ゲノム～失われた大陸の秘密～

第三章【パシフィス王国編】

大魔法使いリゼルタの講演

スペルキャスト・デイの最終日、参加者たちは広大な闘技場に集まっていた。
この闘技場は、かつて剣闘士たちが戦いを繰り広げた歴史ある場所で、
今では魔法使いたちの技を披露する場として使われている。
石造りの観客席は円形に並び、中央には広々とした砂の舞台が広がっていた。

ライトと村田もその一角に座り、期待と興奮が入り混じった表情で舞台を見つめていた。

「にしても、この街にこんな場所があったなんてな」
村田は周囲を見渡しながら言った。
その声には、初めて訪れる場所への驚きが含まれていた。

「すごいね、ここで一体何をするんだろう？」
ライトは目を輝かせ、興奮を抑えきれない様子で舞台を見つめた。

会場がざわつき始めると、突然、中央の舞台に現れたのは威厳溢れる老人。
紳士を思わせる服装、高い身長、黒く丸い眼鏡をかけ、美しい白髪の持ち主だった。

「皆さん、ようこそ。私はリゼルタ。この素晴らしいスペルキャスト・デイの最終日に、皆さんにお会いできて光栄です」
リゼルタの声は低く、しかし響き渡るように観客席に届いた。
その声には、長年培われた経験と知識が詰まっていることが感じられた。

「ここまで皆さんは魔法の安全な使い方、楽しい使い方を学んできたかと思いますが、私からは魔法の危険性について..」
観客たちの表情も、彼の言葉に引き込まれるように真剣になっていった。

「まず、魔法による放火、強盗、殺人等の犯罪行為は多岐にわたる。魔法とはそういう使い方もされるのです」
リゼルタの言葉に、会場全体が静まり返った。誰もがその重い現実に直面しているようだった。

「では、もしそのような犯罪に巻き込まれたら..魔法を使うものに襲われたらどうすればいいのか..」
彼の言葉はさらに観客の注意を引きつけ、皆が次の言葉を待った。

「今回はそのような場面に出くわしたときの対処について、私からご教授いたしましょう」
リゼルタの目が鋭く光り、観客たちは一層集中して彼の言葉に耳を傾けた。
闘技場の空気は緊張感で満ちていたが、
その中には自分たちが学ぶべき重要な知識を手に入れるという期待感も溢れていた。

リゼルタは一度深呼吸し、観客の注目を集めながら話を続ける。
彼の落ち着いた姿勢と自信に満ちた声は、聴衆の期待感をさらに高めていた。

「では、身を守るためにどのような魔法を使えばいいかについてお話ししましょう。犯罪にはファイアが多く用いられることが多いのですが、これに対抗するにはアクアを使うことが効果的です」
リゼルタは手元に小さな水の球を浮かべ、観客に見せながら説明を続けた。

「ファイアはアクアによって相殺されます。では実演してみましょう、この生徒にファイアを使って攻撃してもらいます」
リゼルタの指示に従って、LMAの生徒の一人が舞台に登場した。
若い男性で、自信に満ちた表情を浮かべている。

若い生徒は一歩前に出て、手から強烈なファイアボールを生成し、リゼルタに向かって放つ。
その瞬間、観客からは緊張した息遣いが聞こえた。

リゼルタは冷静に手を前に出し、「アクア」と唱えると、手のひらから勢いよく水が噴き出し、ファイアボールに向かって飛んでいった。
水と火がぶつかり合い、激しい蒸気が舞台上に立ち込めたが、ファイアボールは完全に消え去った。

「ご覧の通り、相殺できましたね。身を守るためには、このように状況に応じた魔法の使い方を覚えておくことが大切です」
リゼルタは微笑みながら、観客に向かってそう言った。

「では、少しレベルを上げてみましょう。今度はファイアだけでなく、ウィンドとサンダーも攻撃に追加します」
先ほどの生徒の他に二人の生徒が入場し、計三人となった。
彼らの顔には緊張と興奮が入り混じっていた。

「では....殺す気でかかってきなさぁい..」
リゼルタは生徒にのみ聞こえる声量で挑発するように言った。
その言葉に、生徒たちは身を引き締め、集中力を高めた。

三人の生徒はそれぞれリゼルタに向けて、ファイア、ウィンド、サンダーを全力で放った。

まず、ウィンドの生徒の攻撃に狙いを定めたリゼルタは、
竜巻のように迫りくるウィンドを逆回転のウィンドで相殺した。
さらに、後方の地面に向けてウィンドを放ち、
その反動を利用して前方に素早く移動し、ファイアとサンダーの攻撃を回避した。

ウィンドの生徒は諦めずに、リゼルタの顔面目掛けて近距離から刃のごときウィンドを放った。
しかし、リゼルタはそれを目視で回避し、反動で得た慣性を利用して後ろに回り込んだ。
リゼルタは素早く杖で生徒のうなじを叩き、彼を気絶させた。

同時に、振り返りながらウィンドとアクアの複合魔法をディスク上に回転させて放ち、
カーブを描いて残りの二人の生徒に向かわせた。
その攻撃はファイアを相殺し、サンダーを吸収して、
最終的にウィンド、アクアとサンダーの複合魔法が二人を襲った。
観客たちはその見事な技術に驚嘆し、大きな拍手と歓声を送った。

「すごいね、三人を相手にあんなにあっさりと..」
ライトは目を輝かせながらリゼルタの実演に感嘆した。

村田達の席より少し後方の席に座り参加、
もといストーキングしていたケイラもリゼルタの動きに驚いていた。
（魔法がすごいのはわかってたけど、体術も普通じゃない....あいつ何者なの..？）
ケイラはその卓越した技術に圧倒されていた。

実演に参加した生徒たちがゆっくりと起き上がり退場すると、リゼルタは観客に向かって話を続けた。
「このように臨機応変に対応することで安全に対処が可能です」
観客たちはそのレベルの高さに圧倒され、
心の中で（レベルが高すぎて参考にならないよ...）と感じていた。