーナよ、何でも乗っかればいいというものでもないぞ。
「そんな事ありわけないだろ・・・。あまり気にしなくていいよ」
炎の精霊フレイアが号泣してましたなんて、言えるわけないし。言ったら言ったでフレイアが後でキレそうだし。
「ヤーベ殿、もちろんわかっている事とは思うが、婚前交渉は認められないからな。だが、若い上に力もあるヤーベ殿だ、辛い時は俺に相談するがいい。フェルベーンならいい店も・・・」
だがコルーナ辺境伯は二の句が継げない。
「ア・ナ・タ・・・?」
奥方がものすごい睨みを効かせている。
コルーナ辺境伯は滝のような冷汗が止まらない!
俺は馬車の窓の外の景色を見て素知らぬフリに努めることにした。
馬車は何事もなく峠を抜けて広い平原に出た。
「このまま真っ直ぐ向かうだけだが、非常にだだっ広いな」
コルーナ辺境伯は窓の外を見ながらぼそりと感想を呟く。
きっと移動にヒマしてるんだろうな。
でもそう言うセリフはフラグになりかねないから危険だ。
「た、大変です!」
「ど、どうした!?」
「信じらせませんが、グロウ・キャタピラーの集団がギール・ホーネットと混じりながら森から飛び出てきています! 至急回避しないと押しつぶされます!」
「ななな、なんだと!」
窓から外を見れば、濛々と土煙が横からこちらへ向かって来るのが見える。
やっぱりフラグだったか。コルーナ辺境伯のせいだな、ウン。決してこれは俺のせいではないぞ。コルーナ辺境伯の立てたフラグだからな。大事なことだから二度言っとく。
・・・フラグって恐ろしいほど強力だな。
「アレ、仕留めないとどこへ行くと思う?」
「う~む、多分だが、ここから近い村へ行くと思われるな・・・」
「とすると、倒さないと野宿になってしまうな」
「いや、そんなレベルの話ではないのだがな・・・」
俺は馬車の扉を開け、外に出る。
「<微風の探索>」
俺はシルフィアを呼ばすに風の精霊魔法を行使する。
「ふむ、二メートルを超えるイモムシが五十匹程度、でかいハチが百匹くらいいるな。ハチが空中を飛び回っているし、イモムシの突進力も侮れない。奴らを仕留めるには両方を一気に広範囲で殲滅できるほどの火力が必要だ」
「お、おいおいヤーベ殿、悪魔王ガルアードを倒したらしい貴殿の力を疑うわけではないが、あれほどの大群の魔物を仕留められるものなのか・・・?」
俺はコルーナ辺境伯の質問には答えず、虚空を見つめる。
「結構な魔物の数だな。だがお前の力を借りれば仕留めるのも造作も無いか。フレイア、力を貸してくれるか?」
少々勿体つけながら、炎の精霊フレイアを呼ぶ。
フレイアは俺のすぐ後ろに顕現した。
「ヤーベ・・・、やっと呼んでくれた・・・」
そう言って背中から俺を抱きしめるフレイア。後ろからの抱擁はベルヒアねーさんの特権ですよ?
「ううっ・・・」
感極まって泣くフレイア。
「この声って・・・?」
イリーナがフレイアの泣き声を聞いてピンと来てしまう。
ふだんはぽや~っとしてるのに!
「さあ行こうかフレイア。俺たちの初陣だ」
「ああっ! 任せろヤーベ!」
涙を拭って、嬉しそうに俺の肩に手を乗せるフレイア。
俺は魔物の方に向かって歩き出す。
「さて、一撃で仕留めようか。準備はいいかフレイア?」
「もちろんだ!」
「行くぞ! <十字火炎撃>!!」
両手を大きく広げたその先から炎が噴き出る。
その両手を自分の目の前でクロスするように振り下ろすと巨大な炎の十字架が敵に向かって飛ぶ!
ドゴォォォォォン!!
敵に直撃した炎の十字架は大爆発を起こし、その上で敵を焼き尽くしていく。
特に飛び回っていた巨大なハチは吹き飛んだ上に燃やされて逃げることも出来なかった。これが風や氷なら範囲から外れたハチに逃げられたかもしれないが、炎の爆発は吹き飛ばした上に燃やし尽くす。かなり強力な精霊魔法だな。
ハチだけでなく巨大イモムシもこんがり焼き上がっているものや、ばらばらに吹き飛んで燃やし尽くされたものが散らばっている。
「さすがフレイア。やはりちょっと強力過ぎるかな」
「うっ・・・これでもやり過ぎた? また呼んでもらえなくなる・・・?」
そういって目をウルウルさせるフレイア。
「大丈夫だ。俺の魔力で調整するし。また力を貸してくれ、フレイア」
そう言って頭を撫でる。
「ううっ・・・。やっとヤーベの役に立ったよぉ」
そう言って抱きついてくるフレイア。
よしよししてやってから、戻ってもらう。
「また、頼むな」
「いつでも、呼んで!」
そう言って姿を消すフレイア。
また、すぐ呼びたくなるような笑顔だったな。
これからはあの四人にも頻繁に出てきてもらって一緒にいろいろ試してみたりするか。
・・・まあ、それも王都でのイベントを無事にかわして泉の畔のマイホームに帰ってからだけどな。精霊が姿見せまくっていたら、即事案だろうし、王都から帰してもらえなくなるかもしれん。気をつけねば。
「とりあえず動いている魔物はいないな。それでは村まで行くとしましょうか。暗くなる前に到着するといいですな」
そう言って馬車の中に戻る。
「いや、分かってはいるつもりなのだ・・・わかってはな・・・でも・・・これは・・・」
コルーナ辺境伯が頭を抱えている。
「ヤーベ、見事だったな」
「ヤーベ様カッコよかったです!」
「ヤーベさん、素材ははぎとらなくて良かったの? ボク行ってこようか?」
三人娘がそれぞれ声を掛けてくれる。
それぞれの個性が出ていてわかりやすいね。
サリーナ。ハチやイモムシの素材はいらないです。
あまりお金にも困ってませんので。
さ、出発しようか。
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幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
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