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「あらあなた。こんなところで何をしているの?」
 ある貴族の子供たちの集まりに参加していたら、すみの方でうずくまっている男の子を見つけた。
「みんなが僕をいじめるんだ。髪の色と目の色が変って」
 じっと観察したわたしは彼に告げる。
「あら、艶々の漆黒の色なんてかっこいいじゃない。その真っ赤なおめめも素敵よ。あなたかっこいいじゃない」
「……本当?」
「そうよ。みんな違うのは当たり前だもの。それにあなたがかっこいいからみんな嫉妬しているだけよ」
「……君は僕のことかっこいいと思う?」
 不安そうな顔で聞いてくる男の子にわたしは堂々と答える。
「わたしはこの中ならあなたが一番素敵だと思うわ」
 目を見開いている男の子の手を取り、歩き出す。
「さ、一緒に遊びましょう?」
 弾けんばかりの笑顔で男の子は頷いた。



 ーー××年後
「さあ、ローズ。一緒に気持ちよくなろう」
 あんなに可愛かったのに、どうしてこうなるのよー!




  わたしの名前はローズ・フェローズ。軽く韻を踏んでいるけど気にしちゃだめ。だってわたしはモブだもの。
 どうやらわたしは転生というものをしてしまったらしい。そしてここは前世で流行っていた乙女ゲーム『蒼き花に舞う春』の世界の中そのものなのだ。
 そんなわたしはその中のヒロインでもなく、悪役令嬢でもなく、ただのモブだ。
 それもかなり可哀想な境遇らしい。
 ゲーム内では、ちらりと噂話に上る程度のどうでもいい存在だ。
 ゲームは学園生活の中で、王太子殿下とヒロインの伯爵令嬢が悪役令嬢の公爵令嬢の邪魔をかい潜って結ばれると言うもの。もちろん他にも攻略対象と呼ばれる人たちはいたのだけれど、結局は王太子殿下とくっついたみたい。
 なんでそんなことを知っているかというと、もうゲームの舞台は終わっていてアフターストーリーになっているからだ。
 その後の物語は紡がれておらず、これからどうなるのかはわからないけれど。
 いちモブにすぎないわたしのことなんて、全く描かれていなかった。

 そうそう、ゲーム内でわたしが登場したのは、生徒たちの噂話だ。わたしの家は子爵家なのだけれど、お父様が毎回毎回借金をこさえてきて、それをわたしが身を粉にして働いて返していた。その話がちらりと出るだけで、あとは全くわからない。


 いつからかわからないけれど、お父様は嘘の投資話に乗ったり、借金の保証人になったりして定期的に借金を作るようになった。
 お父様自体は人柄も良くて優しいのだが、どうにも騙されやすいみたい。
 その借金を返すためにわたしはある人から仕事を紹介してもらって、なんとか返してきた。
 しかし、しかしだ。
 今回ばかりは頭を抱えてしまっていた。
 なぜならその借金は普通の仕事では到底返せないものだったから。どこでどうふっかけられたのかは知らないけれど、わたしはそれでもお金を用意しなければならない。
 なぜならわたしの六つ下に可愛い弟がいるのだ。弟はとても賢くて、可愛い。きっと子爵家を継いでくれれば、この借金地獄から抜け出すことができる。
 だから、それまではなんとかして爵位は維持しなければならないのだ。

  覚悟を決めてわたしはある人のところへ向かった。




「は?どうやったらそんなに借金が増えるんだよ」
 この口が悪いのは幼馴染のマクルト・オリーブ。茶色い髪をツンツンさせている子爵令息だ。
 彼の家は商売をいろいろやっていて、働き口の斡旋もやってくれているのだ。気心知れた仲で今ではわたしは彼のお得意様だった。
 今までの借金返済の際も無理を言ってお給金のいいところを紹介してもらっていた。

「わからないわよ。でも返さなきゃいけないじゃない……弟のこともあるし、せめて爵位が継げる歳になるまでは」
「その気持ちはわかるが……その額だと体売らねぇと無理だぞ」
 そうなのだ。借金の額が大きすぎて、もう最終手段に出るしかない。わたしはもう結婚は諦めているし、しょうがない。
「……玉の輿に乗って相手に返してもらうとかは?」
 その言葉に押し黙ってしまう。わたしは結婚する気はない。お金のために結婚なんてしたくない。
 だったらもういっそのこと、体を売ってもいい。
 マクルトの袖を両手でぎゅっと掴む。
「お願い……結婚はできない。なんでもするから」
「……ウィルもダメか?」
 その言葉に私の肩がピクリとする。
「だめ。わたしなんかのために彼の人生を縛りたくない」
 目に涙が溜まってくる。彼だけは絶対だめだ。
「わかったよ。ちょっと探してみるから家で待ってろ」
 頭を掻いた彼はその後でわたしの頭を撫でてくれた。



 家に帰るとなんだか涙が溢れてくる。
 そのまま声を押し殺して泣いてしまった。
 
 
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