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第5章 ヤーベ、地元のピンチに奮い立つ!
閑話4 ギルドマスターの葛藤 前編
しおりを挟むはあ~
また、溜息が出ちまった。
先日ヤーベとかいうバケモノがギルドに登録して行った。
それ以来現れないので、最近はちょっと落ち着いて体調も戻って来た。
ヤーベが帰った直後は小便が真っ赤だったり、急に鼻血噴いたりしたがそれも解消されてきた。
最近は食欲も戻って来て昼飯がうまいってもんだ。平和サイコー。
今も手が離せなかったので、副ギルドマスターのサリーナに屋台へ買い出しに行ってもらっている。
最近屋台で流行り出した食べ物がすごいウマイんだ!
「ワイルドボアのスラ・スタイル」って料理なんだが、これが食べやすくてウマイ!!。
ワイルドボアのジューシーな腿肉に新鮮なキャベキャベの千切りとトマトマのスライスを柔らかいパンに挟んでタレをかけたものだ。
一つあたりは片手で持ってかぶりついて食べられる程度の大きさだ。俺の腹からすると五つくらいはペロリと食べられるな。
この挟んでいっぺんに食べる食べ方をスラ・スタイルと呼ぶらしい。
ワイルドボアの他にジャイアントバイパーやサンドリザード、オークの肉を挟んだスラ・スタイルも販売してるみたいだしな。
だが!このスラ・スタイルよりも俺のお気に入りがあるんだ。
それが「アースバードの唐揚げ」だ!
この唐揚げなる食べ物、あまりに画期的だった。大量の油の中で上げる、なかなかに高価な料理なんだが、一度に結構な量の調理が出来るらしく、屋台でもじゃんじゃん揚げていた。
もうすでに各屋台でアースバードの唐揚げにかけるタレの違いをアピールしているようだ。尤も俺は何もかけないシンプルな唐揚げが一番好きだ。
聞いた話によると油は何度も使用すると劣化するらしいので、一日使ったら処分して新しいのにするのがうまい唐揚げを作るコツらしい。
調理自体は簡単なので、屋台だけではなく食事処でもおかずとして人気が出ていたり、居酒屋ではおつまみメニューとして大人気らしい。
代官のナイセーも先日屋台街を視察して、相当な盛り上がりに経済活性化に期待できると言ってたしな。
まあ、難しい事はナイセーに任せて、俺は唐揚げが山盛り食べられれば十分だ。なんなら三食すべて唐揚げでもいい。
ああ、イカンイカン。今はランデルと話している途中だった。
ランデルはギルドが魔道具を製作依頼している錬金術師だ。
今まで毎年<調教師>用の「使役獣のペンダント」を十個発注、納入してもらっていた。だが、ここ二年は<調教師>の登録も無くペンダントの使用が無かった。他の町から来ることを考えて東西南北の各門に十個ずつ使役獣のペンダントを常備している。そしてこの冒険者ギルドにも二十個の常備がある。正直これ以上増やしても無駄だろう。そんなわけで錬金術師のランデルを呼び出して、今年以降は使役獣のペンダントを購入しない旨伝えていたわけだ。
「・・・何とかなりませんかね・・・」
「そうはいっても、もう二年も使用実績が無いしな。今の在庫品で十分だとギルド側としては判断した。悪いが今年から納品は不要だ」
「そうですか・・・」
ランデルは仕事の一つが切られたことに落ち込んでいるようだ。
ランデルは決して腕が悪いわけでも仕事料が高いわけでもない。
だが、ギルドの財源も有限だ。不要な事に予算を振り分けられない。
落ち込むランデルがギルドを出て行った後、入れ替わるようにしてサリーナが帰って来た。
「ギルドマスター、ご所望のワイルドボアのスラ・スタイルとアースバードの唐揚げを買ってきましたよ」
優に五人前はありそうな量をテーブルの上に置くサリーナ。
お茶まで用意してくれるのはさすがだな、ありがたい。
「少し食べ過ぎでは? スラ・スタイルには多少野菜が含まれていますが、唐揚げはお肉の塊ですし、油で揚げてありますから食生活のバランスがイマイチだと思いますよ?」
「まあまあ、野菜は今度取るとして、今はアースバードの唐揚げだな!」
まるで母親のような忠告をくれるサリーナの苦言をスルーして、外はカリッと、中はジューシーな唐揚げを頬張りながらサリーナが用意してくれたお茶を飲む。
「大変です、ギルドマスター! 西門に狼牙が大量に現れ、街道から少し離れた場所に一列に整然とお座りしているとの連絡がありました!」
「ブフォッ!」
「キャッ!」
思わず口の中のお茶と唐揚げを噴いてしまう。
「ゲホッ!ゴホッ! な、なんだと!」
狼牙が大量に整然と並んでお座り・・・って、ヤツの仕業以外に考えられねーだろうがぁぁぁ!!
「ギルドマスター、どうしますか?」
「すまんサリーナ。お前西門に出向いて様子を見て来てくれるか?」
「わかりました」
そう言ってギルドを出て行くサリーナ。
・・・ったく、何考えてんだ、アイツ。
ひと心地つけて、食事を再開したのだが・・・
「ギルドマスター、大変です!」
別の職員がまた部屋に駆け込んで来る。
「今度は何だ!」
「西門の衛兵が来て、使役獣の証明のためのペンダントが二十一個足りないので至急追加分を西門まで届けて欲しいとの事です」
「・・・あっ!」
しまったーーーーーーーー!!
あのヤロー、大魔導士なんて書いてあったが、<調教師>でもあったんだ。そういや狼牙族六十頭だったか・・・。ランデルに使役獣のペンダントいらねぇって言っちまったよ・・・。何で気が付かなかったんだ俺! さっきランデルにもういらねーとか言っちまった俺をぶん殴りてぇ。
「頭痛ェ・・・、ん? 何で二十一個だ?」
「何でも、西門に常備してあった十個では足らず、各門の十個を回収に行かせ、これで合計四十個集まるらしいのですが、使役獣が合計六十一匹のため、まだ二十一個足りずギルドのストックを頂きたいとのことです」
「何で一匹増えてんだぁぁぁぁぁぁ!!」
ぎょっとする職員。だが仕方ねえだろ。
この前のギルド登録申込書には狼牙族60匹と確かに書いてあった。いつの間に一匹増やしてんだよ!
「で、ギルドマスター、どうしましょう?」
「在庫から出して持ってけ・・・あ! 一個足りねーぞ!」
「ええっ!?」
「ええいっ! いいからとりあえず在庫の二十個を衛兵に引き渡せ!」
「わかりました!」
「それから、さっき帰った錬金術師のランドルを再度ギルドへ呼んでくれ。大至急だ!」
「は、はははい!」
職員が部屋を飛び出していく。
「お呼びと聞きましたが・・・?」
錬金術師のランデルが再度やって来た。
「わざわざ戻ってもらってすまないな。緊急事態だ。特殊な<調教師>が現れてな。大至急使役獣のペンダントを一つ製作して納品してくれないか・・・」
「はっ?」
先ほどもういらないと言われてギルドから帰ったのに、もう一度呼ばれて、今度はすぐ一つ作れと言われたんだ。すぐに理解できなかったか。
「マジで急いでるんだ。一個でいいから完成したら西門にすぐ届けてくれないか?」
「ええっ? 先ほどもう使役獣のペンダントは不要だと言う話だったのでは?」
「だから、特殊な<調教師>が急に来たんだよ!」
「今すぐですよね・・・? 特急料金になりますが」
「ぐ・・・仕方ねぇ」
足元見られてるような気がしないでもないが、特急で対応が必要な事は事実だ。
「わかりました。それではすぐに取り掛かります。一つだけならそれほど時間はかからないと思いますので、完成したらすぐ西門まで届けますよ」
「ああ、頼む」
「それから、毎年十個納品させて頂いていました使役獣のペンダントはどうしますか?」
少々ニヤッとした表情で聞いてくるランデル。
「・・・予定通り納品を頼む」
「毎度ありがとうございます。それではとにかくすぐ一つ作って届けてきますね」
そう言っていそいそとギルドを出て行くランデル。
「くっそー、これでまたギルドの予算見直しだ・・・」
俺は頭を抱えた。
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