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本編
19.例の場所っ
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カタカタと乗り心地の良い馬車に乗り、時折降りて休憩しながら王家所有の別荘へとたどり着いた。
着いた時にはもう夜も更けていて、今日はゆっくり休もうということになり、それぞれ割り当てられた部屋でゆっくり休むことになった。
「おはよう、ルシア」
ベッドで眠っていたわたしは誰かの声で目を覚ます。そこにはとろけたような瞳のシエル様。眠たい目を擦って「おはようございます……」と挨拶したところで、シエル様はノーラ様と別荘にいた侍女に追い出されていた。
あ、そうか。普通寝起きの女性の部屋に入るなんてありえないもんね……
なんて呑気に考えているうちに手早く侍女に着替えさせられた。さすが王家の侍女だ。手際が違う。
そしてリビングにきたわたし達は朝食を仲良く食べるのであった。
わたしを真ん中に、シエル様とノーラ様と手を繋いで歩く。前回頭痛で倒れてしまったこともあってか、後ろにはぞろぞろとたくさんの人が来ていて、もし周りに人がいたら異様だと思われるだろう。
まあ、王家所有の地だからあまり周りに人は居ないんだけれど。
段々と見覚えのある風景が近づいてくる。ツキン、ツキンとちょっとずつ痛み始める頭。
そしてある場所でシエル様は足を止めた。
「大丈夫?」
眉を顰めているわたしを心配そうに見つめる彼。「大丈夫」といって、その風景をじっと見つめてみる。
「ここはね、八年前にとある事件が起こった場所なんだ……何か覚えてる?」
八年前。八年前ならわたしは八歳だ。八歳……
痛む頭を抱えながらも必死に思い出そうとする。めまいもして真っ白になった頭の中にある情景が浮かんだ。
たくさんの子ども達。わいわいお話ししたり遊んだり。お茶を飲んだり。その中にわたしは立っていた。
隣にはシルエットだけの……男の子? わたしはなんだか楽しい気持ちだったと思う。うきうきしているのが伝わってくる。
ぐるりと場面が変わる。今度はシルエットだけの女の子が目の前に立っている。隣には、気を失っているのか動かない男の子。
その女の子はわたしに何かを手渡す。その手渡されたものをわたしは飲んだ。
そこで意識は途切れた……
「あれ……」
パチリと目を覚ますとわたしは横になっている。周りを見渡すと一面の緑。どうやらまだ外のようだ。
意識がはっきりしてくる。わたしは膝枕されているようだ。上を見ると心配そうなシエル様。
ああ、わたし、シエル様に膝枕されてるんだ……
体を起こそうとしたけど、それは彼の腕で止められていた。
「もう少し休んで。今馬車を向かわせてるから」
そうか、まだ少し頭が痛い。わたしの瞼は重くて、すぐに目を閉じた。
「やっぱり僕は思い出してもらいたくない。それで彼女の心が手に入るのだとしても」
「でも、それじゃあダメだと思うわ。ルシアにとっても、シエル、あなたにとっても」
「でも、彼女に辛い思いは……」
「それを決めるのはルシアよ、あなたじゃない」
「……」
そう、これはわたしが決めたこと。だからそんな悲しそうな顔をしないで。
大丈夫。きっと大丈夫だから……
パチリと目を覚ます。妙にスッキリした気分だった。あの記憶のシルエットは誰かわからないけれど、わたしはとある女の子に薬を飲まされた。どこかはわからないけれど、そばには同じくらいの男の子がいた。
それだけははっきりと思い出した。
「ルシア。大丈夫? 最近これしか言っていない気がするね」
苦笑しながら優しく髪を撫でてくれる。どうしてこんなに安心するんだろう。両親とは違う安心感。これは一体なんなんだろう。
心地いい。
「もっと撫でて」
全ての不安が消し飛ぶような気がする。もっと撫でて。もっとわたしを安心させて。
とろとろの目でわたしをたくさん撫でてくれる。こんな時間がもっと続けばいいのに。
――どうして? どうしてそう思うの? 思い出して……
やっと起きたわたしは、激しい頭痛の最中に思い出した記憶について話した。二人ともなんだか悲しそうな、辛そうな表情をしていたけれど。
きっと心配しているだけねなんて、呑気に考えていた。
「さて、次はどうする?」
そうか、次の手がかりが掴めていないのか。「んー……」と考え込むわたし。
「あそこで開かれていたお茶会の参加者って、誰ですか? 学園にいた人たちには何も感じなかったから会ったことない人な気がするんですけど……」
あの場所はあれ以上いることはできないだろう。二度も倒れてしまったのだ。あまり迷惑もかけられないし、わたしの謎の感覚が違うといってる気がする。
「わかった。今すぐ王宮で調べさせるよ。キース、頼んだ」
「はい」
突如現れたキース様にびっくりしているうちに彼はいなくなった。忍者かな……?
なんだかよくわからないことになっているけど、わたしは周りに恵まれているらしい。だからこそ記憶を探すことを決断できたのだ。
「ありがとう、シエル様、ノーラ様。これからも迷惑かけるかもしれないけれどよろしくね」
その言葉に三人で笑い合った。
着いた時にはもう夜も更けていて、今日はゆっくり休もうということになり、それぞれ割り当てられた部屋でゆっくり休むことになった。
「おはよう、ルシア」
ベッドで眠っていたわたしは誰かの声で目を覚ます。そこにはとろけたような瞳のシエル様。眠たい目を擦って「おはようございます……」と挨拶したところで、シエル様はノーラ様と別荘にいた侍女に追い出されていた。
あ、そうか。普通寝起きの女性の部屋に入るなんてありえないもんね……
なんて呑気に考えているうちに手早く侍女に着替えさせられた。さすが王家の侍女だ。手際が違う。
そしてリビングにきたわたし達は朝食を仲良く食べるのであった。
わたしを真ん中に、シエル様とノーラ様と手を繋いで歩く。前回頭痛で倒れてしまったこともあってか、後ろにはぞろぞろとたくさんの人が来ていて、もし周りに人がいたら異様だと思われるだろう。
まあ、王家所有の地だからあまり周りに人は居ないんだけれど。
段々と見覚えのある風景が近づいてくる。ツキン、ツキンとちょっとずつ痛み始める頭。
そしてある場所でシエル様は足を止めた。
「大丈夫?」
眉を顰めているわたしを心配そうに見つめる彼。「大丈夫」といって、その風景をじっと見つめてみる。
「ここはね、八年前にとある事件が起こった場所なんだ……何か覚えてる?」
八年前。八年前ならわたしは八歳だ。八歳……
痛む頭を抱えながらも必死に思い出そうとする。めまいもして真っ白になった頭の中にある情景が浮かんだ。
たくさんの子ども達。わいわいお話ししたり遊んだり。お茶を飲んだり。その中にわたしは立っていた。
隣にはシルエットだけの……男の子? わたしはなんだか楽しい気持ちだったと思う。うきうきしているのが伝わってくる。
ぐるりと場面が変わる。今度はシルエットだけの女の子が目の前に立っている。隣には、気を失っているのか動かない男の子。
その女の子はわたしに何かを手渡す。その手渡されたものをわたしは飲んだ。
そこで意識は途切れた……
「あれ……」
パチリと目を覚ますとわたしは横になっている。周りを見渡すと一面の緑。どうやらまだ外のようだ。
意識がはっきりしてくる。わたしは膝枕されているようだ。上を見ると心配そうなシエル様。
ああ、わたし、シエル様に膝枕されてるんだ……
体を起こそうとしたけど、それは彼の腕で止められていた。
「もう少し休んで。今馬車を向かわせてるから」
そうか、まだ少し頭が痛い。わたしの瞼は重くて、すぐに目を閉じた。
「やっぱり僕は思い出してもらいたくない。それで彼女の心が手に入るのだとしても」
「でも、それじゃあダメだと思うわ。ルシアにとっても、シエル、あなたにとっても」
「でも、彼女に辛い思いは……」
「それを決めるのはルシアよ、あなたじゃない」
「……」
そう、これはわたしが決めたこと。だからそんな悲しそうな顔をしないで。
大丈夫。きっと大丈夫だから……
パチリと目を覚ます。妙にスッキリした気分だった。あの記憶のシルエットは誰かわからないけれど、わたしはとある女の子に薬を飲まされた。どこかはわからないけれど、そばには同じくらいの男の子がいた。
それだけははっきりと思い出した。
「ルシア。大丈夫? 最近これしか言っていない気がするね」
苦笑しながら優しく髪を撫でてくれる。どうしてこんなに安心するんだろう。両親とは違う安心感。これは一体なんなんだろう。
心地いい。
「もっと撫でて」
全ての不安が消し飛ぶような気がする。もっと撫でて。もっとわたしを安心させて。
とろとろの目でわたしをたくさん撫でてくれる。こんな時間がもっと続けばいいのに。
――どうして? どうしてそう思うの? 思い出して……
やっと起きたわたしは、激しい頭痛の最中に思い出した記憶について話した。二人ともなんだか悲しそうな、辛そうな表情をしていたけれど。
きっと心配しているだけねなんて、呑気に考えていた。
「さて、次はどうする?」
そうか、次の手がかりが掴めていないのか。「んー……」と考え込むわたし。
「あそこで開かれていたお茶会の参加者って、誰ですか? 学園にいた人たちには何も感じなかったから会ったことない人な気がするんですけど……」
あの場所はあれ以上いることはできないだろう。二度も倒れてしまったのだ。あまり迷惑もかけられないし、わたしの謎の感覚が違うといってる気がする。
「わかった。今すぐ王宮で調べさせるよ。キース、頼んだ」
「はい」
突如現れたキース様にびっくりしているうちに彼はいなくなった。忍者かな……?
なんだかよくわからないことになっているけど、わたしは周りに恵まれているらしい。だからこそ記憶を探すことを決断できたのだ。
「ありがとう、シエル様、ノーラ様。これからも迷惑かけるかもしれないけれどよろしくね」
その言葉に三人で笑い合った。
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