上 下
8 / 206
第2章 ヤーベ、異世界を歩き始める!

第8話 ケガしたヒヨコを助けよう

しおりを挟む

今日も今日とて、泉の周りに水をやる。

・・・別にヒマしているわけではないぞ。うん。

それにしても・・・、泉の周りの木々だけ、少し大きくなった気がするな。

葉っぱも若々しくなった気がするし、木々の根元近くに生えていた綺麗な花にも入念に水をやっていたら、わさわさと満開の花を咲かせるようになった。

もしかして、この奇跡の水って新陳代謝が良くなるって事だったけど、植物にもいい影響があるのかもしれない。すごいね。

改めて、俺はいい仕事をしたようだ(自画自賛)。







「ピヨ~~~~~~~!!!」

えらい鳴き声が聞こえた。チョロチョロと花に水をやっていた俺は鳴き声の方に身を向ける。

(何だ?)

バサバサッ!

「ピヨピヨピヨ~~~!!」

茂みから黄色いヒヨコがバサバサと羽ばたきながら走って飛び出してきた。
涙をちょちょぎらせながらピヨピョ泣いて転がり出て来たところを見ると、何かから命からがら逃げてきたようだ。

その後ろから茶色い狼が追いかけて来た。やっぱり想像は当たっていたようだ。

(あっ!)

狼が左前脚を振り下ろすとヒヨコの脇腹をざっくりとえぐった。血飛沫が舞う。

「ピピィーーーーーー!!」

血をまき散らしながらヒヨコちゃんが俺の目の前にばったりと倒れる。
狼は仕留めたヒヨコを頂こうと近寄って来て、俺に気づいたようだ。



「ガァァァァァ!」



仕留めたヒヨコを横取りされまいと、狼が俺の方に大口を開けて襲い掛かってくる。
悪いな、俺様というスライムは狼ごときに遅れをとらないのだ。
俺は右腕をイメージして触手を右ストレートを放つかの如く伸ばしていき、狼の口の中に突っ込んだ。



「グボッ!」



狼は苦しそうにうめき声をあげる。だがこの俺様に牙を向けた以上は覚悟してもらおうか。
狼の口の中に触手を伸ばし、その奥の内臓まで突っ込んでいく。そして触手の先から酸性の溶解液を出す。

「ギャワワワワン!」

内部から溶かされ、断末魔の悲鳴を上げる狼。悪いな、俺にケンカを売るとこうなるのだよ。
その後狼の全体をスライムボディで包み込み、消化していく。

一応何も食べなくても大丈夫みたいだが、取り込んで消化するとエネルギーが上がる気がする。数値で表示されるわけでもなし、感覚でしかわからないけど。

さて、狼は消化したが、目の前の瀕死のヒヨコはどうしようか?
ヒヨコは「ピヨ~~~」とかなり弱々しい鳴き声でつぶらな瞳をこちらに向けてきている。
よく見ると脇腹をざっくりとえぐり取られているため、このままでは死んでしまうだろう。



(う~ん、スライムの細胞を使ってみるか・・・)



再び伸ばした触手をヒヨコの傷口に当てる。
ヒヨコの体に同化するイメージを送り込み、傷が埋まったらプチンと切り離す。
くっついたスライムが光り輝くと、ヒヨコの傷がすっかり消えている。



「ピ? ピヨ!? ピヨヨーーーーーー!!」



ヒヨコは傷が無くなって助かったことに驚いているようだ。
バッサバッサ翼をはためかせて飛び回っている。



「ピヨヨーーーーーー!!」



元気になったヒヨコが俺に纏わりついてくる。



(うおおっ)



バタバタ翼をたたきつけたかと思うと、くちばしでめちゃめちゃ突いてくる。

「ピヨピヨピヨピヨ!!」

(いたたたた! いや、痛覚ないから、厳密には痛くないけどっ! 何か啄まれてる啄まれてる!)

あれ? コイツこんなに大きかったっけ? 瀕死の時より一回りくらい大きくなってないか?
ちょっとスライム細胞譲渡しすぎたか?

それにしても、コイツの喜びっぷりは半端ない。というかもう迷惑だ。

『コラっ!いい加減にしろっ!』

念話するようにイメージすると、ヒヨコがビクッとして止まった。

『ボスッ! お助け頂き誠に恐悦至極に存じます!』

うおっ!ヒヨコが敬礼しながらスゲー丁寧に答えてきたぞ!
やたら軍人風なヒヨコだな。すごく面倒くさそうなやつだ。

『ボスに助けられましたこの命! 今後身命を賭してボスに仕える所存であります!』

『え~~~~~、別にいらないけど』

『ボスッ!? そっそんな!』

ものすごい涙目で目の前に左右の翼を組んで全力でお願いポーズをするヒヨコ。
翼の扱い器用過ぎないか?
もうほとんど翼の先がグーに見える。

『わかったわかった。好きにするといいよ』

ヒヨコが部下になったからって、何ができるわけでもないだろうし。

『ボス! ありがとうございます!』

今度は片膝つきながら片方の翼を地面につけて下を向く。
このヒヨコ器用すぎるだろ。てか、ヒヨコって膝あるの?

その時だ。



ガサガサッ



森から先ほどの狼より一回り大きい狼が現れた。

『むっ!』

狼に向かい合おうと俺は体を向けるが・・・

『ボス、ここは私にお任せ下さい』

と言って、俺の前にヒヨコが踊り出る。
いや、お前さっきはあの狼より小さい狼に殺されかけてたよね?
ざっくり脇腹やられてたよね?

俺に仕えるなんて言ってたから、イイトコ見せようと無理してるのかと思ったのだが。
ヒヨコは目にも止まらぬスピードで左右にフットワークを始める。
あまりの速さに狼がビビッて止まった。

「グオッ!?」

ヒヨコは飛び上がると狼の全身を超高速で突きまくる。

「ピヨピヨピヨピヨ!」

「ギャワワワッ!」

嘴で突きまくられ、毛を毟られまくっている狼を見るとちょっとだけ同情する。
もはやズタズタにされた瀕死の狼は起死回生とばかりに大口を開けてヒヨコに飛び掛かる。

「ガウォォォォォ!」

特攻してくる狼をヒヨコは躱すのかと思いきや、迎え撃つ体勢をとる。

「ピョ!ピョ!ピョーーーーーー!!!」

右翼を地面スレスレからねじり上げるようにアッパーカットを放つ!
ヒヨコ自身も竜巻のようにスクリュー回転で上昇しながら狼の顎を打ち抜く。

どう見てもそれ、昇○拳だよね?よね?

てか、掛け声もそれっぽいってどういうこと?
狼は血反吐を吐きながらもんどりうって絶命した。
ヒヨコは狼を俺の目の前まで引きずってくる。

『ボス!狩りの獲物を献上いたします』

いや、君さっきまで狩られる側だったよね? 何で急に狩る側に変身しちゃってるの?
大体自分の体の何倍もある狼引きずって来るって、どれだけパワーアップしてるわけ?
やっぱり俺のスライム細胞のせい? もしかして俺様自身はチートが全然ないのに、細胞あげると相手がチートになるってか?

それはともかく、目の前の狩られた狼・・・もとい、ヒヨコの獲物。

『え~っと、お前は食べないのか?』

『自分は肉でも木の実でも肉でも何でも大好物であります!』

『では一緒に食べるとするか』

『光栄であります!』

と言って狼を嘴でめちゃめちゃ突きながら平らげている。
バイオレンスなヒヨコだな。





・・・・・・





『ふうっ! お腹いっぱいになったか?』

俺様は満腹感ってないから、よくわからないが、ヒヨコのこの体でこのデカイ狼食べたらそうとうなもんだよな?

『大満足であります、ボス!』

元気に敬礼するヒヨコ。うん、ブレないね、コイツ。

『さてと・・・、これからどうするか・・・』

とりあえず呟く俺にヒヨコが、

『ボス! よろしければ一族その他仲間を集めてボスに仕えたく存じます!』

などと宣ってきた。え~、一族郎党全部俺が面倒見るの?

『きっとボスのお役に立ってみせます!』

えらくやる気だね・・・。まあ、あまり止める理由もないか。

『そうか、ヒヨコ隊長に任せるよ』

何気なく言った言葉にヒヨコがびっくりするくらい反応した。

『我を隊長に任命くださるのですか! 感激であります! 誠心誠意ボスに尽くす所存であります!』

隊長に任命しただけで暑苦しさ百倍だよ。

『では早速ボスのためにヒヨコ軍団を形成してはせ参じたいと思います! しばしのお別れです! それでは!』

と言ってビシッと敬礼したかと思うと、ぱたぱたと飛び上がって見えなくなるヒヨコ隊長。

ヒヨコって飛べるんだね。知らなかったよ。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》

橘末
ファンタジー
20XX年、日本は唐突に異世界転移してしまった。 嘗て、神武天皇を疎んだが故に、日本と邪馬台国を入れ換えた神々は、自らの信仰を守る為に勇者召喚技術を応用して、国土転移陣を完成させたのだ。 出雲大社の三男万屋三彦は、子供の頃に神々の住まう立ち入り禁止区画へ忍び込み、罰として仲間達を存在ごと、消されてしまった過去を持つ。 万屋自身は宮司の血筋故に、神々の寵愛を受けてただ一人帰ったが、その時の一部失われた記憶は、自衛官となった今も時折彼を苦しめていた。 そして、演習中の硫黄島沖で、アメリカ艦隊と武力衝突してしまった異世界の人間を、海から救助している作業の最中、自らの持つ翻訳能力に気付く。 その後、特例で通訳担当自衛官という特殊な立場を与えられた万屋は、言語学者が辞書を完成させるまで、各地を転戦する事になるのだった。 この作品はフィクションです。(以下略) 文章を読み易く修正中です。 改稿中に時系列の問題に気付きました為、その辺りも修正中です。 現在、徐々に修正しています。 本当に申し訳ありません。 不定期更新中ですが、エタる事だけは絶対にありませんので、ご安心下さい。

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

異世界で賢者になったのだが……

加賀 燈夜
ファンタジー
普通の高校生が通り魔に殺された。 目覚めたところは女神の前! そこで異世界転生を決意する 感想とアドバイス頂ければ幸いです。 絶対返すのでよろしくお願い致します。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ
ファンタジー
 ここは魔法溢れる大国『グランアーク王国』。ここには、数々の魔導士や錬金術師、剣士などの戦いや研究、商売といった様々な分野に長けた人々が『ギルド』と呼ばれる集団に属して互いの生活圏を支え合っていた。中でも、ここ『グランメモリーズ』と呼ばれる魔導士専門ギルドは、うるさく、やかましいギルドで、そのくせ弱小と呼ばれているが、とっても明るくて楽しいギルド!!火を操り、喧嘩っ早い赤髪主人公カラーの『ヴァル』、氷で物を作り、イケメン顔のくせにナルシストな気質のある『ヴェルド』、火、水、風、然の4属性を操る頼れる最強剣士『フウロ』。その他にも、私『セリカ』が入団したこのギルドは、個性的な面子でいっぱいだ!私は、ここで私の『物語』を描いていく。 ※この作品は小説家になろう様と同時連載です。キャラ紹介などは向こうにて書いておりますので、気になる方は私の著者ページに飛んで、そこから外部サイトとして登録してあるグラストをお楽しみください。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

処理中です...