【完結】お世話になりました

こな

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2.気まぐれ

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「お前さあ、いつになったら俺の好みを覚えるの?」

「も、申し訳ありません……」

 ああ、今日も失敗してしまった。
 アロイス様の朝の一杯は、彼の口から語られずとも気分に合わせたものを用意しなければならない。

「今日みたいな天気のいい日はさ、さっぱりしたハーブティーがいいんだよね」

 過去、気まぐれに始まった『何が飲みたいか当ててみて』という希望に、わたしはこれまで一度も応えられたことがない。

 この間の晴天の日には、コクがあって味の濃い、たっぷりのミルクとよく合うような紅茶がいいと言っていたけれど、アロイス様の気分は秋の空よりも変わりやすい。

 それを理解したうえで、毎朝うんうんと唸りながら選んでいるのだが、今日もやっぱり駄目だった。

「すぐに、他のものを用意いたします」

「いいよ勿体ないから。お茶に罪は無いし」

 軽薄な調子で吐き出される嫌味に、呼吸が震えそうになるのを堪える。
 こんなのはいつものことだ。

「リリってほんと、愚図でどうしようもないねぇ」

 アロイス様のしなやかな指先がカップの縁をなぞる。

「冴えない上に仕事もできないときた。ああでも、この間『アロイス様はどこの馬の骨かもわからない小汚い娘を側に仕えさせてやっている慈悲深い方だ』って噂を耳にしたな」

 引き立て役くらいにはなれてるか。
 そう言って、彼はにっこりと綺麗に笑った。

「いや待てよ、それと同じくらい『変わってる』って噂も立つから、プラマイマイナス? あーやっぱりお前、どうしようもないなぁ」

 クスクスと笑う仕草はまさに、巷で噂の”貴公子の微笑み”。
 でも言っていることは全くもって程遠い。
 この人は天使の皮を被った悪魔のような人だ。
 いつもこうしてわたしを貶しては楽しそうに笑っている。

「で、いつまで突っ立ってんの? お茶が不味くなるから、さっさと出てってくれない?」

 この間は、早く下がろうとしたわたしに、勝手に出て行こうとするなって言っていたくせに。

「申し訳ありません、でした。それでは、失礼いたします」

 一礼してから、そそくさと部屋を後にする。
 だだっ広い彼の部屋から出て行く際、背中に突き刺さる視線を何とか知らない素振りを装って。

 彼の視線を受けることを、こんな風に恐ろしく感じるようになったのはいつからだろう。
 彼と相対する時、心臓を掴まれたような心地になって言葉に詰まるようになったのはいつからだろう。

 扉をしっかりと締め切ってから重い息を吐き出して、一喝入れるように両頬をぱちんと叩いた。
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