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第三章【パシフィス王国編】

ケラプの店

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ケラプの店は、町の片隅にひっそりと佇む小さなカフェだった。
その控えめな外観は、賑やかな城下町の喧騒から一歩離れた、
隠れ家のような落ち着きを漂わせていた。
村田とライトは期待を胸にその扉を押し開けた。

空気には温かさと歓迎の気持ちが溶け込んでおり、
疲れた旅人たちを優しく迎え入れてくれるようだった。
昼のピークタイムが過ぎ、店内は穏やかな雰囲気に包まれていた。
また、いくつかのテーブル席が空いており、
窓際の明るい光が心地よい空間を演出していた。

しかし、その安らぎはすぐに意外な光景によって揺らぎ始めた。
店の奥から姿を現したのは、
白いエプロンを身にまとった身長2mにも及ぶ筋骨隆々なおばあさんだった。
彼女の登場に、村田とライトは思わず目を見張った。

「いらっしゃい..席へ..どうぞ..」
そのドスの効いた一言に、二人は少し緊張しながらも席に着いた。
村田は心の中で、事前に想像していたス〇ラおばさんの優しげなイメージとのギャップに驚いていた。

メニューを手に取り、ページをめくると、
そこには「アップルパイ」という文字が、まるで狂ったように書き連ねられていた。
文字の一つ一つからは、ケラプおばさんのアップルパイへの情熱がひしひしと伝わってきた。
しかし、その熱意の表現方法に、村田とライトは戸惑いを隠せなかった。

「メニューとは...?」
村田は心の中でつぶやき、
このユニークなカフェでの体験に何を感じるべきか、少し考え込んでしまった。

ライトはこの異様な状況に完全に委縮しており、一言も言葉が出ない。

その沈黙を破ったのは、いつの間にか彼らのテーブルに近づいていたケラプおばさんだった。
「お決まりでしょうか..」
彼女の低く響く声に、

村田ははっと我に返り、
「あっ、はいっ!アップルパイ二つで!」
と、村田はややあわてた様子で注文した。
ライトはまだ言葉を発することができずに、ただ村田の横顔を見つめていた。

「..かしこまりました、少々お待ちを..」
そう言うとケラプおばさんは厨房に消えた。
彼女の背中が見えなくなると、店内の緊張感がほんの少し和らいだ。
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