62 / 206
第6.5章 ヤーベ、マイホームを手に入れる!
第56話 マイホームに参拝に来る村人は来客なのか考えてみよう
しおりを挟む出来上がりましたね~、マイホーム・・・・・。
ええ、誰がなんと言おうとも、マイホームです。
例えカソの村の皆様が神殿と呼ぼうともね!
建て始めてから、完成まで結構早かった気がする。
ただ、数日でって感じでもない。
スマホやガラケーは元よりカレンダーすらないしね。
完成して引き渡しを受けた際、建築費用は?と村長に聞いたのだが、「もちろん精霊様からは頂けません!」との事。精霊ではないのですけどね。何だろう、最近村長と会話がかみ合わない気がする。
引き渡した際に、「ごゆっくり」と言って帰って行ったので、もしかしたらしばらく来ないのかもしれない。そんなわけで、昨日初めて二階にある自分の部屋として当てがわれた寝室のフカフカベッドで寝た。フカフカベッドでデローンとすると、恐ろしいほどに気持ちよかった。そんなわけで、のんびりグッスリ眠ったのだが・・・。
「何故にイリーナが?」
俺様のベッドにいつの間にか潜り込んでいるイリーナ。
しかもデローンな俺を抱きしめる様に寝ている。
完全に抱き枕っぽい使われ方だ。
ひんやりして気持ちいいのだろうか。
まさか、裸で!と思ったりしたが、ちゃんとパジャマらしき寝間着を着ていた。
・・・別に残念だと思ってなんかいないんだからね!
トントン。
「んっ!? 誰だ?」
俺とイリーナ以外にこのしんで・・・いや、マイホームにはいないはずだ。
ローガ達はこの建物の隣に専用の厩舎を立ててもらって、その一階、ひよこ達は専用の厩舎の二階にそれぞれ住居が出来た。
ならば誰なのか?
まさか、カソの村の若い娘がメイドとして働いてくれるようになったとか!?
俺はウキウキして扉を開けに・・・行けない。
なぜならイリーナが抱きついているからだ。
触手を伸ばせば扉を開けることなどスライムボディの俺には容易い。
だが、イリーナが抱きついている状況を新しく来たメイドさんに見られれば、あらぬ誤解を受けてしまうだろう。今後のメイドさんとも関係もギクシャクしてしまうかもしれない。
そんなわけで俺様は少し裏技を行使する。
触手を伸ばしてドアノブを握った俺はそのドアを開ける前に触手の一部にさらにスライムボディを移動させる。
そうして、いつも着ているローブを通すと、まるでローブを着た俺が扉を開けているように見えるだろう。
そう、送ったスライムボディで偽の本体を造り上げているのだ!
そうする事によってベッドでイリーナに抱きしめられている俺を隠すことが出来る。
さてそれでは、ドアを開けよう。
「何か用か?」
ドアを開ける。
『おはようございます、ボス!』
ズドドッ!
「お前かい! ローガ!」
俺はイリーナを巻き込まない様にベッドから落ちる。
我ながら器用なり。
全然メイドさんじゃねーじゃん!
『はっ! 我であります、ボス!』
「で、何だよ?」
『はっ、朝から申し訳ありませんが、カソの村の村長がお越しです』
「村長が?」
何がごゆっくり、だよ。翌日朝っぱらから早々来てんじゃねーか。
建ててくれたことは感謝するけど、せめて三日くらいゆっくりさせてくれよ。
仕方がないので、イリーナをそっとベッドに寝かせてローガの案内で一階に降りる。
とりあえずデローンMk.Ⅱの姿でローブを纏う。
触手二本で手袋をすれば、ローブを纏った魔術師風ヤーベの出来上がりだ。
一階に降りてくると、中央部の「祈りの間」と呼ばれる広間に出る。実に仰々しい名前だ。もちろん村長命名だ。そして祭壇に俺様の木像。一晩経ってもやっぱり木像だ。変わらないな、当たり前だが。
さて、ローガに続いて祈りの間に入ると、村長の他にも何人かが来ていた。
「おお、精霊様おはようございます」
「おはようございますじゃないよ、村長。建物を昨日引き渡してもらったばかりだよ」
多少ぷりぷり感を入れて返事をするが、何せマイホームを建ててもらった身。あまり無下には扱えない。ローガは案内が終わったと厩舎の方へ戻って行く。
「はっはっは、失礼致しました。実は我々もしばらく精霊様にごゆっくりして頂くつもりだったのですじゃ。しかしこのバーサマがどうしても精霊様の神殿に連れて行けと・・・」
「バーサマ?」
「こりゃジジイ! 誰がバーサマじゃ!」
とんでもないキンキン声が祈りの間に響き渡る。
よく見れば、村長の他にも、護衛らしき若い衆が二名、かわいいショートカットが似合う深緑髪の若い娘さんが一名、そして娘さんよりもずっと小さい、というか低い身長の皺くちゃなバーサマが。
「バーサマをバーサマと呼ばなんだら、世の中にバーサマなどおらぬようになるわ」
「やかましいわ!」
「何だ何だ、朝からジーサマバーサマコンビの漫才を見せに来たのか?」
俺は盛大に溜息を吐いて見せる。
「いやなに、先も言ったのじゃがこのバーサマがどうしても神殿に連れて行けと朝からうるさくてかないませんでな」
村長も心底困り果てたと言った感じで溜息を吐く。
「バーサマバーサマって・・・もしかしてザイーデルばあさん?」
俺がザイーデルという名前を出したことで、全員が固まる。
「・・・なぜ、バーサマの名前がザイーデルとわかったのですかな・・・?」
村長が驚愕の表情を浮かべる。
「・・・どこかであった事あったかの?」
「いいや、初対面だな」
「え~~~、じゃあどうしておばあちゃんの名前がわかったのかな?」
ばあさんの問いに正直に初対面だと答える。若い娘さんはザイーデルばあさんの孫娘なんだな。かなり気安い感じで誰とでもお友達に慣れそうなコミュ能力高い系の女の子だ。コミュ症の俺とは全然違うな。
「おいおい、精霊様は神の御使いでもあるのか?」
「超能力ってやつだろうな」
若い護衛どもは好き放題言っている。そんなわけないやろ。何で大阪弁?
「実は、カンタとチコちゃんが泉に来た時に、村長とザイーデルばあさんなら字が読めるって話していたのを思い出したんだよ」
「なるほど~」
孫娘さんは納得してくれたようだが、他の連中は話聞きゃーしない。聞けよ。
「いやはや、精霊様の超能力はまさに神の如しですな」
「ううむ、予言の力かねえ」
「カソの村の行く末とか占ってもらいますか?」
「いいっすね~」
良いわけあるかよ。占いなんて出来ねーっての。
予言でも神の力でもないの。聞いたんだって。多分そうだろうって推測で言っただけだって。
「それにしても、村の近くに精霊様の神殿をおったてるなんて言うもんだから、頭がどうかしちまったのかいって思ったんだけどね。畑も元気にしてもらって、井戸も面倒みてもらって、開村祭も盛り上げてもらったらしいじゃないか。そんなお世話になったっていう精霊様だからね。神殿も出来たって事だから、あたしも顔を見に来たのさ」
ん? その言い方だと、しばらくカソの町に居なかったみたいだけど?
「おばあちゃんは、ここしばらくカソの村の北西にあるトーテモヘンッピの村へ薬草づくりの依頼で出かけていたんだよ~」
ニコニコとショートカットが似合う孫娘さんが教えてくれる。
「ああ、それでカソの村を留守にしていたんだね。でもそんな別の村に呼ばれるなんて腕利きなんだな」
「ふぁっふぁっふぁ、それほどでもあるぞい」
「謙遜しねーのね・・・」
「ばーちゃんはいつもこんな感じだよっ!」
かわいい孫娘さんが笑っている。まさしく元気っ娘だなぁ。
「んで、その腕利きなバーサマが俺に何か用か?」
「九日十日」
「帰れ!」
「ああ、すみません精霊様! ばーちゃんはこういう人で・・・」
言葉では謝ってるんだけど、顔がテヘペロしてる孫娘ちゃん。
「ひゃっひゃっひゃっ」
バーサンは豪快に笑っているよ。
でもなんか憎めない人だなぁ。
「こりゃ!精霊様に無礼を働かないって約束じゃろう!」
「村長、すみません」
孫娘さんだけぺこぺこしてるのってどうなのよ?
「ひゃっひゃっひゃっ、これはすまんの精霊殿。では本題に入ろうかの」
「本題、あるんだ」
「そりゃあるわい」
「んで、本題って?」
「孫娘のサリーナを嫁に貰わんかの?」
ガタタタタッ!
何事かと見れば、イリーナが階段から転げ落ちて来た。
「お、おい大丈夫か? イリーナ」
大丈夫かと聞いてみたが、若干鼻血が出ているから大丈夫ではないだろう。
「ヤ、ヤ、ヤーベ! 嫁を増やすってどういうことだ!?」
イリーナよ。まずもって嫁を増やすってどういう事だ?
すでに嫁がいるような言い方は誤解を招くのではないかね?
「ええっ!? 精霊様はもう奥さんいるんだー!?」
ほら、サリーナさんが勘違いしちゃった。
「ほっほっほ、精霊様はモテモテですな!」
「やかましいわっ!」
村長のなぜかのほほんとした笑顔にイラっとする。
だいたい何だよ、この連中。ホントに何しに来たんだよ?
「村長、参拝目的なら俺の来客じゃなくていいよな? もう引っ込むぞ」
俺は背を向けて部屋に戻ろうとしたのだが、
『ボス、来客です』
ローガが再びマイホームに入って来て告げる。
「来客かよ!」
ホントに来客かよ・・・フラグって怖いね!
0
お気に入りに追加
304
あなたにおすすめの小説
新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》
橘末
ファンタジー
20XX年、日本は唐突に異世界転移してしまった。
嘗て、神武天皇を疎んだが故に、日本と邪馬台国を入れ換えた神々は、自らの信仰を守る為に勇者召喚技術を応用して、国土転移陣を完成させたのだ。
出雲大社の三男万屋三彦は、子供の頃に神々の住まう立ち入り禁止区画へ忍び込み、罰として仲間達を存在ごと、消されてしまった過去を持つ。
万屋自身は宮司の血筋故に、神々の寵愛を受けてただ一人帰ったが、その時の一部失われた記憶は、自衛官となった今も時折彼を苦しめていた。
そして、演習中の硫黄島沖で、アメリカ艦隊と武力衝突してしまった異世界の人間を、海から救助している作業の最中、自らの持つ翻訳能力に気付く。
その後、特例で通訳担当自衛官という特殊な立場を与えられた万屋は、言語学者が辞書を完成させるまで、各地を転戦する事になるのだった。
この作品はフィクションです。(以下略)
文章を読み易く修正中です。
改稿中に時系列の問題に気付きました為、その辺りも修正中です。
現在、徐々に修正しています。
本当に申し訳ありません。
不定期更新中ですが、エタる事だけは絶対にありませんので、ご安心下さい。
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート
ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。
胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。
いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。
――――気づけば異世界?
金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。
自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。
本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの?
勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの?
どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。
まだ、たった15才なんだから。
ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。
――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。
浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。
召喚から浄化までの約3か月のこと。
見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。
※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。
29話以降が、シファルルートの分岐になります。
29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。
本編・ジークムントルートも連載中です。
追放歌姫の異世界漫遊譚
あげは
ファンタジー
「お前、クビな」
突然Aランクパーティー『銀の戦剣』を追放された少女リリナ。
リリナは『歌姫』というユニークジョブの持ち主だった。
歌うことで、守り・攻撃・回復すべてを担うことができる万能職である。
そんな彼女は、幼いころにいなくなった母を探すという目的を立て、旅に出ることを決意し、
道中出会った魔物や幻獣、精霊を仲間に加え、気の向くままに世界を回る。
一人の少女とモフモフたちによる漫遊譚が、幕を開ける。
一方で、リリナを追放した『銀の戦剣』は、リリナの知らぬ間に落ちぶれていくのであった……。
*なろう、カクヨムにも投稿
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
異世界最強のレベル1
銀狐
ファンタジー
世界的人気VRMMO【The World of Fantasy】略してTWF。
このゲームでは世界大会があり、1位を勝ち取った者のみだけ入れるギルドがある。
そのギルドに一通のメッセージが届いた。
内容は今まで見たことが無いクエストが書かれている。
俺たちはクエストをクリアするために承諾した。
その瞬間、俺たちは今までに見たことが無いところへ飛ばされた。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる