上 下
29 / 206
第4章 ヤーベ、異世界で初めての街ではっちゃける!

閑話1 ギルドマスターの憂鬱 前編

しおりを挟む


俺の名はゾリア。現役時代は双剣のゾリアと呼ばれたAランク冒険者だった。

今はソレナリーニの町の冒険者ギルドにてギルドマスターを賜っている。

この町は今まさに発展途上にある。辺境にあるこのソレナリーニの町だが、北には迷宮があり、辺境の町の中では交通の要所にもある。この町の冒険者ギルドを任される事は誉れでもある。



そんなある日の事、ギルドの看板受付嬢でもあるラムがギルドマスター室に駆け込んで来た。



「ギルドマスター大変です。衛兵の詰所より連絡があり、<鬼殺しオーガキラー>のメンバー三人がFランクの女性冒険者一名に迷惑行為を働いた挙句、返り討ちに会い衛兵の詰所に連れて行かれたそうです!」



あのバカども! 最近Dランクに昇格してからというもの、態度はデカいわ、他の連中にケンカを売るわ、ロクでもない対応ばかりでギルドマスターとしても制裁発動を検討していたところだ。ただ、今回は冒険者同士の諍いだし、ギルドが表立って出ることはないか・・・。

「え? Fランクの女性冒険者にちょっかいかけた<鬼殺しオーガキラー>のメンバー三人が返り討ちにあったの?」

「はい、そうです」

マジか・・・。タチが悪いとはいえ、戦闘能力を認められてのDランクだった連中だが・・・。

「その上、<鬼殺しオーガキラー>のリーダー、ドンガがキレてその冒険者に決闘を挑むとギルドを飛び出して行ったと・・・」



「バカがっ!」



俺はすぐさま席を立ち、ギルドを後にする。

さすがに決闘などとばかげたことは止めないと。まして相手はFランクの女性冒険者一人。

・・・Fランクの女性冒険者一人だと? まさか・・・先日登録したばかりのポンコツそうな女騎士っぽいヤツか!? ドンガの奴は戦闘能力だけならCランクに匹敵するヤツだ。決闘などやらかしたら相手が無事では済まないだろう。



大通りを走って行くと、そこにはすでにぶっ倒されて地面に転がっているドンガが。そして衛兵と話していた一人の女性冒険者。

衛兵が話しかけて来るが、半分も耳に入ってこない。
まさか、こんなひ弱そうな女騎士っぽいやつがドンガを倒す?
衛兵がどんがを拘束すると伝えてきた。


「うむ、それでかまわぬ」



とにかくギルドに戻ってこの娘から話を聞かない事には埒があかぬ。

ギルドに入ってからもきょろきょろと落ち着かない女性冒険者に、明らかに不審なものを感じる。とにかくカウンターに座ってもらい話を聞くことにしよう。



「フム・・・、イリーナ。Fランク冒険者か・・・」



やはりこの前登録したばかりのやつじゃないか。
どう考えても<鬼殺しオーガキラー>の連中を倒せる実力があるように思えない。

騒ぎの理由を聞けば<鬼殺しオーガキラー>の連中に非のある話ばかり。騒ぎ事態に問題はないのだが・・・。



「なるほど・・・あの連中には厳しい措置が必要だな。それにしても君一人でよくあの五人を退けられたな。特に同時に三人を相手にしたのもそうだが、<鬼殺しオーガキラー>のリーダ―である斧使いは戦闘力だけならCランクにも届こうかと言った実力だったが、よく勝てたな」

「まあ、なんとかなったな」

目を泳がせながら言うイリーナ嬢。どう考えてもそれだけの実力を有しているとは思えんな、この娘。

「どうなんとかなったのだ?」

突っ込んで聞いてみたのだが、討伐した魔物の買い取りなどと抜かしてきおった。リュックにどれほどの討伐部位があるのか知らんが、見てやろうじゃないか・・・と思ったのだが、出るわ出るわ、まさかの収納魔法から山のような魔物が出てくる。この辺境では最強クラスのCランクモンスターまで。しかもとんでもない量だ。この女、どんな魔力をしているんだ!? もともと収納魔法の使い手など、ほとんどお目にかかれない。そして、収納魔法の要領は魔力量に比例するはず。とすれば・・・。

「というか、これ全てお前が倒したのか!?」

「え、ああ、倒した?かな」

「なぜに疑問形!?」

やっぱりこの女、ヘンだ。しまいには師匠の使いだとか言い始める。たとえモンスターを師匠とやらが討伐していたとしても<鬼殺しオーガキラー>の連中を跳ね返したのはこの女のはずだ。

ここは俺の切り札を使おう。

俺には冒険者時代を支えた虎の子のスキルがある。

それが<魔探眼またんがん>と<魔計眼まけいがん>である。



我が<魔探眼またんがん>は魔力を探すことが出来る。魔力の強さによりその魔力は明るさで判別できる。そのため迷宮探索などでは我が<魔探眼またんがん>により魔力を伴う罠などの発見や、魔力の強い魔獣の襲撃を察知することが出来た。我が冒険者としての実績を支えた正しく虎の子のスキルといえよう。

そして、あからさまに怪しいリュックを背負った女を<魔探眼またんがん>で調べた時だ。女の魔力はごくわずかしかなかった。それがどうだ、リュックに目を移した瞬間、



「ぐわわっ! 目がぁ!目がぁぁぁぁぁ!」



あまりの眩しさに目が眩むどころか、潰れるかと思った。
一体どれほどの魔力があればあれほどの輝きになるのか!?
以前この国の宮廷魔術師を<魔探眼またんがん>でサーチした時も「ああ、明るいな」程度の感覚だったのに。



「ど、どうしたのだ?」



イリーナという女冒険者が心配したのか俺に声を掛ける。どーなってんだよ!お前のリュックは!

「ぐうう・・・、なんだかとんでもねーな、ちくしょう」

こうなったら<魔計眼まけいがん>を発動させてやる。これは魔力そのものを数値化して認識することが出来るスキルだ。<魔探眼またんがん>に比べると地味なイメージだが、魔力を数値化できることは案外有用なことが多い。明りで漠然と判別するのではなく、はっきり数値化することでわかることも多い。例えば魔力強度を測ることにより、罠の危険度を判別したり、魔道具の威力を推定できたりする。

ということで<魔計眼まけいがん>を発動させたのだが・・・



「ブフォッ!」



鼻血が噴き出す!



「ご、ごごご53万だと・・・?」



じょろろろろ~



まさかの下半身がコントロール不能だ。ちくしょう!



我が<魔計眼まけいがん>で捉えた魔力を数値で見た時に、大体一般人は1~10程度、冒険者で鍛えている者でも10~30あたりだ。

ちなみに目の前のイリーナ嬢は魔力数5だ。

魔術師のように魔力を常にフルで使用するような職業はさらに魔力が高い者がいる。30~50程度を示す者もいる。それ以上となると、そうざらにはいない。

過去100を超える者を確認したのは2名だけ。

最高値は134、この王国の宮廷魔術師だ。



それがどうだ、このイリーナ嬢が背負っているリュックから感じられる魔力数は「53万」である。私は体の震えが止まらず、鼻血を吹き出し、下半身は粗相してしまった。



53万だぞ・・・、過去最高でも王国の宮廷魔術師ですら134だったのに・・・。

一体何倍なのだ! 53万って! 凄すぎてピンとすら来ぬわ! 規格外にも程があるだろう!? 程が!! 宮廷魔術師何人分だよ!?

一体、リュックの中に何を隠しているんだ!? コイツ・・・一体何を企む?



「師匠と言ったな・・・? 本当に師匠がいるのか? 自分の力を隠しておきたいがための嘘ではないのか?」



このイリーナという女本人の力がまるでないように感じられる。そしてリュックからの化け物じみた魔力。一体何を隠しているのか?

ともすれば巨大な魔力のプレッシャーに押しつぶされ、体の力という力が抜け落ちて倒れていきそうな体を気力で押しとどめる。今ここで倒れてしまうわけにはいかない。

「とんでもない! 本当に師匠のヤーベ殿は実在している! 理由あって町にはなかなか来られない方だが、本当にすごい人なんだ!」

何だよ師匠って?何の設定なんだ? それともそのリュックの中に師匠とやらがいるのか? いっそリュックの中を見せろと言うか・・・、いや、それはヤバすぎる気がする。長年生き抜いて来たギルドマスターとしてのカンが囁いている! あのリュックの中身はヤバいと!

「・・・ならば連れてこい! 今すぐだ! 師匠とやらを連れてくれば信用してやる! できなかったときはお前の秘密を喋ってもらうぞ!」

どうせ明かせないからこそ、師匠という架空の存在をアピールしているのだろう。
ギルドを飛び出て行くイリーナ嬢を見送りながら、俺は心を落ち着けるように深呼吸を繰り返した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》

橘末
ファンタジー
20XX年、日本は唐突に異世界転移してしまった。 嘗て、神武天皇を疎んだが故に、日本と邪馬台国を入れ換えた神々は、自らの信仰を守る為に勇者召喚技術を応用して、国土転移陣を完成させたのだ。 出雲大社の三男万屋三彦は、子供の頃に神々の住まう立ち入り禁止区画へ忍び込み、罰として仲間達を存在ごと、消されてしまった過去を持つ。 万屋自身は宮司の血筋故に、神々の寵愛を受けてただ一人帰ったが、その時の一部失われた記憶は、自衛官となった今も時折彼を苦しめていた。 そして、演習中の硫黄島沖で、アメリカ艦隊と武力衝突してしまった異世界の人間を、海から救助している作業の最中、自らの持つ翻訳能力に気付く。 その後、特例で通訳担当自衛官という特殊な立場を与えられた万屋は、言語学者が辞書を完成させるまで、各地を転戦する事になるのだった。 この作品はフィクションです。(以下略) 文章を読み易く修正中です。 改稿中に時系列の問題に気付きました為、その辺りも修正中です。 現在、徐々に修正しています。 本当に申し訳ありません。 不定期更新中ですが、エタる事だけは絶対にありませんので、ご安心下さい。

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。 胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。 いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。 ――――気づけば異世界?  金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。 自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。 本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの? 勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの? どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。 まだ、たった15才なんだから。 ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。 ――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。 浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。 召喚から浄化までの約3か月のこと。 見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。 ※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。 29話以降が、シファルルートの分岐になります。 29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。 本編・ジークムントルートも連載中です。

追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは
ファンタジー
「お前、クビな」 突然Aランクパーティー『銀の戦剣』を追放された少女リリナ。 リリナは『歌姫』というユニークジョブの持ち主だった。 歌うことで、守り・攻撃・回復すべてを担うことができる万能職である。 そんな彼女は、幼いころにいなくなった母を探すという目的を立て、旅に出ることを決意し、 道中出会った魔物や幻獣、精霊を仲間に加え、気の向くままに世界を回る。 一人の少女とモフモフたちによる漫遊譚が、幕を開ける。 一方で、リリナを追放した『銀の戦剣』は、リリナの知らぬ間に落ちぶれていくのであった……。 *なろう、カクヨムにも投稿

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界最強のレベル1

銀狐
ファンタジー
世界的人気VRMMO【The World of Fantasy】略してTWF。 このゲームでは世界大会があり、1位を勝ち取った者のみだけ入れるギルドがある。 そのギルドに一通のメッセージが届いた。 内容は今まで見たことが無いクエストが書かれている。 俺たちはクエストをクリアするために承諾した。 その瞬間、俺たちは今までに見たことが無いところへ飛ばされた。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...