2 / 25
2
しおりを挟む
瞼が重い。これ、目腫れてるかな……
何か冷やすものを持ってこようとベッドを降りるとそこに人影があった。
誰? なんて聞かなくてもわかる。
「ウィル、勝手に入ってこないでよ」
漆黒の髪に赤い瞳。もう一人のわたしの幼馴染だ。
ウィリアム・ハーベスト。ハーベスト辺境伯の長兄で後継だ。小さい頃、お茶会で出会って以来、よく一緒に遊んでいた。わたしは王都の学園で淑女の教育を受けていたけど、彼は騎士科だったためあまり一緒にはいなかった。
それでも良くこうしてアポなしで我が家にやってくるのだ。
ちなみに使用人もいるのだが、幼いころからの仲なので顔パスで入ってこれるのだ。
というか年頃の男女なんだからいい加減気にしてほしいのだが。
「なんで?俺とローズの仲だろう。今更必要ないだろ」
お口が悪いの二号だ。ちなみに三号はわたし。
「あのねぇ、もういい加減お互いいい歳なんだから少しは気にしなさいよ」
この国では十八歳で結婚できる。婚約はもっと早くてもいいらしい。それこそ生まれた時からでも。
家同士の争奪戦なのだ。
ちなみにわたしも彼も婚約者などいないのだけど。
わたしにも貴族の観点からすればとてもいい縁談が実は来ていたそうだ。侯爵家の嫡男、アントニー・ボイルという人から。
しかしいつの間にかその話はなくなったらしい。お父様も首を傾げていたけれど。
その人とはどこかの夜会に参加した時にちらりと見た程度だったと思うのだけど、全然覚えていない。
きっと向こうから取り下げたのだろう。気にしないことにしている。
ウィルの縁談がどうなっているかはわたしは知らないけれど、幼馴染という贔屓目を除いても超がつくほどの優良物件だ。
いまだに婚約者がいないってことは、どこかに意中の女の子がいるに違いない。
「それよりなんで泣いていた」
わたしの隣に座った彼は右手で目尻を拭ってくれる。本当、こんな気遣いできるなら女の子なんて一瞬で落ちるでしょうに。
「なんでもないわよ」
いつものように突っぱねる。本当、素直じゃないって自分でも思う。
ゲームのヒロインみたいに素直な方がモテるのに。わかっていてもできない。
そんなわたしに眉を顰める彼。
「なぜ言わない」
「あなたには関係ないからよ」
その瞬間、彼に両腕を掴まれてそのまま後ろに押し倒された。
「きゃ、何するの」
綺麗な紅い目を鋭く細めている。あ、これ本気で怒ってる顔だ。
「……ごめんなさい」
「何に対して謝ってるの」
ジリジリと彼の顔が近づいてくる。早く答えなくちゃ
「ウィルのこと関係ないって言ったこと」
鼻と鼻がくっついたところで彼は止まる。胸がドキドキしていてうるさい。彼にも聞こえそうなくらい、高鳴る。
おそらく顔は真っ赤だろう。目をそらそうにも吸い込まれそうな彼の目から視線を外せない。
「あとは?」
え、まだあるの?
再び近づく。わたしが口を開く前に唇が重なって、わたしは何も言えなかった。
「さあ、吐け」
いや、ちょっと待って。なんでそんな平然としてるの。いや、彼はモテる。もしかしたらわたしなんかと違って、経験があるのかも知れない。
一旦落ち着こう。深呼吸……
「言うまでやめないから」
そういうと彼は何度もわたしの唇を奪っていて。
結局言えたのは何十回目だったろうか。キスするまでの時間が短すぎて、ちょっとずつしか言葉を紡げなくて。
最後まで言い切ったわたしに満面の笑みを浮かべながら彼はこう言った。
「知ってる」
あの日以来、ずっと彼のことを考えていた。
なぜキスされた? わたしが素直じゃないから? 面白そうだから?
人の唇奪っておいて結局知ってたなんて。
そう、わたしとウィルとマクルトはそれぞれ幼馴染で、わたしがマクルトのところへいけばすぐバレて。
なんかよくわかんないけど怒られて。
わからない。幼馴染で小さい頃から一緒で。それでも、今の彼が何を考えているのかわたしは全然わからなかった。
わたしがわかるのは自分のこの気持ちだけ。
でもこれは墓場まで持って行くの。
だって、この借金を返すためには、この気持ちは邪魔だもの。
おばあちゃんになるまで、彼のことを遠くからでも見守り続けていけたら。
それだけでいいもの。
何か冷やすものを持ってこようとベッドを降りるとそこに人影があった。
誰? なんて聞かなくてもわかる。
「ウィル、勝手に入ってこないでよ」
漆黒の髪に赤い瞳。もう一人のわたしの幼馴染だ。
ウィリアム・ハーベスト。ハーベスト辺境伯の長兄で後継だ。小さい頃、お茶会で出会って以来、よく一緒に遊んでいた。わたしは王都の学園で淑女の教育を受けていたけど、彼は騎士科だったためあまり一緒にはいなかった。
それでも良くこうしてアポなしで我が家にやってくるのだ。
ちなみに使用人もいるのだが、幼いころからの仲なので顔パスで入ってこれるのだ。
というか年頃の男女なんだからいい加減気にしてほしいのだが。
「なんで?俺とローズの仲だろう。今更必要ないだろ」
お口が悪いの二号だ。ちなみに三号はわたし。
「あのねぇ、もういい加減お互いいい歳なんだから少しは気にしなさいよ」
この国では十八歳で結婚できる。婚約はもっと早くてもいいらしい。それこそ生まれた時からでも。
家同士の争奪戦なのだ。
ちなみにわたしも彼も婚約者などいないのだけど。
わたしにも貴族の観点からすればとてもいい縁談が実は来ていたそうだ。侯爵家の嫡男、アントニー・ボイルという人から。
しかしいつの間にかその話はなくなったらしい。お父様も首を傾げていたけれど。
その人とはどこかの夜会に参加した時にちらりと見た程度だったと思うのだけど、全然覚えていない。
きっと向こうから取り下げたのだろう。気にしないことにしている。
ウィルの縁談がどうなっているかはわたしは知らないけれど、幼馴染という贔屓目を除いても超がつくほどの優良物件だ。
いまだに婚約者がいないってことは、どこかに意中の女の子がいるに違いない。
「それよりなんで泣いていた」
わたしの隣に座った彼は右手で目尻を拭ってくれる。本当、こんな気遣いできるなら女の子なんて一瞬で落ちるでしょうに。
「なんでもないわよ」
いつものように突っぱねる。本当、素直じゃないって自分でも思う。
ゲームのヒロインみたいに素直な方がモテるのに。わかっていてもできない。
そんなわたしに眉を顰める彼。
「なぜ言わない」
「あなたには関係ないからよ」
その瞬間、彼に両腕を掴まれてそのまま後ろに押し倒された。
「きゃ、何するの」
綺麗な紅い目を鋭く細めている。あ、これ本気で怒ってる顔だ。
「……ごめんなさい」
「何に対して謝ってるの」
ジリジリと彼の顔が近づいてくる。早く答えなくちゃ
「ウィルのこと関係ないって言ったこと」
鼻と鼻がくっついたところで彼は止まる。胸がドキドキしていてうるさい。彼にも聞こえそうなくらい、高鳴る。
おそらく顔は真っ赤だろう。目をそらそうにも吸い込まれそうな彼の目から視線を外せない。
「あとは?」
え、まだあるの?
再び近づく。わたしが口を開く前に唇が重なって、わたしは何も言えなかった。
「さあ、吐け」
いや、ちょっと待って。なんでそんな平然としてるの。いや、彼はモテる。もしかしたらわたしなんかと違って、経験があるのかも知れない。
一旦落ち着こう。深呼吸……
「言うまでやめないから」
そういうと彼は何度もわたしの唇を奪っていて。
結局言えたのは何十回目だったろうか。キスするまでの時間が短すぎて、ちょっとずつしか言葉を紡げなくて。
最後まで言い切ったわたしに満面の笑みを浮かべながら彼はこう言った。
「知ってる」
あの日以来、ずっと彼のことを考えていた。
なぜキスされた? わたしが素直じゃないから? 面白そうだから?
人の唇奪っておいて結局知ってたなんて。
そう、わたしとウィルとマクルトはそれぞれ幼馴染で、わたしがマクルトのところへいけばすぐバレて。
なんかよくわかんないけど怒られて。
わからない。幼馴染で小さい頃から一緒で。それでも、今の彼が何を考えているのかわたしは全然わからなかった。
わたしがわかるのは自分のこの気持ちだけ。
でもこれは墓場まで持って行くの。
だって、この借金を返すためには、この気持ちは邪魔だもの。
おばあちゃんになるまで、彼のことを遠くからでも見守り続けていけたら。
それだけでいいもの。
41
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
天才魔術師から逃げた令嬢は婚約破棄された後捕まりました
oro
恋愛
「ねぇ、アデラ。僕は君が欲しいんだ。」
目の前にいる艶やかな黒髪の美少年は、にっこりと微笑んで私の手の甲にキスを落とした。
「私が殿下と婚約破棄をして、お前が私を捕まえることが出来たらな。」
軽い冗談が通じない少年に、どこまでも執拗に追い回されるお話。
【完結】婚約破棄を待つ頃
白雨 音
恋愛
深窓の令嬢の如く、大切に育てられたシュゼットも、十九歳。
婚約者であるデュトワ伯爵、ガエルに嫁ぐ日を心待ちにしていた。
だが、ある日、兄嫁の弟ラザールから、ガエルの恐ろしい計画を聞かされる。
彼には想い人がいて、シュゼットとの婚約を破棄しようと画策しているというのだ!
ラザールの手配で、全てが片付くまで、身を隠す事にしたのだが、
隠れ家でシュゼットを待っていたのは、ラザールではなく、ガエルだった___
異世界恋愛:短編(全6話) ※魔法要素ありません。 ※一部18禁(★印)《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~
二階堂まや
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。
ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。
しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。
そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。
「君と勝手に結婚させられたから愛する人に気持ちを告げることもできなかった」と旦那様がおっしゃったので「愛する方とご自由に」と言い返した
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
デュレー商会のマレクと結婚したキヴィ子爵令嬢のユリアであるが、彼との関係は冷めきっていた。初夜の日、彼はユリアを一瞥しただけで部屋を出ていき、それ以降も彼女を抱こうとはしなかった。
ある日、酒を飲んで酔っ払って帰宅したマレクは「君と勝手に結婚させられたから、愛する人に気持ちを告げることもできなかったんだ。この気持ちが君にはわかるか」とユリアに言い放つ。だからユリアも「私は身を引きますので、愛する方とご自由に」と言い返すのだが――
※10000字前後の短いお話です。
ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。
しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。
そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。
王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。
断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。
閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で……
ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる