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第7章 ヤーベ、王都に向かって出立する!
第71話 お礼の話は後でゆっくりしよう
しおりを挟む「悪魔王ガルアードが居なかった事にするって・・・?」
水の精霊ウィンティアが首をコテンッと傾げる。
ショートカットの髪形だが、首を傾げたことによって襟足の髪の毛が揺れる。
・・・ちょっとドキドキ。
「うん。悪魔王ガルアードを倒したのを知っているのはここにいるみんなだけだろ? だから、悪魔王ガルアードは単なる石像だったよーって言うのはどうかな?」
ヤーベのザルすぎる計画に誰もが開いた口が塞がらない。
「あっ! ちょっと待ってて!」
そう言うと俺は屋上から五十九階へ降りて行った。
・・・・・・
「ヤーベ行っちゃったね」
「お兄様大丈夫かしら?」
「あの・・・お二人は・・・」
フィレオンティーナが精霊たちと話し始めたその時、
ドゴォォォォン!!
「わあっ!?」
「な、なんでしょう!?」
「も、もしやヤーベ様の身に何か・・・」
不安になる三人。だが、さらに・・・
ギョェェェェェェェェ!!
「ななななな!?」
「お、お兄様!?」
「ヤーベ様!」
より不安になる三人。
「ただいまっ!」
心配しているにも関わらずさらっと帰ってくるヤーベ。
「ヤーベー!!」
「お兄様!!」
「ヤーベ様!!」
いきなり三人が飛びついてくる。
「ど、どうしたんだい?」
「どうもこうもないよ、ヤーベ!」
「そうですわ! お兄様が居なくなってすごい音がしたり、とんでもない叫び声が聞こえたり・・・」
「ヤーベ様は何ともないのですか?」
どうやら三人にはずいぶんと心配をかけてしまったみたいだ。
「心配かけてすまなかったね。ほら、あの男が言っていたろ? 五十九階には悪魔王ガルアードを模したゴーレムを用意しており、五十八階にはフィレオンティーナに似せた悪魔が罠を張っているって。だから片付けて来た」
そう言って俺は亜空間圧縮収納から先ほどぶち倒した悪魔王ガルアードを模したゴーレムを取り出す。
ドンッ!
「わああっ!?」
「お兄様これ?」
「・・・ヤーベ様・・・」
「「「似て無くないですか??」」」
・・・俺もそう思った。ゴーレムは階段を守る様に立っていたので、階段を降りて行った俺はゴーレムの背中が丸見えだった。そこで問答無用で一撃をぶちかまし、ゴーレムのコアを破壊した。
その後五十八階に降りて、フィレオンティーナの偽物が走って来たので、容赦なく顔面にワンパン喰らわす。もんどりうって幻影魔法が解けた悪魔を即仕留める。それで帰って来たのだが。
よく見ると回収してきたゴーレムは先ほど俺が倒した悪魔王ガルアードには似ても似つかない。
足も二本、手も二本、ほとんど普通のゴーレムだった。
悪魔王ガルアードの姿を知っている者には通用しないだろうなぁ。
「ダメかなぁ・・・」
頭をボリボリと掻きながら、髪の毛をかき上げる。
<変身擬態>による矢部裕樹としての姿の維持はうまくいっている。
髪の毛すらうまく再現している。
「・・・ねえねえ、ヤーベ。それがヤーベの本当の姿?」
水の精霊ウィンティアが肩に手を乗せて聞いてくる。
「まあね・・・ホントの、と言うか、前の、と言うか・・・」
苦笑しながら答える俺。
「お兄様、すご~くカッコイイです!」
俺の左手に飛びつくように抱きついてくる風の精霊シルフィア。
「カッコイイ? 俺が?」
今の俺は<変身擬態>で矢部裕樹の格好を模していると言っていい。だから、地球時代の矢部裕樹の姿をイメージしているはずだ。だから、俺がイケメンってことは無いと思うのだが・・・。俺は特に特徴のない顔立ちだったはず。可もなく不可も無く。学校で言うならクラスに居るかどうかいまいち印象に残らない系の奴だ。
「ええ、すごくカッコイイですわ、ヤーベ様」
そう言ってフィレオンティーナまで俺の前に来て両手を組んで微笑む。
「さ、さあ! 取りあえず塔から脱出して帰ろうか! タルバリ伯爵やコルーナ辺境伯も待っていると思うしね!」
照れ臭すぎてとりあえず空気を換えるために地上へ帰る準備をする俺。
悪魔王ガルアードの残した武器、魔術師と首謀者の死体、偽物ゴーレム(笑)
それらは亜空間圧縮収納へしまう。
気絶させた十人の手下らしき連中は触手で縛ってとりあえず地上へ降ろしてしまおう。
「そおいっ!」
外壁から外へ十人を放り投げる。
その後スルスルと地上へ降ろしていく。手ごたえ無くなったら地上に着いたって事で。
多分塔の外壁にメッチャ擦れてそうだけど。
まあ、悪党だし適当だな。死ななきゃいーか、くらいで。
そしてフィレオンティーナをお姫様抱っこする。
「あっ・・・」
フィレオンティーナは二度目のお姫様抱っこになれたのか、腕を俺の首に回して力を抜く。
「さ、地上に帰ろうか。<高速飛翔>」
俺はフィレオンティーナをお姫様抱っこしながら大空を飛んだ。
・・・・・・
「フェンベルク卿! あの男が壁に向かったと思ったら、いきなり消えたんだが、どうなってるのだろうか?」
「ガイルナイト卿、実は私もわからぬ」
地上ではタルバリ伯爵がコルーナ辺境伯に泣きそうな顔で説明を求めていた。
だが、外壁に立っていたはずのヤーベの姿が書き消えてしまい、コルーナ辺境伯も理解できず説明に苦慮していた。
「ヤーベはたぶん外壁を上がって行ったと思われます」
タルバリ伯爵とコルーナ辺境伯が首を捻っていると、イリーナがヤーベの行動を説明する。
「そ、それではやはり、先ほど天空ですさまじい雷が落ちたり、竜巻が起こったのは・・・」
「ヤーベが悪魔王ガルアードと戦っているものと思われます」
「な、なんだと!」
「悪魔王ガルアードと戦っている!?」
タルバリ伯爵とコルーナ辺境伯が驚愕の表情を浮かべる。
「それではフィレオンティーナ救出は間に合わなかったと申すか!」
タルバリ伯爵がイリーナに詰め寄る。
「いいえ、たぶんですが、ヤーベは間に合っているはずです。フィレオンティーナ嬢の事は昨日から心配しており、配下の使役獣に調査や監視をさせていたはずですから」
「な、なんと・・・昨日からすでに力を貸して頂いていたとは・・・」
イリーナの説明にタルバリ伯爵が感動したように俯く。
そこへヤーベがフィレオンティーナ嬢をお姫様抱っこしながら空を舞うように降りて来た。
「フィレオンティーナ!」
タルバリ伯爵がとんでもない勢いで突っ込んで来る。
「おおっと!」
空中でタルバリ伯爵を避ける俺。
「きゃあ」
急に空中で一回転したのでフィレオンティーナがかわいい悲鳴を上げる。
俺は地面にフィレオンティーナを降ろしてやる。
「フィレオンティーナ嬢は無事に救出出来ましたよ」
「ヤーベ殿! ありがとう!」
タルバリ伯爵が暑苦しい勢いで俺の両手を取ってお礼を伝えてくる。
「ヤーベ殿、ヤーベ殿はローブを脱ぐとそんな色男だったのだな。ローブなど被っていないほうがいいのではないか?」
コルーナ辺境伯も俺の姿を初めて見て色男などとお世辞をくれる。
気を使わなくてもいいのに。
「はうう・・・ヤーベ様カッコイイ・・・」
「あらあら、ルシーナの旦那様は色男ね~」
馬車の中からルシーナとその母親であるコルーナ辺境伯の奥方も俺を見て褒めてくれる。
地球時代にはありえない状況だ。照れますがな。
でも俺様という男は皆のお世辞に舞い上がったりしないのだ!
飲み会に参加していた同僚の女子が「矢部さん素敵ですね~、今度ご飯でも一緒に行きましょうよ!」と言ってくれたのに、その後その言葉が履行されたことは一度としてない。
そう、社交辞令と実際の履行は違うのだ・・・サミシイ。
「ありがとうございます・・・この命、貴方様のおかげて助かりました」
改めてフィレオンティーナがお礼を述べてくる。
そのピンクに染めた頬で俯きながら上目遣いでこちらを見ないで! ホレてまうやろー!
「いやいやお気になさらず。無事で何よりです」
極めて冷静かつクールに言葉を返す俺。
だが、フィレオンティーナは俺の肩に手を乗せて顔を近づけてくる。
「報酬のお約束もせずにわたくしを死地からお救い頂いたこと、ただただ感激に堪えません。ですが、何のお礼もせずにというわけにも参りません。ぜひ私の御屋敷でご歓待させて頂ければ・・・。夜、お部屋にお伺いしても・・・よろしいですよね・・・?」
肩に手を置いていたフィレオンティーナ嬢が肩に手を回し軽く抱きつくように耳元で囁く。
夜、お部屋に来てくれるんですか!?
来るだけじゃないですよね?よね?
これは本気か!? 本気なのか!?
ついに俺様にもスプリング・ハズ・カム(春到来)!!
てか、据え膳喰わぬはなんとやら!
向こうがウェルカムなんだから、何を遠慮する事があろーばさ!
え、お前にはヘソまで反り返ったピーーーーが無いだろうって!?
夜遅くまで練習してきたスライム流変身術<変身擬態>があるのだよ! 今も維持する姿は矢部裕樹のもの。
そんなわけで俺様のヘソまで反り返ったピーーーー!!も復活しているのだ!
たとえ地球時代実際はヘソまで反り返っていなかったとしてももはやそんな事はどうでもいい!
今の俺にはスライム細胞と自らのイメージ、そして必殺のぐるぐるエネルギーがある!
そう! 今の俺の愛棒は地球時代を凌駕する!!
行くぞ! ぐるぐるエネルギー充填フルパワー!
ル〇ンダ~~イ・・・
「ほぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
気づけばイリーナが俺の左手を握りつぶしていた。
問答無用で。
比喩表現ではなく実際に。
てか、滅茶苦茶痛いですけど!?
なんで! 俺様は痛覚無効だったはず! 無敵のスライムボディなのに!
イリーナ恐るべし!
「ヤーベ、悪い事考えてる・・・」
ぷうっとほっぺを膨らませているイリーナ。
可愛いけど、手を握り潰すのは頂けない。
俺じゃなかったら事案発生するぞ。
まあいい。
屋敷に呼ばれておいしい物食べてお酒を頂けば、イリーナも眠くなるだろう。
こちとらスライム、睡眠不要の無敵ボディなのだ。
バイオリズムもぐるぐるエネルギーを活性化すれば完徹OKだ。
イリーナがぐっすり寝静まったころ、俺様が抜けだせば・・・
「ほじゃげきらん!」
千切れる! 千切れます! イリーナさん!
何故痛い! もはやイリーナマジック!
カムバック「クッダク」!
今ならご希望に添える自信があります!
「ヤーベ、今のヤーベにはオシオキが必要な気がする」
明らかに形が変わってしまった左手をフーフーしながら、イリーナには逆らうべきではないと脳内で警鐘が鳴る。
これはフィレオンティーナ嬢からの報酬は貰えそうもないな・・・。
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