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第6.5章 ヤーベ、マイホームを手に入れる!

第56話 マイホームに参拝に来る村人は来客なのか考えてみよう

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出来上がりましたね~、マイホーム・・・・・。
ええ、誰がなんと言おうとも、マイホームです。
例えカソの村の皆様が神殿と呼ぼうともね!



建て始めてから、完成まで結構早かった気がする。
ただ、数日でって感じでもない。
スマホやガラケーは元よりカレンダーすらないしね。

完成して引き渡しを受けた際、建築費用は?と村長に聞いたのだが、「もちろん精霊様からは頂けません!」との事。精霊ではないのですけどね。何だろう、最近村長と会話がかみ合わない気がする。

引き渡した際に、「ごゆっくり」と言って帰って行ったので、もしかしたらしばらく来ないのかもしれない。そんなわけで、昨日初めて二階にある自分の部屋として当てがわれた寝室のフカフカベッドで寝た。フカフカベッドでデローンとすると、恐ろしいほどに気持ちよかった。そんなわけで、のんびりグッスリ眠ったのだが・・・。



「何故にイリーナが?」



俺様のベッドにいつの間にか潜り込んでいるイリーナ。
しかもデローンな俺を抱きしめる様に寝ている。
完全に抱き枕っぽい使われ方だ。
ひんやりして気持ちいいのだろうか。
まさか、裸で!と思ったりしたが、ちゃんとパジャマらしき寝間着を着ていた。
・・・別に残念だと思ってなんかいないんだからね!



トントン。



「んっ!? 誰だ?」

俺とイリーナ以外にこのしんで・・・いや、マイホームにはいないはずだ。
ローガ達はこの建物の隣に専用の厩舎を立ててもらって、その一階、ひよこ達は専用の厩舎の二階にそれぞれ住居が出来た。

ならば誰なのか?

まさか、カソの村の若い娘がメイドとして働いてくれるようになったとか!?



俺はウキウキして扉を開けに・・・行けない。
なぜならイリーナが抱きついているからだ。
触手を伸ばせば扉を開けることなどスライムボディの俺には容易い。
だが、イリーナが抱きついている状況を新しく来たメイドさんに見られれば、あらぬ誤解を受けてしまうだろう。今後のメイドさんとも関係もギクシャクしてしまうかもしれない。

そんなわけで俺様は少し裏技を行使する。

触手を伸ばしてドアノブを握った俺はそのドアを開ける前に触手の一部にさらにスライムボディを移動させる。
そうして、いつも着ているローブを通すと、まるでローブを着た俺が扉を開けているように見えるだろう。

そう、送ったスライムボディで偽の本体を造り上げているのだ!
そうする事によってベッドでイリーナに抱きしめられている俺を隠すことが出来る。

さてそれでは、ドアを開けよう。

「何か用か?」

ドアを開ける。

『おはようございます、ボス!』



ズドドッ!



「お前かい! ローガ!」

俺はイリーナを巻き込まない様にベッドから落ちる。
我ながら器用なり。
全然メイドさんじゃねーじゃん!

『はっ! 我であります、ボス!』

「で、何だよ?」

『はっ、朝から申し訳ありませんが、カソの村の村長がお越しです』

「村長が?」

何がごゆっくり、だよ。翌日朝っぱらから早々来てんじゃねーか。
建ててくれたことは感謝するけど、せめて三日くらいゆっくりさせてくれよ。

仕方がないので、イリーナをそっとベッドに寝かせてローガの案内で一階に降りる。
とりあえずデローンMk.Ⅱの姿でローブを纏う。
触手二本で手袋をすれば、ローブを纏った魔術師風ヤーベの出来上がりだ。

一階に降りてくると、中央部の「祈りの間」と呼ばれる広間に出る。実に仰々しい名前だ。もちろん村長命名だ。そして祭壇に俺様の木像。一晩経ってもやっぱり木像だ。変わらないな、当たり前だが。

さて、ローガに続いて祈りの間に入ると、村長の他にも何人かが来ていた。

「おお、精霊様おはようございます」

「おはようございますじゃないよ、村長。建物を昨日引き渡してもらったばかりだよ」

多少ぷりぷり感を入れて返事をするが、何せマイホームを建ててもらった身。あまり無下には扱えない。ローガは案内が終わったと厩舎の方へ戻って行く。

「はっはっは、失礼致しました。実は我々もしばらく精霊様にごゆっくりして頂くつもりだったのですじゃ。しかしこのバーサマがどうしても精霊様の神殿に連れて行けと・・・」

「バーサマ?」

「こりゃジジイ! 誰がバーサマじゃ!」

とんでもないキンキン声が祈りの間に響き渡る。

よく見れば、村長の他にも、護衛らしき若い衆が二名、かわいいショートカットが似合う深緑髪の若い娘さんが一名、そして娘さんよりもずっと小さい、というか低い身長の皺くちゃなバーサマが。

「バーサマをバーサマと呼ばなんだら、世の中にバーサマなどおらぬようになるわ」

「やかましいわ!」

「何だ何だ、朝からジーサマバーサマコンビの漫才を見せに来たのか?」

俺は盛大に溜息を吐いて見せる。

「いやなに、先も言ったのじゃがこのバーサマがどうしても神殿に連れて行けと朝からうるさくてかないませんでな」

村長も心底困り果てたと言った感じで溜息を吐く。

「バーサマバーサマって・・・もしかしてザイーデルばあさん?」

俺がザイーデルという名前を出したことで、全員が固まる。

「・・・なぜ、バーサマの名前がザイーデルとわかったのですかな・・・?」

村長が驚愕の表情を浮かべる。

「・・・どこかであった事あったかの?」

「いいや、初対面だな」

「え~~~、じゃあどうしておばあちゃんの名前がわかったのかな?」

ばあさんの問いに正直に初対面だと答える。若い娘さんはザイーデルばあさんの孫娘なんだな。かなり気安い感じで誰とでもお友達に慣れそうなコミュ能力高い系の女の子だ。コミュ症の俺とは全然違うな。

「おいおい、精霊様は神の御使いでもあるのか?」

「超能力ってやつだろうな」

若い護衛どもは好き放題言っている。そんなわけないやろ。何で大阪弁?

「実は、カンタとチコちゃんが泉に来た時に、村長とザイーデルばあさんなら字が読めるって話していたのを思い出したんだよ」

「なるほど~」

孫娘さんは納得してくれたようだが、他の連中は話聞きゃーしない。聞けよ。

「いやはや、精霊様の超能力はまさに神の如しですな」

「ううむ、予言の力かねえ」

「カソの村の行く末とか占ってもらいますか?」

「いいっすね~」

良いわけあるかよ。占いなんて出来ねーっての。
予言でも神の力でもないの。聞いたんだって。多分そうだろうって推測で言っただけだって。

「それにしても、村の近くに精霊様の神殿をおったてるなんて言うもんだから、頭がどうかしちまったのかいって思ったんだけどね。畑も元気にしてもらって、井戸も面倒みてもらって、開村祭も盛り上げてもらったらしいじゃないか。そんなお世話になったっていう精霊様だからね。神殿も出来たって事だから、あたしも顔を見に来たのさ」

ん? その言い方だと、しばらくカソの町に居なかったみたいだけど?

「おばあちゃんは、ここしばらくカソの村の北西にあるトーテモヘンッピの村へ薬草づくりの依頼で出かけていたんだよ~」

ニコニコとショートカットが似合う孫娘さんが教えてくれる。

「ああ、それでカソの村を留守にしていたんだね。でもそんな別の村に呼ばれるなんて腕利きなんだな」

「ふぁっふぁっふぁ、それほどでもあるぞい」

「謙遜しねーのね・・・」

「ばーちゃんはいつもこんな感じだよっ!」

かわいい孫娘さんが笑っている。まさしく元気っ娘だなぁ。

「んで、その腕利きなバーサマが俺に何か用か?」

「九日十日」

「帰れ!」

「ああ、すみません精霊様! ばーちゃんはこういう人で・・・」

言葉では謝ってるんだけど、顔がテヘペロしてる孫娘ちゃん。

「ひゃっひゃっひゃっ」

バーサンは豪快に笑っているよ。
でもなんか憎めない人だなぁ。

「こりゃ!精霊様に無礼を働かないって約束じゃろう!」

「村長、すみません」

孫娘さんだけぺこぺこしてるのってどうなのよ?

「ひゃっひゃっひゃっ、これはすまんの精霊殿。では本題に入ろうかの」

「本題、あるんだ」

「そりゃあるわい」

「んで、本題って?」

「孫娘のサリーナを嫁に貰わんかの?」



ガタタタタッ!



何事かと見れば、イリーナが階段から転げ落ちて来た。

「お、おい大丈夫か? イリーナ」

大丈夫かと聞いてみたが、若干鼻血が出ているから大丈夫ではないだろう。

「ヤ、ヤ、ヤーベ! 嫁を増やすってどういうことだ!?」

イリーナよ。まずもって嫁を増やすってどういう事だ?
すでに嫁がいるような言い方は誤解を招くのではないかね?

「ええっ!? 精霊様はもう奥さんいるんだー!?」

ほら、サリーナさんが勘違いしちゃった。

「ほっほっほ、精霊様はモテモテですな!」

「やかましいわっ!」

村長のなぜかのほほんとした笑顔にイラっとする。
だいたい何だよ、この連中。ホントに何しに来たんだよ?

「村長、参拝目的なら俺の来客じゃなくていいよな? もう引っ込むぞ」

俺は背を向けて部屋に戻ろうとしたのだが、

『ボス、来客です』

ローガが再びマイホームに入って来て告げる。

「来客かよ!」

ホントに来客かよ・・・フラグって怖いね!
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