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二人の約束
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「ヘンリエッタさん、外で魔力の補充を。その姿なら皆さんも快く協力してくれるはずです」
「そうですの?」
「ええきっと。だって凄く綺麗ですから、それに笑顔でとても優しそう」
人間の姿になってからずっと微笑してるのよね、濃い茶色のストレートロングヘア、ちょっとタレ目でふんわりした瞳、ピンクの唇、黒と紫と銀のドレスで小首をかしげている。変身するにしても随分と、その可愛らしいなって思うわ。
「カイン様がこの姿がお好きで、いつも笑っている方が良いと仰るので」
おおっ! それってまさか、竜と魔王の恋ですか! 困ったような笑みを浮かべて頬に手を当ててるところなんて、とても数百年生きてる竜とは思えないです。もしかして魔王って世界を滅ぼすとかいわれてるのは、人間の言いがかりだったりしないかしら。これを見て恐怖することなんて全然ないじゃない。
「会ったことありませんけど、きっとそのカインさんって、誠実で優し気な方なんですね。魔王っていうからアレですけど、そんな感じがしました!」
「まあ、お解りになりますか、嬉しいですわね。カイン様はそこらの魔王とは違いますわ、とても強い信念をお持ちです。ふふ、あと三百年でまたお会い出来るのを楽しみにしていますの」
千年に一度じゃ織姫と彦星も真っ青ね、想いが募って爆発しそう。待つってつらいでしょ、それなのにこんなにも期待でいっぱいなんだ。
「それじゃ外へ行きましょう」
デュラハンも後ろをついて来る、とんと喋らなくなったわね。魔物に囲まれている冒険者と黒服は緊張のまま警戒を続けてるわ。こちらを見て安堵の表情を浮かべる人が殆どよ。
魔物を割って円陣によると「すみません、魔力を分け与えたいので可能な方はこちらへ来てください」魔法使いと神官がやって来て目の前に並んだわ。戦闘部隊の方はまあ無理よね。
「レディ、お待ちを。クァトロは整列せよ!」
駆けてきて黒服全員が背筋を伸ばして並んだわ、もしかして? でも中々魔力操作まで出来る人って居ないはずなんだけど。
「自分も含め魔力供出の準備はいつでも出来ております」
こちらの考えをあっさりと破ってきたわね。そういえばプロテクションしてたわよね、案外補助系の専門魔法使いは結構魔力操作使えるのかも知れないわね。
「合図するから私に魔力を注いでください。ヘンリエッタさん、失礼しますね」
両手を拡げて抱き着くと背に腕を回す。暖かい、アンデットドラゴンなはずなのに。体温がというよりも、その存在がよ。
「みなさん、お願いします」
私を通して皆の魔力を移行する、神聖魔法の一種よ。多くの祈りを集約して一つの力にする為の素地にこういう能力があるの。私にプールできるわけじゃないから、皆が一斉に同じ祈りを捧げる必要があるから、集団儀式って呼ばれたりしているわ。
色んな波動の魔力を受けて、それを一定にしてヘンリエッタさんに流し続ける。この量を吸収できることだけでも凄いのに、全く動じないのね。
「遠い昔にもこうやってカイン様に魔力を貰ったことがありますわ。あなたからもそれと同じ暖かさを感じます」
青白く光る魔力が全てヘンリエッタさんに入ってゆき、ついに皆の魔力が枯渇した。肩で息をして顔色が一気に悪くなる、帰りはゆっくりね。私もちょっと無理してギリギリ一杯よ。
「すみません、これだけで限界です。どうでしょうか?」
「……貴重な種類が入って来て久々に満たされた気持ちですわ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ協力して貰って助かります」
訳も分からずに笑顔でそんなやり取りをする二人、首を傾げて見ている大勢が魔物を気にしている。ヘンリエッタさんがチラッとデュラハンを見ると「退け!」魔界騎士は魔物を連れて去って行ったわ。主人を察する、か。
ヘンリエッタさんと別れて街に戻るために移動中よ、もう薄暗くなってきてるわね。馬車に乗ってる私ですらかなり辛いのに、魔法使いや神官の人たちはどうしてるかしら。ぐったりして外を見ると、戦闘要員に肩を借りてたり、背負われたりしてた。黒服の人たちですら槍を杖のようにして歩いてるわ。
魔力の譲渡、余ってる分を少し与えるくらいなら疲労感で済むけど、気絶手前まで渡しちゃうとこんな感じよ。でも出来るだけのことをしておきたかったし、数日寝たら回復するはずだから。
あら、城門前にちょっとした渋滞ね、どうしたのかしら。あれは……軍隊? 何かあったのね、でもどうして北門に。馬車を先頭にして近づくと、怒声が聞こえて来たわ。
「卿ら揃いもそろって何をしておるか!」
事件でも起きてるのかも、物凄い剣幕ね。西門に回った方が良いかも知れないわ。すっかり陽も暮れてしまって、こっちが近づいてようやく存在を認識て来たわ。兵士に止まれって言われて馬車をとめたけど、正直それどころじゃない感じよ。
リスィに手を借りて何とか馬車を降りて、人だかりへ近づく。ハマダ大尉たちも無言で着いてきたわ。
「未開の地へ調査に向う際にどうして護衛をつけなかった!」
一人が多くと相対して、少数が前に出てる。多くの兵士たちは後ろで立って待っているわね。どこかへ出かける準備をしてるみたい。
「まさか少数で向かうとは思わずに、これより隊を出しますのでお怒りをお鎮め下さい閣下」
あれって……将軍とマケンガ侯爵? でも到着するのって随分と遅くなるはずじゃ。でも見間違えることはないわ。
「そうですの?」
「ええきっと。だって凄く綺麗ですから、それに笑顔でとても優しそう」
人間の姿になってからずっと微笑してるのよね、濃い茶色のストレートロングヘア、ちょっとタレ目でふんわりした瞳、ピンクの唇、黒と紫と銀のドレスで小首をかしげている。変身するにしても随分と、その可愛らしいなって思うわ。
「カイン様がこの姿がお好きで、いつも笑っている方が良いと仰るので」
おおっ! それってまさか、竜と魔王の恋ですか! 困ったような笑みを浮かべて頬に手を当ててるところなんて、とても数百年生きてる竜とは思えないです。もしかして魔王って世界を滅ぼすとかいわれてるのは、人間の言いがかりだったりしないかしら。これを見て恐怖することなんて全然ないじゃない。
「会ったことありませんけど、きっとそのカインさんって、誠実で優し気な方なんですね。魔王っていうからアレですけど、そんな感じがしました!」
「まあ、お解りになりますか、嬉しいですわね。カイン様はそこらの魔王とは違いますわ、とても強い信念をお持ちです。ふふ、あと三百年でまたお会い出来るのを楽しみにしていますの」
千年に一度じゃ織姫と彦星も真っ青ね、想いが募って爆発しそう。待つってつらいでしょ、それなのにこんなにも期待でいっぱいなんだ。
「それじゃ外へ行きましょう」
デュラハンも後ろをついて来る、とんと喋らなくなったわね。魔物に囲まれている冒険者と黒服は緊張のまま警戒を続けてるわ。こちらを見て安堵の表情を浮かべる人が殆どよ。
魔物を割って円陣によると「すみません、魔力を分け与えたいので可能な方はこちらへ来てください」魔法使いと神官がやって来て目の前に並んだわ。戦闘部隊の方はまあ無理よね。
「レディ、お待ちを。クァトロは整列せよ!」
駆けてきて黒服全員が背筋を伸ばして並んだわ、もしかして? でも中々魔力操作まで出来る人って居ないはずなんだけど。
「自分も含め魔力供出の準備はいつでも出来ております」
こちらの考えをあっさりと破ってきたわね。そういえばプロテクションしてたわよね、案外補助系の専門魔法使いは結構魔力操作使えるのかも知れないわね。
「合図するから私に魔力を注いでください。ヘンリエッタさん、失礼しますね」
両手を拡げて抱き着くと背に腕を回す。暖かい、アンデットドラゴンなはずなのに。体温がというよりも、その存在がよ。
「みなさん、お願いします」
私を通して皆の魔力を移行する、神聖魔法の一種よ。多くの祈りを集約して一つの力にする為の素地にこういう能力があるの。私にプールできるわけじゃないから、皆が一斉に同じ祈りを捧げる必要があるから、集団儀式って呼ばれたりしているわ。
色んな波動の魔力を受けて、それを一定にしてヘンリエッタさんに流し続ける。この量を吸収できることだけでも凄いのに、全く動じないのね。
「遠い昔にもこうやってカイン様に魔力を貰ったことがありますわ。あなたからもそれと同じ暖かさを感じます」
青白く光る魔力が全てヘンリエッタさんに入ってゆき、ついに皆の魔力が枯渇した。肩で息をして顔色が一気に悪くなる、帰りはゆっくりね。私もちょっと無理してギリギリ一杯よ。
「すみません、これだけで限界です。どうでしょうか?」
「……貴重な種類が入って来て久々に満たされた気持ちですわ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ協力して貰って助かります」
訳も分からずに笑顔でそんなやり取りをする二人、首を傾げて見ている大勢が魔物を気にしている。ヘンリエッタさんがチラッとデュラハンを見ると「退け!」魔界騎士は魔物を連れて去って行ったわ。主人を察する、か。
ヘンリエッタさんと別れて街に戻るために移動中よ、もう薄暗くなってきてるわね。馬車に乗ってる私ですらかなり辛いのに、魔法使いや神官の人たちはどうしてるかしら。ぐったりして外を見ると、戦闘要員に肩を借りてたり、背負われたりしてた。黒服の人たちですら槍を杖のようにして歩いてるわ。
魔力の譲渡、余ってる分を少し与えるくらいなら疲労感で済むけど、気絶手前まで渡しちゃうとこんな感じよ。でも出来るだけのことをしておきたかったし、数日寝たら回復するはずだから。
あら、城門前にちょっとした渋滞ね、どうしたのかしら。あれは……軍隊? 何かあったのね、でもどうして北門に。馬車を先頭にして近づくと、怒声が聞こえて来たわ。
「卿ら揃いもそろって何をしておるか!」
事件でも起きてるのかも、物凄い剣幕ね。西門に回った方が良いかも知れないわ。すっかり陽も暮れてしまって、こっちが近づいてようやく存在を認識て来たわ。兵士に止まれって言われて馬車をとめたけど、正直それどころじゃない感じよ。
リスィに手を借りて何とか馬車を降りて、人だかりへ近づく。ハマダ大尉たちも無言で着いてきたわ。
「未開の地へ調査に向う際にどうして護衛をつけなかった!」
一人が多くと相対して、少数が前に出てる。多くの兵士たちは後ろで立って待っているわね。どこかへ出かける準備をしてるみたい。
「まさか少数で向かうとは思わずに、これより隊を出しますのでお怒りをお鎮め下さい閣下」
あれって……将軍とマケンガ侯爵? でも到着するのって随分と遅くなるはずじゃ。でも見間違えることはないわ。
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