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第三章【パシフィス王国編】

異変

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村田達が寝室から出ると、朝の新鮮な空気が肺を満たす。
焼きたてのアップルパイの芳醇な香りが彼を迎え、その香りはまるで温かな抱擁のようだった。

「おはようございます」
村田がカウンターにいるケラプに向けて礼儀正しく挨拶する。

「おはよう..よく眠れたかな」
ケラプは平静ながらも温かみのある声で応えたが、表情には変化がなかった。

「うん!」
ライトが元気よく応える。
彼の顔は眠りから覚めたばかりの生気でいっぱいだった。

「うむ..腹も減ったろう..もうできてるから食べなさい」
ケラプは微笑みながら、席にすでに用意されていた二つのアップルパイを指さした。

「いただきます。ところで、ケイラは..?」
村田がケラプに尋ねると同時に、
彼は少し心配そうにソファに横たわっているケイラの方をちらりと見た。

「まだ目覚めていないね..今は普通に寝ているだけみたいだが」
ケラプは冷静に答えたが、目にはわずかに懸念が見え隠れしていた。

村田はケイラの寝姿に違和感を覚え、
「ケラプさん、タオルと水借りてもいいですか?」
と言った。

「問題ないが..どうされた?」
ケラプは眉をひそめながら尋ねた。

村田は迅速にケイラのもとに駆け寄り、手の甲で彼女の首に触れた。
「やっぱり、熱ありますね。」
彼は水で濡らしたタオルをケイラの首の後ろに優しく置いた。

その時、ライトがふと二人の方を見て不安そうに声を上げた。
「おねえちゃん大丈夫?」

「ただの熱ならな..先日聞いた『ルクス病』かもしれない」
村田は応える。

「いや..今彼女からは魔力をわずかにしか感じない..これはおそらく魔力欠乏によるものだ」
彼女の説明には専門的な知識と経験が垣間見えた。

その言葉は村田にとって新たな知識であり、
「魔力欠乏..ですか?」
と繰り返し、その意味を理解しようとした。

ケラプはさらに説明を加え、
「文字通り魔力が足りていない状態のことだ..前日に魔力を大量消費するとこうなる..まぁ筋肉痛みたいなものだと思えばいい」
と続けた。
その例えは村田にとってなんとなく理解できるものであった。

一方、ライトはこれに対して
「僕はなったことないなー」
と軽くコメントし、その言葉には少しの安堵と無邪気さが混ざっていた。

「なるほど..ただ何日も熱が下がらないようでしたら病院に連れて行くようにしましょう」
と安全の確保を提案した。

それを受けてケラプが、
「そうだね..ここから先は食べながらゆっくりと話そう..」
と穏やかに提案し、三人は朝食のためにテーブルへと向かった。
三人は朝の光を背にしながら、ケイラのこと、そして昨夜の出来事について語り始めた。
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