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第7章 ヤーベ、王都に向かって出立する!
第68話 行きがけの駄賃に悪魔王を滅ぼして行こう
しおりを挟むチュン、チュン、チュン――――――――
「んんっ!?」
ふああっ、もう朝か・・・、いつの間にか寝てしまったようだ。
最近の俺様はバイオリズムを作っている。
この世界に来たときは腹が減る事も眠くなることも無かった。
だが、イリーナと生活するうちにリズムを合わせて行くと、それなりのタイミングでお腹が空いたり眠くなったりするようになった。
もちろんぐるぐるエネルギーを高めて行けば完徹だろうとドンと来いだが。
そんなわけで昨日イリーナに<変身擬態>で変身した矢部裕樹の姿でのマッパ(素っ裸)を見られてしまった。夜遅めだったので、部屋にフォローに行くのをためらってしまった。その後、ヒヨコ隊長たちの報告を聞いて深夜になったのだが、どうやら寝落ちしてしまったようだ。
・・・寝落ちなんて、社畜時代を思い出してしまうな。悲しい。
「それにしても、一人で朝チュンとはまた物悲しいね・・・」
そう独り言を呟き、窓を見ると、そこには「チュンチュン」と鳴くヒヨコ隊長たちが。
ズドドッ!
思わずベッドからずり落ちる。
「お前ら何してんの!?」
『はっ! 昨夜ボスが独り言で「幸せな朝チュンを迎えたい」と・・・』
「朝チュンは一人じゃ意味無いからね!」
『なんと・・・そうなのですか?』
「大事な人や大好きな人と素敵な一夜を過ごした朝に、スズメの鳴き声で起きるのが幸せの象徴「朝チュン」だ! てか、お前たちがチュンチュン言っているのは違和感しかないぞ?」
『なんとっ! それはご無礼を』
仰々しく翼をついて首を垂れるヒヨコ隊長。
「まあいい、引き続き情報収集を頼むぞ!」
『ははっ!』
ヒヨコたちの出立を見送り、着替えて朝飯のために食堂に降りるとしよう。
食堂にはすでにイリーナとサリーナが来ていた。
「あ・・・、ヤーベ、おはよぅ・・・」
イリーナは頬を少し赤く染めて、俺から目を逸らして挨拶を返してくる。
「ヤーベさんおっはよー!」
そしてサリーナも挨拶してくる。
「おはよう、イリーナ、サリーナ」
俺も挨拶を返す。
タルバーンの町で一番いいホテルなだけあって、朝食も豪華だ。
焼き立てのパンに、ホテルお手製ジャム、新鮮なサラダに卵料理。おいしい果実水もある。
「さあ朝ご飯を食べよう、イリーナ、サリーナ」
俺は早速焼き立てのパンにジャムをたっぷり塗って頬張る。
「ウマイッ!」
パリパリに焼けた表面ながら中はしっとりふっくらな柔らかさを持つパンに感激しながら、チラッとイリーナを見れば、まるでハムスターの様にチマチマとパンを齧っている。
「イリーナ、何か買い物に行きたかったのか?」
「え、あ、ああ、王都に出発前にヤーベと買い物に行こうかと・・・」
「何を買いに行きたかったんだ?」
「あ、あの・・・その・・・、ア、アクセサリーを一緒に買いに行きたくて・・・」
「そうか、なら朝食を食べ終わったら出かけようか」
「ホントか?」
「ああ、別にいいぞ」
「わかった! 朝食終わったら準備してくる!」
そう言ってパンを詰め込み喉に詰まらせて、ンガググしているイリーナを見て取り合えず昨日の影響は残っていないのかとホッと胸を撫で下ろした。
ヒヨコたちの情報から、タルバリ伯爵が悪魔の塔へ救出隊を何組も出している事はわかっている。万一うまくいかない場合、下手すればこちらに救援依頼が来るかもしれない。
ヒヨコ達にはフィレオンティーナが塔の最上階に連れて来られたら緊急連絡を寄越すように言ってある。
そんなわけで午前中イリーナ、サリーナと製鉄技術の進んだ町で売られるアクセサリーなどを見に買い物に出た。
「製鉄技術が進んでいるというだけあって、鉄の純度が高そうだね! ボクなら錬金技術でインゴットからの加工も可能だから、金属のインゴットを買って自分で加工してみよかな」
おお、錬金術ってそんなことまで出来るんだ。スゲー。
ノーチートの俺と違ってサリーナには少なくとも優秀な錬金術スキルが備わっているようだな。羨ましい。
「だが、いくら純度が高い鉄と言ってもネックレスや指輪などは鉄より銀や金と言った希少金属の方がよいのではないか?」
俺はふとした疑問をイリーナに投げかける。
「それはそうなのだが・・・銀や、まして金は非常に希少のためそれらのアクセサリーは非常に高価なのだ・・・」
少し溜息を吐き、肩を落とすイリーナ。
そう言えば食事は俺が用意している。買い食い時も魔物を買い取りに出してからは俺が出している。だから、イリーナにはお金を渡していなかったな。
「大量に報奨金を寄付したとはいえ、お金はまだまだあるぞ? 欲しい物があるなら買えばいい」
そうは言っても奴隷商館にも行くつもりだし、お金はたくさん残しておきたいところだけどね・・・。
「ほぎゃぎゃ!」
イリーナさん! 手が潰れてしまいます!
「ヤーベ、悪い事考えてる・・・」
頬を膨らますイリーナ。そんな事、そんな事ないですよ!
大事な事でもないけど、二度言っとく。
そんなこんなで俺たちは露店などを見て回った。
イリーナには鉄で出来た細工の綺麗なベルトのバックルを、サリーナには純度の高い鉄のインゴッドをたくさん買い込んだ。金額からすれはたくさん買った鉄のインゴッドの方が遥かに高いのだが、サリーナはインゴッドで出来たアクセサリーを俺に確認してもらってからお金に替えたり、使えるものはくれると言う。
・・・いい娘や。
イリーナにはもっとたくさん買おうと思ったのだが、とりあえず1個だけでいいと固辞したので、バックルだけにした。今は可愛いアクセサリーを貰っても冒険者の格好をしているため、実用的な物が欲しいという事だったのでいろいろ探してみて、バックルを選んだ。
今も嬉しそうにお腹のバックルをそっと撫でている。
イリーナさん、あまりに幸せそうに頬を染めてお腹を撫でないでくださいますかね?
明らかに「あたし、出来ちゃったの」みたいな雰囲気駄々洩れしてますからね?
出来てませんからね? 出来るようなこともしてませんからね? だいたい出来るかどうかもわかりませんからね?
俺は、どこまでも広がる青い空を遠い目で見つめた。
「ヤーベ殿、準備は良いか?」
フェンベルク卿が声を掛ける。
すでにコルーナ辺境伯家の皆さんは馬車に乗っている。
「ああ、準備は良いが・・・タルバリ伯爵に挨拶は良いのか?」
出立時にタルバリ伯爵の屋敷に寄るのかと思ったが、どうもそれどころでは無い様だ。
「昨日のトラブル対策が大変なようだ。昨日のうちに挨拶はすませてある」
多少表情を曇らせながらも対応済だと語るフェンベルク卿。
王都へ急ぐ予定でもなければ力を貸したいと思っているのか、フェンベルク卿の表情は晴れない。まあ、これもタイミングだ、仕方がない。
王都に向けて出発した一行。
だが、やはり流れはうまくいかないものだ。
ヒヨコが報告に来る。
『ボス、フィレオンティーナ嬢が悪魔の塔のてっぺんに連れて来られました。意識がないようで魔法陣に寝かされています』
「・・・マジか・・・」
タルバリ伯爵の手勢で救出に向かっているはずだ。
だが、間に合っていないってことだな。
「どうした?」
「うむ・・・、ヒヨコからの情報なのだが、どうもフィレオンティーナ嬢の救出がうまくいっていないようだ」
「なんだと!」
「すでに生贄の準備に入っているらしいな」
「ぬうっ! ・・・ヤーベは何とか出来そうか?」
「ヤーベ様・・・」
フェンベルク卿にルシーナと奥さんも俺に期待を寄せて見てくる。
「とりあえず塔に寄って王都を目指そうか・・・」
俺たちは馬車の移動を悪魔の塔経由で王都に向かうルートに変更した。
「これが悪魔の塔・・・」
頂上が見えない。かなりの高さを感じる。
「ダメです!第3階層へ上がる階段が見つかりません!」
「探せ!何としても最上階である60階に辿り着くのだ!」
「ガイルナイト卿! 第3階層への階段を発見しましたが、鍵が掛かっています」
「扉を壊してでも前進せよ!」
ガイルナイト卿・・・つまりタルバリ伯爵が塔の前で指揮を取っている。
ヒヨコの情報ではすでに最上階で魔法陣を敷いた儀式が準備されているようだし。
60階層らしいのに今だ3階層で苦戦。
どう考えても間に合いそうにない。
「ガイルナイト卿、戦況はどうだ?」
「お、おお、これはフェンベルク卿。王都へ向かわれたのでは・・・?」
「我が家の賓客であるヤーベ殿が、フィレオンティーナ嬢がすでに最上階で生贄にささげられる準備が進んでいるというのでな、心配になって、我々が何か力を貸せることは無いかとな」
「なんですとっ!フィレオンティーナがもう生贄に!?」
「・・・ヤーベ殿、何とかなるだろうか?」
「おおっ!お力を貸していただけるのか!?」
皆が馬車の中を見るが、すでにそこには俺の姿はない。
「あ、ヤーベ殿ならすでに、悪魔の塔の外壁の所に・・・」
イリーナが指さした方向、そこには悪魔の塔の外壁に手をつく俺の姿が。
この悪魔の塔は当然建物内がダンジョンの様になっており、罠が張り巡らされているんだろうな。そしてヒヨコの偵察から、最上階は屋上であり、そこに悪魔王ガルアードの封印された像と魔法陣があるわけだ。
「だから、中を通って行く必要はないよな」
そう言って俺はぐるぐるエネルギーを高めて触手を一気に伸ばす。
そして触手は一気に塔の外壁最上段を掴む。そして俺は自分の体を引き上げる。
「ひょいっとな」
俺はあっさりと塔の最上階に辿り着いた。
目の前には魔法陣と寝かされたフィレオンティーナ嬢、そして首謀者らしき男とその手下たち。
さあ、さっくり片付けるとしようか。
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