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婚約編
34 断罪①
しおりを挟むそれからはトントン拍子にことが進んだ。
ダリアンはアンネマリーからの連絡を受け取るとそのまま領地へやってきた。やってきたダリアンはレティシアの持ち出した書類に目を通し、レティシアの話を聞いた。それからいくつか質問するとその日のうちに王都へとんぼ返りした。王都の記録と照合して真偽を確かめるらしい。もともと王宮の財政部はレイエアズマン公爵への疑いはあったそうだ。ただ、証拠がなく、公爵を疑わしいというだけで表立って疑うこともできず手をこまねいていたらしい。
ダリアンはレティシアの勇気を労い、よく頑張ったと頭を撫でてくれた。
荒れに荒れたのがレイエアズマン家である。マルクスはレティシアが屋敷を去って数日後に隠し部屋の書類がなくなっていることに気づきそれからというもの落ち着きなく書類探しと隠蔽に走り回っていた。また、依頼した男からの連絡が途絶えたケイトはアルハイザー家からの連絡でレティシアが無事とわかると不機嫌に部屋にこもるようになった。
それから一か月が過ぎ、レティシアはイサイアスとともに王都へ向かっていた。本来王都に戻るならば家族と一緒に戻るものであるし、時期ももう少し後のはずだ。イサイアスと一緒の馬車で優しい揺れに身をまかせながらレティシアは少しウトウトしながら考え事をしていた。
「レティシアちゃん、ちょっと聞いてくれるかな?」
あと数時間で王都へ入るだろうというところでダリアンがそう切り出した。レティシアが神妙な表情で姿勢を正すとそこまで畏まる必要はないよ、とダリアンは優しく苦笑をこぼした。
「レティシアちゃんならもう分かっていると思うけど、私たちは今王宮に向っている。君が持ってきてくれたあの証拠は既に兄上、皇帝に渡してある。それと、レイエアズマン家の人たちも王宮に呼ばれているよ。」
「はい。」
レティシアはいよいよかと表情を硬くする。皇帝の判断によってはレティシア自身もどうなるかわからない。皇帝は容赦のない方だと有名であるからだ。
「レティシアちゃんは安心して見守っていてね。大丈夫。」
ダリアンはレティシアの恐れに気づいてそう声をかけてくれた。ダリアンがこういうからには私におそらく大きな罰は下らないのだろう。
王宮に着くとダリアンとアンネマリーの後ろをイサイアスにエスコートされて広間まで来た。マリーは付いてくることができなくて王宮の従者の待機部屋で待ってくれている。不安な気持ちを必死で押さえつけて、イサイアスに預けている手にきゅっと力がこもった。イサイアスはレティシアに視線を投げかけて、大丈夫という風に微笑んでくれる。レティシアはほんの少しだけ緊張を解してぎこちない笑みを向けた。
広間にはすでにマルクスをはじめとしたレイエアズマン家の面々が到着していた。マルクスはこれから起こることを感じとってか青を通り越して白い顔をしており、母や兄も同じような表情をしている。唯一分かっていないのがカラメリアで、再び訪れた王宮にキラキラとした目をして回りを見渡している。
マルクスはアルハイザー家と一緒に姿を現したレティシアに憤怒の表情をむけた。ここまで来たら流石のマルクスも呼ばれた理由とその原因がレティシアであることも察したようである。いまにも飛びかからんばかりのマルクスの眼光は鋭く、レティシアは初めて父の本気の怒りを見た気がした。ダリアンもアンネマリーも気にした様子も見せずに澄ました笑顔で受け流していた。
マルクスとは別の理由で怒りを抱いていたのカラメリアだ。消すと言っていたケイトの計画も失敗しいまだにイサイアスの隣に立つ姉の姿を忌々し気に睨みつける。カラメリアの視線に気づいたイサイアスはその視線を遮るようにレティシアの前に立ちカラメリアに感情のこもらない冷たい視線を向ける。カラメリアは向けられた鋭い視線に屈辱に耐えるように握った拳を握りしめた。
「揃っているな。」
緊張感が膨れ上がった広間に落ち着いた声が響いて、皇帝がゆったりとした足取りで姿を現した。舞踏会の時よりも幾分か落ち着いた、それでも最高品質とわかるシンプルな衣装で現れた皇帝陛下は薄っすらと余裕のある笑みを浮かべていた。やはり兄弟だからかダリアンとどことなく似ている。レティシアたちが皇帝へ最敬礼をする。
「さて、レイエアズマン公爵。ここに呼ばれた理由はわかっておるのだろう?」
「い、いえ。」
「ほう? まあよい。」
皇帝が右手を無造作に隣りへ差し出すと間を置かずに宰相がその手へレティシアが持ち出した紙束を差し出した。資料を受け取った皇帝は座っていた王座から立ち上がると笑みをしまって厳しい表情に変える。そのままマルクスの方へ歩みを進める。思わず後ずさりそうになるマルクスは唇を恐怖に震わせていた。
「最近、公爵が必死になって隠そうとしていたのは知っているよ。ご苦労だったな。残念ながら証拠はそろっている。言い逃れできると思うな。我が帝国の民を虐げた罪は重いぞ。」
持っていた証拠の束をマルクスの足元に投げ捨てる。必死になって探していた証拠の束がすでに皇帝の手にあったことを知ったマルクスは自身の破滅を自覚してがっくりと膝をついた。
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