33 / 36
婚約編
33 相談
しおりを挟むレティシアが渡した書類を黙って読んでいたイサイアスはざっと目を通すとため息をひとつついて顔を上げた。呆れた様子のイサイアスにレティシアはぐっと涙を堪える。顔を上げると涙ぐむレティシアが目に入ったイサイアスは慌てる。呆れているのはレティシアの父にであって決してレティシアに対してではないからだ。
「シア、泣かないで。」
イサイアスは座っていた向い側から同じソファーに移動するとそっとレティシアを抱きしめた。
「何があったか話してくれるでしょ?」
そういってレティシアはイサイアスに抱きしめられた格好のまま領地へ戻ってから今日までのことを包み隠さず全てはなして聞かせた。
イサイアスが特に反応したのは襲われた場面だった。
「指輪渡しておいて本当によかった。」
そういって一層強く抱きしめられて、レティシアは恥ずかしいやさ嬉しいやら顔を赤く染めた。それでも、イサイアスが心配してくれているということが素直に嬉しくイサイアスの体に腕を回してレティシアからも抱きしめ返すのだった。
全て話し終わったころには真上にあった太陽はすっかり沈み辺りが暗くなっていた。
「シア、話してくれてありがとう。今日まで一人で本当に頑張ったね。」
イサイアスは話の内容について何を言うでもなく、まずそう労って頭を優しくなでた。レティシアはこれでできることはすべてやったのだと安心して、ふわっとほほ笑むと安堵からかそのまま意識を手放した。
ーーーーーーーーーー
「シアっ!」
腕のなかで意識を飛ばしたレティシアをイサイアスは慌てて抱えなおす。おそらく心労から気を失っただけだろうを当たりをつけた。
久々に会えて喜ぶのもつかの間、レティシアが語ったのは到底信じられないような事件だった。彼女がこうやって証拠をそろえていなければ信じられなかっただろう。レティシアが執務室に忍び込んだのには驚いたが、彼女がドレスを売って食料や薬の寄付にまわしたという話は彼女らしいと思った。もともと心優しい子だと思っていたが、本当にお人よしというかなんというか。
それに、命を狙われたという話には肝が冷えた。たまたま自分が指輪を見つけて、防御魔術を仕込んでいたからよかったものの、もし指輪がなかったと思うと、その先は考えたくもない。
レティシアが父の不祥事が公になれば彼女は厳しい立場に置かれるだろう。父の不正を告発されたとはいえ、彼女もレイエアズマンの名を背負う者。他の貴族連中がそう簡単に見逃してくれるはずもない。イサイアスとの婚約も見直せと声をあげる輩も出てくることだろう。
もちろんイサイアスはレティシアを手放すつもりはない。
何が何でも守り切ってみせる。
決意を新たに、イサイアスはレティシアを寝かせるべく、用意させていた客室に自ら彼女を運ぶとアンネマリーのもとを訪れた。
レティシアから聞いた話をそのまま伝え、レティシアが持ち出した書類を渡した。
「わかったわ。」
アンネマリーは全てを聞き終わったあとでも冷静だった。
「一つ聞きたいのだけれど、イサイアスはレティシアちゃんをどうしたいの?」
「俺はシアを手放すつもりはありませんよ、母上。たとえ母上が反対しても婚約破棄はしません。」
「ふふ、いい顔をするようになったじゃない。それじゃあ、お母様も張り切っちゃいましょうか。」
アンネマリーもレティシアとの婚約を破棄するつもりはなく、むしろ身を挺して領民を守ろうとした彼女を評価していた。むしろレティシアならイサイアスとともに歩んでいけるだろうという確信が生まれていた。
我が息子ながら見る目があるじゃない。
そう独り言ちながら、王都にいる夫に手紙を仕立てる。
決着がつくのはもうすぐだろう。
49
お気に入りに追加
8,448
あなたにおすすめの小説
とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する
春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。
しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。
その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。
だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。
そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。
さて、アリスの運命はどうなるのか。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる