32 / 34
32.互いを知る(アロイスside)
しおりを挟む
リリは細く長く息を吐いてから、無理やりに笑ってみせた。
その表情はギクリとするほどに痛ましくて、
「また新しい意地悪ですか?」
弱々しい声だというのに深く刺さるように響いた。
「わたしもう…疲れちゃったんです。だからこそ、お屋敷を出たんです」
わたしのことを揶揄っても、つまらないだけだと思いますよ。そう続けて、苦しそうな笑みを浮かべる。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「違う」と、締め付けられたような喉元から、何とか言葉を吐き出した。
「揶揄いとかじゃなくて、ほんとに、本気で、俺は君のことが「もしかして、わたしがシオンさんに貴方の悪口を吹き込むと思っているんでしょうか? 大丈夫です。そんなことはしませんから、お気遣いの必要はありませんよ」
「頼むから俺がアイツのこと好きっていう勘違いから離れて…!!」
嘆きに近い声で言えば「勘違い?」と、リリは不思議そうに首を捻った。
「アロイス様はシオンさんのことが好きなのではないんですか? だとしたらこれまでのお話って一体誰の…?」
「リリだってば!!」
深く考える必要などなく、ただ言葉をそのままの意味で捉えてくれるだけでいいのに、これだけ言ってもリリは「全くピンと来ない」とでも言いたげな表情である。
「ではやっぱり、わたしを揶揄っていらっしゃる?」
そうしてまた振り出しに戻るという無限ループに陥りそうな流れに、俺は頭を抱えたくなった。
こうまで言っても言葉のままに伝わらないのは、リリのせいじゃない。
俺だ。俺のせいでリリは、単純に自分が好かれているだけ、という思考に至らなくなっている。
「こんなに分かりやすい嘘、アロイス様らしくないです。もう少しお休みになられた方が良さそうですね」
「嘘じゃないってば! 俺は君が好きなんだよ!!」
「無理しないでください。本当はわたしの顔を見るのも嫌なんですよね? 沢山お話ししてしまって、気分が害されていることだと思います」
唖然とした。
話を逸らしているだとかでもなく、本気でそう思っているのだろう申し訳なさげな表情に、改めてこれまで自分がやらかした事の重さがのしかかるようだった。
あの男の言葉の意味が、今ならよくわかる。
付いた傷は、どれだけ繕おうが完全に元通りになることはない。
これまでに負った傷を全て含めて、今のリリが形作られている。
だから俺の言葉なんて、到底届くはずがないんだ。
初めて出会った時から彼女はボロボロだった。癒す間もない日々だっただろう。
だからといって自暴自棄になるような子でもない。
人が良すぎると、何度呆れたかわからない。
そんなリリを守りたいと、思っていたはずだったのに、いつの間にか俺がそれに甘えるばかりになっていた。
沸き起こる焦燥感に歯軋りをし、堪えるようにギュッと瞼を合わせた。
そして思いっきり──
ドッ──!
「ァ、アロイス様!?!?!?」
「ッ~……!」
思いっきり、自分の頬に向けて一発入れた。
頭がぐわんと揺れて、視界がぐらつく。
思わずしゃがみ込んで俯いた。視界の奥がチカチカと明滅する。
痛くなるように殴ったのだから、当然痛い。
でも、リリの方がもっとずっと痛かったんだろう。
「ど、どどどどうしたんですかアロイス様……!! い、意識ははっきりしていますか…!? ものすごい音で……ひ、ひとまず横に、」
「だいじょ、ぶ……」
「絶対大丈夫じゃないです!!」
「あはは………リリも、殴りたかったら、俺のこと殴っていいよ。煮るなり焼くなりはさ…俺の方だったね。君を散々苦しめたんだから、何されたって文句言えない」
「え、え……?」
「いや、むしろ殴ってほしいな。手は、危ないから…そうだな、その辺りにあるもので適当に、」
「こ、怖いことを言わないでください!!」
とにかく手当をしましょう、だなんて、俺の心配ばかりをしているリリに、また渇いた笑いが零れた。
「うん、そう…君はそんなことしないよね…できない子なんだって、わかってる。昔からずっと、わかってたはずなのに……」
ごめん、と絞り出した声は情けないほどに震えていた。
「嘘偽りなく、君のことが好きだ…昔から、ずっと………。だけど、たくさん君を傷つけたきた。素直になれなくて、なんて、言い訳にもならない……だから俺は、君のそばにいるべきじゃないんだろう、けど………」
もう自分でもわけがわからないほどに感情がグチャグチャだった。
言葉が続かなくなってしまって、押し黙っていれば、
「ほ、本当に……? 本当にアロイス様は、わ、わたし、のことが…すき、なんですか……?」
理解不能とでも言いたげな顔でリリが問うてくるので、迷わず頷く。
するとリリは少し考え込むような素振りをした後、「……やっぱりあり得ません」と独り言のように呟いた。
「言いづらいのですが………これまでのお言葉からアロイス様はわたしのことが、お嫌いなのだと」
「それは、その…誤解で……」
「?」
「独占欲だとか、照れ隠しだとか、そういう……」
とても子供地味た感情から、とどんどん尻すぼみになりながらも何とか言葉にする。
言葉にしながら思う、実に愚かだったと。
彼女からしたらたまったものではないだろうと、頭に冷や水をぶっかけられたような状況になるまで考えられなかったのだから、本当に愚か極まりない。
リリも「すみません、理解が追い付かなくて」と額を押さえ始めた。
「で、ではシオンさんに乱暴をしようとしたのは…?」
俺は遂に手のひらで目元を覆って項垂れた。
「君があの男と、良い仲なんじゃないかと思うと、止まらなくなって……」
所謂嫉妬であると言えば、
「わ、わたしとシオンさんはそのような仲ではありませんし、百歩譲ってそうだったとして、相手の方を傷つけるなんて……」
返す言葉もなくて、ただ何度も頷いた。
冷静になった今ならわかるんだ、自分の愚かさが身に染みるように。
「でも本当に、わたしなのですか……? 何度考えてみてもわかりません……わたしのような無価値な──」
反射的に彼女の口元を伸ばした手で覆った。
自分を貶すような言葉を当たり前のように口にする彼女を、止めずにはいられなかった。
リリは出会った頃からこういう節があった。なのにそれを直させるどころか悪化させたのは俺だ。
「そんな風に言わないで。信じられないのも仕方がないし、どの口が言うんだって思うだろうけど、それでもリリを好きなのは嘘じゃない。
全部俺が間違ってたんだ──だから、君がそんな風に自分を卑下する必要なんて、これっぽっちも無いんだよ」
そう伝えても、リリは悲しげな表情のまま、俺の手を取ってそっと下ろさせた。
「………ごめんなさい。
アロイス様の言葉を信じたいと、そう思うのに…どうしても、信じきれなくて、わたしは──」
そんな自分が嫌いです、と、リリは押し殺すよう泣き出した。
「そ、そんなこと言わないで…そんな風に考えないでよ…責めるなら自分じゃなくて俺にして」
再び手を伸ばし、涙を拭っても、次から次へと溢れてくる。
「ぅ…ぅぅ゛………」
「泣かせたいわけじゃ、ないんだ」
泣かないでよと言えば、アロイス様も泣かないでくださいと返ってきた。
自分の頬に触れれば濡れていた。指摘されて初めて自分も泣いていることに気付いた。
「ご、ごめん…無理だ……なんか、止まんなくて、」
「ふふ。アロイス様って意外と泣き虫だったんですね…」
泣き笑いするリリに、俺も小さく笑って見せたけれど、上手く笑えたかどうかはわからない。
リリが少しびっくりしたような顔をしていたから、もしかしたらまた嫌な表情でもしてしまったのかもしれない。
本当に、どこまでいっても上手くいかない。
それからしばらくの間、二人して子どものように泣き続けていた。
その表情はギクリとするほどに痛ましくて、
「また新しい意地悪ですか?」
弱々しい声だというのに深く刺さるように響いた。
「わたしもう…疲れちゃったんです。だからこそ、お屋敷を出たんです」
わたしのことを揶揄っても、つまらないだけだと思いますよ。そう続けて、苦しそうな笑みを浮かべる。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「違う」と、締め付けられたような喉元から、何とか言葉を吐き出した。
「揶揄いとかじゃなくて、ほんとに、本気で、俺は君のことが「もしかして、わたしがシオンさんに貴方の悪口を吹き込むと思っているんでしょうか? 大丈夫です。そんなことはしませんから、お気遣いの必要はありませんよ」
「頼むから俺がアイツのこと好きっていう勘違いから離れて…!!」
嘆きに近い声で言えば「勘違い?」と、リリは不思議そうに首を捻った。
「アロイス様はシオンさんのことが好きなのではないんですか? だとしたらこれまでのお話って一体誰の…?」
「リリだってば!!」
深く考える必要などなく、ただ言葉をそのままの意味で捉えてくれるだけでいいのに、これだけ言ってもリリは「全くピンと来ない」とでも言いたげな表情である。
「ではやっぱり、わたしを揶揄っていらっしゃる?」
そうしてまた振り出しに戻るという無限ループに陥りそうな流れに、俺は頭を抱えたくなった。
こうまで言っても言葉のままに伝わらないのは、リリのせいじゃない。
俺だ。俺のせいでリリは、単純に自分が好かれているだけ、という思考に至らなくなっている。
「こんなに分かりやすい嘘、アロイス様らしくないです。もう少しお休みになられた方が良さそうですね」
「嘘じゃないってば! 俺は君が好きなんだよ!!」
「無理しないでください。本当はわたしの顔を見るのも嫌なんですよね? 沢山お話ししてしまって、気分が害されていることだと思います」
唖然とした。
話を逸らしているだとかでもなく、本気でそう思っているのだろう申し訳なさげな表情に、改めてこれまで自分がやらかした事の重さがのしかかるようだった。
あの男の言葉の意味が、今ならよくわかる。
付いた傷は、どれだけ繕おうが完全に元通りになることはない。
これまでに負った傷を全て含めて、今のリリが形作られている。
だから俺の言葉なんて、到底届くはずがないんだ。
初めて出会った時から彼女はボロボロだった。癒す間もない日々だっただろう。
だからといって自暴自棄になるような子でもない。
人が良すぎると、何度呆れたかわからない。
そんなリリを守りたいと、思っていたはずだったのに、いつの間にか俺がそれに甘えるばかりになっていた。
沸き起こる焦燥感に歯軋りをし、堪えるようにギュッと瞼を合わせた。
そして思いっきり──
ドッ──!
「ァ、アロイス様!?!?!?」
「ッ~……!」
思いっきり、自分の頬に向けて一発入れた。
頭がぐわんと揺れて、視界がぐらつく。
思わずしゃがみ込んで俯いた。視界の奥がチカチカと明滅する。
痛くなるように殴ったのだから、当然痛い。
でも、リリの方がもっとずっと痛かったんだろう。
「ど、どどどどうしたんですかアロイス様……!! い、意識ははっきりしていますか…!? ものすごい音で……ひ、ひとまず横に、」
「だいじょ、ぶ……」
「絶対大丈夫じゃないです!!」
「あはは………リリも、殴りたかったら、俺のこと殴っていいよ。煮るなり焼くなりはさ…俺の方だったね。君を散々苦しめたんだから、何されたって文句言えない」
「え、え……?」
「いや、むしろ殴ってほしいな。手は、危ないから…そうだな、その辺りにあるもので適当に、」
「こ、怖いことを言わないでください!!」
とにかく手当をしましょう、だなんて、俺の心配ばかりをしているリリに、また渇いた笑いが零れた。
「うん、そう…君はそんなことしないよね…できない子なんだって、わかってる。昔からずっと、わかってたはずなのに……」
ごめん、と絞り出した声は情けないほどに震えていた。
「嘘偽りなく、君のことが好きだ…昔から、ずっと………。だけど、たくさん君を傷つけたきた。素直になれなくて、なんて、言い訳にもならない……だから俺は、君のそばにいるべきじゃないんだろう、けど………」
もう自分でもわけがわからないほどに感情がグチャグチャだった。
言葉が続かなくなってしまって、押し黙っていれば、
「ほ、本当に……? 本当にアロイス様は、わ、わたし、のことが…すき、なんですか……?」
理解不能とでも言いたげな顔でリリが問うてくるので、迷わず頷く。
するとリリは少し考え込むような素振りをした後、「……やっぱりあり得ません」と独り言のように呟いた。
「言いづらいのですが………これまでのお言葉からアロイス様はわたしのことが、お嫌いなのだと」
「それは、その…誤解で……」
「?」
「独占欲だとか、照れ隠しだとか、そういう……」
とても子供地味た感情から、とどんどん尻すぼみになりながらも何とか言葉にする。
言葉にしながら思う、実に愚かだったと。
彼女からしたらたまったものではないだろうと、頭に冷や水をぶっかけられたような状況になるまで考えられなかったのだから、本当に愚か極まりない。
リリも「すみません、理解が追い付かなくて」と額を押さえ始めた。
「で、ではシオンさんに乱暴をしようとしたのは…?」
俺は遂に手のひらで目元を覆って項垂れた。
「君があの男と、良い仲なんじゃないかと思うと、止まらなくなって……」
所謂嫉妬であると言えば、
「わ、わたしとシオンさんはそのような仲ではありませんし、百歩譲ってそうだったとして、相手の方を傷つけるなんて……」
返す言葉もなくて、ただ何度も頷いた。
冷静になった今ならわかるんだ、自分の愚かさが身に染みるように。
「でも本当に、わたしなのですか……? 何度考えてみてもわかりません……わたしのような無価値な──」
反射的に彼女の口元を伸ばした手で覆った。
自分を貶すような言葉を当たり前のように口にする彼女を、止めずにはいられなかった。
リリは出会った頃からこういう節があった。なのにそれを直させるどころか悪化させたのは俺だ。
「そんな風に言わないで。信じられないのも仕方がないし、どの口が言うんだって思うだろうけど、それでもリリを好きなのは嘘じゃない。
全部俺が間違ってたんだ──だから、君がそんな風に自分を卑下する必要なんて、これっぽっちも無いんだよ」
そう伝えても、リリは悲しげな表情のまま、俺の手を取ってそっと下ろさせた。
「………ごめんなさい。
アロイス様の言葉を信じたいと、そう思うのに…どうしても、信じきれなくて、わたしは──」
そんな自分が嫌いです、と、リリは押し殺すよう泣き出した。
「そ、そんなこと言わないで…そんな風に考えないでよ…責めるなら自分じゃなくて俺にして」
再び手を伸ばし、涙を拭っても、次から次へと溢れてくる。
「ぅ…ぅぅ゛………」
「泣かせたいわけじゃ、ないんだ」
泣かないでよと言えば、アロイス様も泣かないでくださいと返ってきた。
自分の頬に触れれば濡れていた。指摘されて初めて自分も泣いていることに気付いた。
「ご、ごめん…無理だ……なんか、止まんなくて、」
「ふふ。アロイス様って意外と泣き虫だったんですね…」
泣き笑いするリリに、俺も小さく笑って見せたけれど、上手く笑えたかどうかはわからない。
リリが少しびっくりしたような顔をしていたから、もしかしたらまた嫌な表情でもしてしまったのかもしれない。
本当に、どこまでいっても上手くいかない。
それからしばらくの間、二人して子どものように泣き続けていた。
131
お気に入りに追加
3,612
あなたにおすすめの小説
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!
(完結)私の夫を奪う姉
青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・
すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。
え?そちらが有責ですよね?
碧桜 汐香
恋愛
婚約者に浮気をされているはずなのに、声の大きい婚約者たちが真実の愛だともてはやされ、罵倒される日々を送る公爵令嬢。
卒業パーティーで全てを明らかにしてやります!
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
「だから結婚は君としただろう?」
イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。
黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。
救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。
プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。
それを。
あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。
アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。
…そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。
けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。
「君を愛することはない」
と。
わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる