吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

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 「あ、あれ……ここって、教室じゃなかったですか……?」
 うるうると上目遣いでお兄様を見つめる彼女。どうやら迷ってきてしまったみたい。
「見りゃわかるだろ。さっさといけ」
「ちょっとクロウ。女性には優しくしないと……しょうがないな、僕が案内しよう」
 彼女は振り返ってお兄様を見つめて「え、なんで……クロウ様……」って呟いてた。
 そんな彼女をお兄様は不快そうな顔で睨みつけていた。
 そう、先ほど来た彼女こそ小説の主人公であるシャルル様。そして、彼女は……お兄様と最後には結婚するのだ。
 ちょっと小説とは違うけれど、名前も世界観も、お兄様が吸血鬼であることも同じ。
 その小説の中にはわたしはちょっとだけ登場していた。彼の侍女として屋敷にいたはずで。
 そうか、ここは決められた世界の物語。わたしはちょっとしか登場しない脇役。ただの食事係なんだ……

「アメリア? どうしたの」
 ミーシャ様が声をかけてくれる。心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。
「あ、大丈夫です……びっくりして」
「まあ、そうだったのね。それより食事は? 先に食べちゃいましょうよ」
「……そうだな。アメリア、先に食べて」
 誰かが用意してくれたのであろう食事をミーシャ様と並んで食べる。ここの食事も美味しいのだ。夢中になっているわたしをにこにこ眺めるお兄様。そしてそんなわたし達を面白そうにみるミーシャ様。
 いつも思うんだけれど、人の食事を見てて楽しいのかな……
 食事を終えるとお兄様に手を引かれ、奥にある部屋へ連れられる。
「ご飯ちょうだい」
「はい、お兄様」
 今日も今日とて食事をとるお兄様。満足そうに笑った顔を見て、わたしは眠った。



 誰かの声が聞こえる。誰だろう……
 ふと意識が浮上し目を開けると目の前には多くのクラスメイトたちが壇上を見ている。壇上には先生らしき人が立っていて、何かを話している。
「起きた? おはよう」
「お、はようございます……」
 後ろからお兄様の声が聞こえる。ん? 後ろ……
「ひゃっ、お兄様、おろしてくださいっ」
 わたしはなぜかお兄様の膝の上に乗せられていた。なんでこんなことになってるの……? もしかして食事の後でちょっと寝過ごしたってこと?
 それで遅刻はまずいから連れてきてくれたってことかな。
 慌てて空いていた隣に座る。こんな状況で平然と授業を受けている生徒達もすごいけど、今はありがたい。絶対顔が赤くなってる。
 両手で頬を押さえながら、授業に集中しようと思ったけど、集中できなかった……
 案の定帰ってからの勉強では全くついていけずにしっかりと教え込まれてのだった。



 とある日、お手洗いに行こうと席を立つとミーシャ様が「一緒にいきましょうか?」って言われたけど、わざわざ来てもらうのも申し訳なかったのでお断りした。
 もう道も覚えたし、迷子になることもない。そのままお手洗いに入るとそこにはシャルル様がいた。なんだかわたしのことを睨みつけている気がする。
 あまり話したことはないけど、よくこっちを見ているの。わたしと言うよりはお兄様だと思うんだけど。頬を染めて熱い視線を送りながらちらりとわたしを見てキッと睨みつけてくる。
 だからあまり、関わりたくないと言うのが本音。でも避けては通れないから軽く会釈して通りすぎようとしたけど、腕を掴まれてしまった。
「あなた、クロウ様のなんなの?」
「え、あの……妹です」
「うそ。わたし知ってるのよ。クロウ様には兄弟はいない。それにアメリアって確かクロウ様の侍女だったはずだけど」
 え、なんで知ってるの……?わたしがお兄様の侍女ってこと。誰も知らないはずなのに……
「彼はわたしのものなのよ。あなた別にクロウ様を好きじゃないんでしょう? だったら側から離れなさいよ。邪魔よっ」
 そう言って彼女は去っていった。一人残されたわたしは考える。
 え、と……まずなぜか彼女はわたしのことを知っていて、それからお兄様のことが好き。それでいつも一緒にいるわたしのことが邪魔だって言ってたよね。
 小説の中の彼女はそんな性格じゃなかった気がするけれど……
 他の本で読んだことがある。こう言う女性は、愛を育む二人の障害として登場して過激なことをするって。王道恋愛ものの悪役みたいな?
 言うこと聞いたほうがいいのかな……
 よし、お兄様に世話を焼かれないようにしっかりしなきゃ。そうしたら自然と離れられるよね……?
 ツキリとまた胸が痛む。
 この胸の痛みはなんだろう。
 まぁ、いっか。
 わたしはお手洗いを後にして教室に戻った。
 教室に戻ると案の定心配されて、「なんでもない」って答えたら怪訝な顔をされたけど、それ以上は何も聞かれなかった。
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