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婚約編

25 領地で①

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 無事にレイエアズマン領に着いた。レイエアズマン領は帝国の南部にある比較的暖かい土地で農業が盛んな地だ。レイエアズマン領からさらに南にあるのが港を所有するデロイト領。貿易のかなめであるこの地へ食糧を供給しているレイエアズマン領は比較てき裕福な土地でもあった。

 東西に長い領地は半分が農地となっており、中心部に住宅街が広がっている。住宅街のさらに中心にはレティシアたちがオフシーズンに滞在する屋敷があった。王都の屋敷と同じくらいの規模の屋敷は庭も広く夏には様々な花が咲き乱れる。普段はレティシアの祖父が住んでいる。

 レティシアの祖父アランは祖母によくにたレティシアを大変可愛がっていた。ただ、昔から体の弱かったアランはレティシアの小さい頃から寝たきりの生活であった。レティシアは領地の屋敷に来た時にはよくアランのもとを訪れアランの体調のいい日にはたくさんの話をした。

 両親から虐げられているレティシアの世話をメイドたちに頼んでいたのもアランであった。魔力なしで生まれてしまった孫が苦労する姿をみて自身の不自由な体を恨んだ。息子に何度も意見したが受け入れられることはなく、従者やメイドたちに頼むしかなかったのだ。

 王都へ帰さずに領地の屋敷で面倒を見ようとしたことも何度もあったが体の不自由な自分では面倒を見てあげられない上にここにいては社交界へも出られない。そう考えて、葛藤の末いつも王都へ帰していたのだが、婚約者ができたと嬉しそうに報告に来たレティシアをみて自身の選択が間違っていたわけではなかったと安堵した。レティシアの婚約者があのアルハイザー家の嫡男であると聞いて驚いたが、彼らから大切にされていると聞いて苦労していた孫に幸せを与えてくれたことを感謝した。



 領地にきて自由な時間が増えたレティシアは薬学の勉強に精を出していた。カグニールは王都の屋敷に残っているので領地へはこれなかったが、彼に貰った教本を抱えてレティシアは屋敷内の庭に来ていた。

 2年前、薬学を学び始めたレティシアが汚れてもいいシンプルな服に着替えて庭に現れると使用人たちは驚いた様子だった。それでも、事情を話せば快く庭を案内してくれた。それからレティシアは使用人たちの住んでいる離れの近くにある庭園の一角を借りて薬草園を作っていた。

 1年ぶりに薬草園を訪れるとそこは前と変わらずきれいに整備されており、様々な薬草が育っていた。

「私がいない間、面倒をみてくれてありがとう。」

 庭師の一人で薬草園の管理を引き受けてくれているオルトにお礼を告げる。

「いえいえ、お嬢様のおかげで私たちも薬草を簡単に手に入れられるようになって助かっていますから。」

 そう、レティシアは自分がいない間の薬草園の管理を頼むと同時に薬草園の薬草を使用人たちに自由に使っていいと言っていた。

 薬草はそれほど高価なものではないがいちいち町に出て買いに行かなければならなかったり、薬効の関係で買いだめができなかったりと面倒なことが多い。その分、屋敷の中に薬草園があればその手間が省けると屋敷の者はみなレティシアに感謝していた。

「オルトさん、マオウの茎を乾燥させたものはどのくらいありますか?」

「確か、粉にして瓶に詰めてあります。4つ分だったと思います。」

「分かりました。2つ分を小分けにして袋に入れて貰えますか?」

 マオウは細い茎の植物で葉は丸まって筒状になった特徴的な植物である。マオウの茎は乾燥させると解熱や鎮痛の薬となるのだ。

 レティシアはそのマオウを乾燥させ粉にした解熱薬を持って近くの孤児院へ訪ねて来ていた。

「お久しぶりです。院長先生。」

「レティシア様! お越しくださりありがとうございます。」

「いえ、今年も薬持ってきました。使ってください。」

 孤児院は教会の横に建っている小さな建物だ。親を亡くした子供たちが30人ほど暮らしている。孤児院の院長は教会のシスターでもあり、レティシアはこうして領地に戻ってきた際には訪れるようにしていた。

「本当にありがとうございます。今年から税も上がって厳しくて……助かります。」

「税金が上がった?」

 レティシアは首を傾げる。そんなことは無いはずだ。曽祖父の代から税金は変わったことは無いし、今増税する理由もない。それに、もともと軽い税率ではなかったはずだ。今増税なんてすれば領民の生活が酷く圧迫されているに違いなかった。

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